第16話 絶対に淫乱

「暑いわ」

 と白石さんが言って、ベッドから立ち上がる。


 彼女のぬくもりが無くなったことが少し寂しいと感じた。

 アカン、アカン。絶対にこの女のことを好きになったらアカン。


「よいしょ。よいしょ」

 と白石さんが言いながらプロテクターを脱ぎ始めた。


「コレ、着心地最悪ねんな」と彼女が呟いた。


 そして上着のプロテクターを脱いだ。

 スポーツブラだった。

 ねずみ色のスポーツブラは汗を吸い込んでいて濃い色になっている。


 下着姿になった白石さんを見て、俺は純粋に純情にドギマギした。

 スポブラやんけ。ありがたいことに汗を吸ってる。何がありがたいねん。

 なんで脱いだん? 暑いから脱いだんだろう。いや、コレは俺を落とすための彼女の罠である。

 今の俺はUFOキャッチャーでギリギリ落ちないように踏ん張ってる状態だった。


 プロテクター、スポブラ、そしてピンク髪のお姉さん。全てがミスマッチで、アンバランスで艶めかしい。

 ミスマッチでアンバランスであることがエロさを増大させている。


 絶対に淫乱やん、と俺は思った。

 そして唱えた。

 

 絶対に淫乱、絶対に淫乱、絶対に淫乱、処女が惜しげもなく下着姿を見せてくれる訳がない。絶対に淫乱、絶対に淫乱。

 淫乱やからなんやねん。スポブラに汗を吸いこんでんねんぞ。

 スポブラに汗が吸い込んでるって、めっちゃ純情やんけ。

 騙されるな。白石さんは純情じゃない。俺のスキルを何かで悪用したいのだ。これは恋愛詐欺である。好きになったら即搾取である。


「なに見てんの? 山田君のエッチ」

 と白石さん。


 白石さんが見せてるんやん、と俺は言いそうになる。だけど言うのをやめる。


 指摘されてガン見していることに気付かされたからだ。


「ごめん」

 と俺は言って、布団の中に潜った。

 だけど隙間から白石さんを見る。

 隙間から見ると覗いてる感じが出て、余計にエロい。


 彼女はズボンも脱いだ。

 アリーナありがとう。アリーナってなに? テンション爆上がりで訳のわからないことを考えてしまう。

 柔らかそうなねずみ色のパンツ。汗を吸い込んだパンツも色が濃くなっている。

 今ではねずみにすら謎の感謝をしたいぐらいである。


「よいしょ。よいしょ」

 と彼女は言いながら、また布団に入って来た。


 プロテクターを付けている時と感触が全然違う。なんか、めっちゃめっちゃ柔らかい。女の人ってこんなに柔らかいの?


 彼女の腕が俺の首の下に入って来る。

 さっきと同じように白石さんは俺に腕枕してくれた。

 さっきよりも濃厚な汗の匂いと女の子特有の甘い匂いがした。

 ヤバい。俺も暑くなってきた。


「チンチンたってる?」

 と彼女が尋ねた。


「たってへんわ」

 と俺は言ったけど、ギンギンだった。


「ホンマかな?」

 と白石さんが言いながら、俺のモノを触ろうとした。

 俺は彼女の腕を掴む。


「触らんといて」


「えっ、なんで?」


「初めては好きな女の子としたいから」


「私の事を好きになったらええやん」


「無理」と俺が言う。


「なんで?」と彼女が言う。


「絶対に淫乱やもん。ホンマは俺のこと、どうでもええやろう? 何が目的なん?」


「淫乱ちゃうって」

 と白石さんが頬を膨らませる。


「ホンマに好き」

 と白石さんが言う。


 絶対に嘘や、と俺は思う。

 彼女は淫乱だし、何か目的があって俺を誘惑しているのだ。

 ギリギリ俺は悪の道に落とされずに踏みとどまっている。


 彼女の生足が俺の足に絡んで来た。

 

 そこまで防御はできなかった。


 白石さんの足はサラサラで、滑らかで、ずっと絡んでほしい感触だった。


 彼女は俺の体をギュッと抱きしめた。


「たってるやん」と彼女が言う。


「たってへんし」

 と俺は言いながら、腰を引いた。


「絶対に処女は、こんなに大胆じゃない」

 と俺が言う。


「処女でも年下の童貞君には大胆になれるもんやねん」

 と白石さんが言う。


 絶対に嘘や、と俺は思った。

 白石さんが密着してるせいでアレが硬くなりすぎて痛い。岩を砕きそうなほど男性のシンボルがスーパーサイヤ人化している。


「ホンマに何が目的やねん」と俺が言う。


「山田君の体」と彼女が言う。


「無理やから」

 と俺が言う。


「そのうち私の虜になるわ」


「絶対にならん」と俺が言った。


「なるよ。色んなところ舐めてあげるから」


「そのセリフは処女が言わん言葉ナンバーワンやで」と俺が言う。


「ホンマに山田君は処女が好きやねんな? キモいわ」

 と白石さんに言われる。


「別に好きってわけじゃないけど。……白石さんが処女って言うから、その嘘を見抜いているだけやん」


「嘘をついたら嫌いになるん? それとも処女ちゃうから私のこと嫌いになるん? どっちよ? それにホンマに私は処女やし」


「わかった。ごめん。そこまで言うんやったら信じるわ」

 と俺が言う。

 何を信じるの? 彼女が処女であることを? そんな訳ないやん。


「これからどうしよっか?」

 と彼女が言った。


「どうするって?」

 と俺は尋ねた。


「私にとって、こんなに安全にダンジョンを潜れることはない。それに食料も残ってるし。だから出来る限りアイテムをゲットしたいんやけど」

 と白石さんが言う。


 3人分の大きなリュックは1人部屋の隅に置かれていた。その中には3人の3日分の食料が残っている。それに俺も多少の食料は持って来ていた。


 俺もパーティーメンバーがいる時に報酬を稼いで次のためにレベルアップしたい。


「いいけど」と俺は答えた。


「ホンマ!」と白石さんが嬉しそうに言う。


 彼女が息を吐く。

 白石さんが吐いた息を俺は吸っている。

 俺が吐いた息を白石さんが吸っている。


「白石さんは、そこまでお金が必要なん?」

 と俺は尋ねた。


 こんな状況だからこそ、エッチじゃない会話がしたい。

 まだまだ俺のスーパーサイヤ人化は解けていない。そんな状態でエッチな会話なんてしてしまったらスーパーサイヤ人2になってしまう。


「お金じゃない。ランクを上げて、行きたいダンジョンがあんねん」

 と白石さんが言った。


「ランクって魔王を倒さな上がれへんのやろう?」と俺が尋ねた。


「アイテムを売るだけでも上がるよ。その代わりアイテムを冒険者ギルドで売らなアカンけど」と白石さん。


「へー」と俺は呟く。

 魔王を倒さないとランクが上がらないモノだと思っていた。

 初心者すぎて色々と俺は知らないことが多すぎる。


「そういえばあの2人」と白石さんは何かを思い出す。「死ぬ時に武器を握ったまま死んだやん。私に武器あげたくなかったんか? ダンジョンに取られてしまってるやん」


「2人とは中学生の同級生なん?」

 と俺は尋ねた。


「そうや」と彼女が言う。

「でも中2の時に私が転校してるから、本当に仲良い友達じゃないで。大阪に帰って来て、たまたま冒険者ギルドで再会してパーティー組んだだけ」


「そうなんや」


「どっちかと付き合ってると思った?」


「別に」


「どっちとも付き合ってへんよ。嫉妬せんでええから」


「嫉妬なんてしてへんわ」と俺が言う。


「気になってたんやろう?」


「別に」と俺が言う。

 気になっていないことはないけど、……なんで俺が、そんな事を気にしないとアカンねん。


「山田君のスキルには制約とかないん?」と白石さんが尋ねた。


「制約?」


「長時間使えないとか」と白石さんが言う。


「そう言えば荷物を置いてたら1週間で魔力が切れになってしまうけど」と俺は言いながら考える。

「もしかして魔力切れじゃなくて、1週間の使用制限があるのかも」


「なんで?」と白石さん。


 なんて説明したらいいんだろう? 説明が難しいな。


「仮に3日目に荷物を全て取り出してスキルを使わないようにする。そして次の日から物を置くと3日目のカウントから始まって残り4日間で1人部屋のスキルが使えなるねん」


「それは魔力切れじゃなくて確実に制約やな。強いスキルには制約があるから」


「やっぱり」

 と俺は言う。


「使いすぎたら気分が悪くなるのは?」

 と俺は尋ねた。


「それは純粋に魔力切れやな」

 と白石さんが言う。


 今は気分は悪くないけど、レベルアップする前は1人部屋を使用するだけで気分が悪くなった。


「コンセントを使ったら、めっちゃ気分が悪くなるねん」

 と俺が言う。


「えっ、コンセントあるん?」


「あるよ。部屋やもん。お湯沸かせるで。カップラーメンもあるから食べる?」


「嬉しい。食べたい」と彼女が言う。「ホンマに変なスキルやな」


 俺のスキルは変なんだろう。


「部屋が使えなくなったら何日ぐらい使えないん?」と白石さんが尋ねた。


「丸々1日」と俺が言う。


「最低でも1週間で帰らなアカンのか」と彼女が呟いた。


 ダンジョンに入って2日は経っている。そして俺達の進むスピードは遅い。どれぐらいでダンジョンの入り口まで帰れるのかもわからない。

 1人部屋の使用期限が切れて部屋から放り出されて生きて帰れる自信も無かった。 


「またの機会にしよっか」と俺は呟く。


「そうやな」と彼女も頷く。

「だけどホンマに次も一緒に入ってくれる?」


「考えとく」と俺は答えた。

 正直に言うと白石さんとは、このダンジョンで付き合いを終わりにしようと思っている。

 こんな訳のわからん女に振り回されたくなかった。

 もう少しで闇落ちしてしまいそうやし。

 

 彼女の生足が俺の足に絡んできた。


「絶対に一緒にダンジョンに入ってな」と彼女が言う。「家まで迎えに行くから」


「小学生の登校か」と俺が言う。



 それから俺達はダンジョンの入り口に向かって進むことになった。

 次にダンジョンに入る時は1人で入る可能性が高いので俺も攻撃の練習をした。

 俺の攻撃はパンチとキックである。

 それでもレベルアップした俺のパンチとキックは結構な威力で、Dランクの弱い魔物なら一撃で倒すことができた。


 それとレベルに関してだけど、レベルは10から上がりにくくなってしまった。

 やっぱりゲームと同じでレベルが上がれば上がるほど次のレベルアップまでの経験値が多く必要になるみたいだった。


 いや、違う。これはゲームじゃないのだ。

 レベルは概念って俺は言わなかったけ?

 概念というのは〇〇とはこういうモノだ、という思考のこと。さらに付け加えるなら〇〇とはこういうモノだ、というのを体現してる人のこと。

 そう俺は言ったのだ。


 白石さんから最強勇者の話を聞いて、俺は強さに対して何て思った? 

 強すぎてしまうと搾取されるかもしれない。だからほどほどの強さでええわ、って思ってしまった。

 もしかして俺の概念が書きかわってレベルアップが鈍感になってしまったんじゃないか?

 



 

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