第15話 彼女は俺の唾液を飲む

 目覚めたら目の前にはピンク髪の女性がいた。

 間近で見ると可愛らしい。パッチリ二重で八重歯もある。

 彼女も俺のことを見つめていた。

 俺は白石花に腕枕をされている。

 汗の匂いと女性特有の甘い匂いがした。

 

 俺は自分のお腹を触った。

 痛みはなかった。

 傷も無い。


「治ってるよ」

 と彼女が言った。

 白石さんが喋ると吐息が顔面にかかる。


「すごいな」と彼女が言った。

「私、複数スキル持ってる人を初めて見たわ」


 複数っていうのかな?

 怪我を治す布団も1人部屋というスキルの一部のような気がする。


 彼女は余っている腕を俺の服の中に入れた。白石さんの冷たい手が俺のお腹に触れた。


「ちゃんと治ってるやろう」

 と彼女が言う。


「そんなことより、クスぐったいです」

 と俺が言った。


 彼女の手が俺の胸の方に上っていく。


「どこ触ってんすっか?」


「ココはもっとクスぐったいよ?」

 と白石んさんが言う。


「やめてください」

 と俺は言って、彼女の手を服の下から取り出す。


「ちょっとぐらいええやん」と彼女が言った。


「ダメです」と俺が言う。 


「私のことを助けてくれた時、本当に王子様みたいやったよ」

 と白石さんが言った。


「……そうっすか」

 と俺が言う。


「まだ私のこと信用でけへん?」と彼女が尋ねた。


 白石さんは信用できない女性である。

 俺を安い報酬で騙して荷物持ちにして、ダンジョンに入ったら道具として扱った。

 だけど俺のスキルが特殊であることがわかって心の距離を詰めて来たのだ。信用できない。


 こんな奴がいるからお姉ちゃんは俺にスキルを隠すように言ったのだ。


「できないっすね」

 と俺は言う。


「そっか。どんな事をしたら信用してくれる?」

 と彼女が尋ねた。


 ちょっと意地悪をしたくなった。

 絶対に出来ない事を言ってみたくなった。


「俺の唾液を飲んだら信用してあげます」

 と俺は言った。


 人の唾液なんて飲めないだろう、と思った。


「ええよ」

 と彼女が言う。


 白石さんが口を開けた。


 虫歯が1つもない白石さんの奥歯が見えた。彼女の赤い舌が見えた。

 彼女が俺の唾液を飲むために口を開けて待っている。


「寝起きの唾液っすよ?」と俺が言う。


 彼女は口を開けて、俺を見る。

 絶対に断ると思って言ったことやのに、なんでコイツは俺の唾液を飲む気満々やねん。


「……無理っすよ」

 と俺が言う。


「山田君の唾液ちょうだい」

 と彼女が言った。

 そして、また白石はんは口を大きく開けて、俺の唾液を待つ。


 マジか?

 俺から言い出したことやし……。


 俺は唾液を自分の口に溜めた。

 結構な唾液が溜まったところで、少しだけ起き上がり、彼女の顔に近づく。


 白石さんは大きな口を開けて俺の唾液を待っている。

 彼女の赤い舌が少しだけ動いていた。


 俺は唾液を垂らした。

 少しだけ粘着質な唾液が糸をひいて、彼女の口の中に入っていく。


 俺の口の中に溜めていた唾液が、白石さんの口の中に入った。

 俺の唾液が、彼女の舌を膜のように覆った。


 白石さんが口を閉じた。

 ゴクン、と喉を鳴らして彼女が俺の唾液を飲んだ。


「美味しい」と白石さんが言った。


 美味しい? 

 俺の唾液が美味しいわけないやん、と俺は思う。

 もしかして、この人って淫乱なん?


「これで信用してくれた?」

 と彼女が尋ねた。


「……わからん」

 と俺が言う。


「なんでよ?」

 と白石さんが尋ねる。


「白石さんって淫乱なん?」

 と俺が尋ねた。


「淫乱ちゃうわ」

 と彼女が怒った。

「まだ男の人と付き合ったこともないわ」


「嘘やん。絶対に淫乱やん」

 と俺が言う。


「ホンマやって。それに、もし淫乱やからって山田君になにか関係あるの?」

 と白石さん。


「関係ないけど」

 と俺が言う。


「失礼やで」と白石さんが怒っている。


「ごめん」と俺が言う。


「山田君の唾液を飲んだのは、本当に王子様やと思ってるからやで」

 と彼女が言った。


「王子様の唾液やったら飲めるん?」

 と俺は尋ねる。


「ゴクゴク飲めるわ」

 と彼女が言った。


「ヤクルトみたいに言うやん」

 と俺は呟く。


「もっとほしいぐらいやわ」

 と白石さんが言う。


「まだ飲む?」

 と俺が尋ねる。


「くれるの?」


 俺は唾液を口に溜めた。

 彼女が口を大きく開けた。

 白石さんの口の中に唾液を垂らす。

 ゴクン、と音を鳴らして彼女が俺の唾液を飲み込んだ。


 そしてまた彼女が口を開けた。

 白石さんの赤い舌が少しだけ出てくる。


「なんか舌が出て来てるけど」

 と俺が言う。


「舌、舐めて」

 と白石さんが言う。


「それは無理」

 と俺が言う。


 彼女が頬を膨らませる。


「白石さんって何歳?」

 と俺は尋ねた。


「20歳」

 と彼女が答えた。

「山田君は17歳やったよな?」


 ポクリと俺が頷く。


「ホンマに男の人と付き合ったことないん?」

 と俺は尋ねた。


「しつこい」

 と彼女が言う。

「山田君は童貞やろう?」


「……童貞ちゃうし」

 童貞の俺は童貞を否定する。


「今まで何人の女の子と付き合って来たん?」

 と白石さんが尋ねた。


「むっちゃ」

 と俺は嘘をつく。


 冷めた目で白石さんが俺を見てる。


「答えられへんぐらい多いの?」


「……嘘。1人もおらん」

 と俺が言った。


「だから処女にこだわるの?」

 と彼女が言う。


「こだわってへんわ」

 と俺が言う。


「こだわってるやん。私が処女かどうか知りたいんやろう?」


 彼女に指摘されて俺は気づく。

 俺は処女にこだわっているかもしれない。

「……別に」と俺が言う。


「処女やったら付き合ってくれるん?」

 と彼女が尋ねた。


「付き合わん」

 と俺は言う。


「なんで?」


「付き合うかどうか、まだわからん」

 と俺が言う。


「敬語無くなったね」

 と彼女がニッコリと笑って言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る