第22話 俺の家に誰かが引越して来る

 俺が持っているお金は80万円だった。そこから40万は税金で持っていかれるから、使えるお金は40万だけである。

 元々120万円だったものが税金を抜かれたら40万円しか残らん。渋い。渋すぎる。


 とりあえず10万円ぐらいは置いておかないといけないだろう。白石さんにお金も返えさないといけないし。

 使えるお金から10万円を抜いた残りの30万を母親に渡すことに決めた。



 母親はキッチンで料理を作っていた。


「オバハン」

 と俺が言った。


「ちゃんと学校辞めて来たんか?」

 と母親がキャベツを千切りしながら言った。


「辞めて来たわ」

 と俺が言う。


「そうか」

 と母親が言った。


「ごめんな」

 と俺は呟いた。


 俺は何に対して謝ったんだろう?

 こんなアホでごめんな、なんかな?

 高校を辞めてごめんな、なんかな?

 学校を辞めて働いてほしい、というのは親の意向だった。

 だけど俺が、もっと真面目に勉強をしていたら別の世界線があったんだろう。

 育ててくれた母親に対して、普通の人生を挫折したことを謝らないといけない、と思ったのかもしれない。

 かもしれない、というのは自分でも謝ってる理由がわからないのである。


「ホンマにごめんな」と俺は言って、庭で草むしりをする父親を見た。


「ええよ」と母親が言う。

「今日はカレーやで」


「匂いでわかってる」と俺が言った。


「そうか」と母親が言う。


「オバハンこれ」

 と俺は母親に封筒を差し出す。


「なんやの?」

 と母親が尋ねる。


「食費代と部屋の家賃」

 と俺が言った。


 母親が封筒を受け取り、中身を覗く。

「多くない?」


「家ヤバいんやろう?」


「ヤバいよ」と母が言った。

「でも子どもから、こんなに貰われへん」


「ええよ。住ませてもらってるし」

 と俺が言う。


 なぜか母親は気まずそうな顔をした。


「家賃代はええわ」

 と母が言う。


「えっ、なんで?」


「アンタの部屋を人に貸すことにしてん」


「なんやねん、それ」と俺が言う。「早く断ってや」


「無理や。もう10万貰ってるんやもん。もう荷物を持ってコッチに来てる最中やで」


「あのしょーもない部屋で10万もとったんか?」

 と俺が驚く。


「食費もこみこみやで」と母親が言う。


 一人暮らししたことがないから高いか安いかわからん。


「ほんじゃあお姉ちゃんの部屋に住むわ」

 と俺が言う。


「モ〇〇クやってるやん。お姉ちゃんの部屋は荷物置きになってるわ」

 と母親が言う。


「ほんじゃあ俺はどこで寝るん?」

 と俺は尋ねた。


「知らん」

 と母親が言う。

「アンタのスキルは1人部屋やで。なんとでもなるやろう」


「スキルには制限があんねん」

 と俺が言う。

 普段使っていたら本当に必要な時に使えなくなってしまう。


「それじゃあリビングで寝たらええやん」

 と母親が言う。


 俺、男やで? 1人エッチとかリビングでしろってことか?


「とりあえず15万は貰っとくわ」

 と母親が言って、封筒からお金を抜いた。


「もっと貰ってええよ」と俺が言う。


「アンタも色々とお金が必要やろう? 税金もかかるし、アイテムとかも買わなアカンやろうし」


「ちゃんと税金の分は抜いてる」と俺は言った。


「ええよ。ただ毎月10万くれたら助かるわ」

 と母親が言った。


「ヒマリの学費とかも必要やろう?」

 と俺が言う。


 俺は勉強ができなかった。だけど妹は違う。ヒマリは勉強ができるのだ。だから、ちゃんと勉強して、俺みたいにならないでほしい。ダンジョンになんて入らないでほしい。


「それじゃあ毎月15万は貰うわ。5万はヒマリの大学費用に貯めるわ」


 ポクリ、と俺は頷く。


「ホンマに月15万も払えるの?」

 と母親が心配そうに尋ねた。


「大丈夫やって」と俺が言う。


「コレはアンタが持っとき」

 とオバハンが封筒に入った残りのお金を差し出した。


 封筒を俺は受け取った。無駄使いせんとこう。もっともっと妹にお金が必要になった時のために俺も貯めといてあげよう。


 ピンポーンとチャイムの音が鳴った。


「来たわ」と母親が言う。


「誰?」と俺は尋ねた。


「今日からウチで住む子に決まってるやん」


「なんで決まってんねん。Amazonかもしれんやん」


「ウチにはAmazonさんは、もう来ません」

 と母親が言う。


「中学生になった時のサンタさんが来ない宣言みたいに言うなや」


「ええから玄関出て」と母親が言う。


「なんで俺が?」


「アンタの知り合いやで」

 と母親が言う。


「ホンマに誰?」


「お母さんは料理を作ってるの。早く出てあげて」


 わかった、と俺は言いながら玄関に向かった。

 俺の知り合いが引っ越して来る? 

 ホンマに誰?


 見当もつかなかった。


 俺は玄関の扉を開けた。

 

 そこにいたのは大量の荷物を持った、白石さんだった。

 

 なんで白石さんが、俺の家に来たん?

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