第21話 キショく悪いスキル
進路相談室で、俺は海山に睨まれていた。
「お前、ふざけてんのか?」
と先生は言った。
海山は約束の日に退学届けを貰いに来なかったことに対して怒りを露わにしていた。
「すみません」
と俺の代わりに、隣に座る父親が謝った。
俺はこんな奴に対して謝ってほしくなかった。
「忍は初めてダンジョンに潜ってたんです。それで帰られへんようになってしまってんな?」
オッさんは俺に尋ねた。でも俺は答えず、先生を睨んだ。
「先生の方がふざけているでしょう」
と俺が言う。
イライラしすぎて体が熱い。
「なに言っとんねん。なんで約束破られた側がふざけてるって言われなアカンねん」
と海山が怒鳴った。
父親が目を伏せ、手をブルブルと震わせている。
「なんで毎日のようにウチに来てんっすか? なんでウチのオッさんを毎日のように殺してんっすか?」
と俺は言った。
父親を殺され続ける苛立ちがあった。
「それはな」と先生が言う。
「お前のお父さんには、どれだけダンジョン経営が難しいかって教えてるんや。ちゃんと働いて子どもに教育の機会を与えるのが親の務めや、って伝えてんのや」
「それで毎日、ウチのオッさんを殺してるんっすか?」
「そうや」と先生が言った。
そうや、の言い方がバリ怖い。
コイツの中では教育者として父親をダンジョンで殺すことの辻褄が合っているんだろう。
「俺が退学したら、先生とは関わり無いっすよね? もう来ないでください」
と俺が言う。
「退学しても俺はお前のことを生徒やと思ってる」
と海山が言った。
その言葉が怖すぎて寒さを感じる。大雪が降っていないとオカシイぐらいの寒さである。
「次に来たら俺が相手しますよ」
と俺が言う。
「ダンジョンに1回入っただけで調子に乗ってんちゃうぞ」
と海山が怒鳴った。
俺は海山を睨んだ。
「なんや。その反抗的な目は」と先生が言う。
「そんなんやからイジメられるんちゃうんか?」
「アイツ等にウチのダンジョンのことを教えたのは先生っすか?」
と俺は尋ねた。
山田家のダンジョンにイジメっ子ヤンキーが来たのだ。
先生の仕業だろう。
「そんな話をしたかな」
と海山がトボける。
ホンマに海山を殺したい。
「すみません」
と父親が謝った。
こんな奴に謝るなよ、と俺は思う。
「とりあえず退学届けを書いて帰ろう」
とオッさんが言った。
オッさんの足が震えている。オッさんの手が震えている。
俺は退学届けに名前と生徒手帳に書かれたID番号を書く。それに父親はサインした。
「山田」と先生が言った。
俺は何も返事をしない。
「社会を舐めんなよ」
と海山が言った。
「ブチ殺したる」と俺が言う。
父親が俺の頭を叩く。
「先生、書きました」
とオッさんは言って、退学届けを海山に渡した。
「早よ、帰るで」
と父親が素早く立ち上がり、「失礼しました」と言って、進路相談室から出ようとした。
「山田のお父さん」と海山が父親を呼んだ。
幽霊がいたみたいな表情をしながら父親が振り返る。
「またダンジョンに行きます」
と海山が不敵な笑みを浮かべた。
俺は先生を睨む。
「はぁ」
と父親が返事をして、俺の腕をギュッと掴んだ。
「帰るで」
そして俺達は進路指導室から出た。
進路指導室の前に待っていたかのようにイジメっ子4人がいた。いや、俺達のことをココで待っていたんだろう。
「退学届けを出しに来たんか?」
巨漢ブス金髪の太井が尋ねた。
「早よ帰るで」
とオッさんが足早に歩く。
「オッちゃん、また行かせてもらうわ」
とシュッとしたイケメンの前川が言う。
「今度は内臓を取り出して、首を絞めて殺したる」
と狂気な目をした銀髪の
俺は立ち止まって4人を見る。
福ちゃんは3人の後ろで困ったような顔をしている。コイツ等といることが嫌なんやろうな、ということはわかる。
「次来たら俺が相手する」
と俺は言った。
今まで怖い、と思っていたのが嘘のように何とも思わなかった。
今の俺ならコイツ等をワンパンで倒すことができるだろう。
イジメっ子ヤンキー達は大爆笑だった。
「弱い奴がなに言ってんねん」
と金髪デブブスが言う。
「ええから早よ、行こう」
と父親が言って、俺の腕を掴んだ。
帰りの車の中で、「ダンジョンの幹部にしてくれ」と俺は頼んだ。
「幹部言っても、お前アレやで」
と父親が言う。
「お給金も渡されへんで」
「絶滅危惧種のヤンキーと、イカれ腐った先生を殺せたら、それでええねん」
と俺が言う。
「まだ個人事業主の申請もしてへんから、ウチには幹部とか無いで」
「なんか幹部になったらダンジョンの加護があるって聞いたんやけど」
と俺が言う。
「あのスキルは元々は気に入った冒険者にダンジョンの加護を与えて、魔王の所まで進めさせて自分で殺すためのスキルや」
「なんじゃそれ。キショく悪いスキルやな。なんでわざわざ自分で殺したいねん」
と俺が言う。
「知らんわ」と父親が言う。「頭の中で、そう教えられるんやもん」
「頭の中で? 何を不思議ちゃんぶってんねん」
と俺が言う。
「いや、ホンマに。頭の中でスキルの説明が聞こえるんやって」
と父親が言う。
「ええわ。俺に、そのダンジョンの加護をくれ」
と俺は言った。
「しゃーないな」
と父親が言った。
「手を出せ」
俺は手を出す。
父親が運転しながら俺の手を握った。太くて短い手だった。
「キショく悪っ」
と俺は言った。
「しゃーないやろう。こうしな、ダンジョンの加護が与えられへんねんから」
「さっき冒険者を魔王の所まで進めさせるためのスキルって言ってたよな? 手を握らなアカンかったら、もうすでに魔王の所まで来てるやん」
「お父さんはレベルが低いから、こうしないと加護を与えられへんねや。普通の魔王は手なんて握らん」
と父親が言う。
「まぁええわ。早く加護くれ」
「
と父親が言った。
「そのセリフいるん?」
と俺が尋ねた。
「雰囲気作りや」
と父親が言う。
「そんなんええから、さっさと加護をくれ」
繋いだ手から光が溢れ出す。
そして父親が手を離した。
「これで加護が手に入ったわけやな。っで、どんな加護なん?」
と俺は尋ねた。
「……UFOの茹で時間が3分から2分に短縮される」
と父親がボソリと呟いた。
「えっ?」
と俺は聞き直す。
「だからUFOの茹で時間が3分から2分に短縮される。他のインスタントラーメンは不可」
と父親が言った。
「そんな冗談いらんって」
と俺が言う。
「いや、ホンマやねん」
と父親が言った。
「しょーもな」
あまりにもしょーもなさ過ぎて大声を出してしまった。
「そんな加護やったらいらんかったわ」
「お前がほしい、って言ったんやん」
「ホンマにしょーもないな」
と俺が呟く。
「これで俺は幹部になったんか?」
「幹部ってなんやねん? アレは勝手に人間が決めた後付けルールや。幹部が人を殺しても魔王に寿命は入るし、幹部が殺されても魔王に寿命が入るねんで」
「なんじゃそれ。ほんじゃあ、なんやってん。今までの時間」
と俺が言う。
「その時間、UFOで取り返したらええ」
と父親が言う。
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