第13話 付き合おっか?
「なんなんそれ?」
と白石さんがノートを覗き込んで言った。
覗かれている事に気づかず、俺は慌ててノートを隠す。
「何を見てんっすか?」
とアワアワしながら俺が言う。
「そのノートも山田君のスキルなん?」
と白石さんが尋ねた。
「そ、そ、そんな訳ないじゃないですか」
と俺が言う。
明らかに慌てている嘘つきの発言だった。
「そっか」と彼女が呟いた。
「経験値を獲得したとか、レベルが上がったとか書いてるから、わからんけど山田君はレベルが上がる人なんやと思ったわ」
レベルが上がることは隠さないといけないと思った。それと同時に、どうしてレベルが上がることを隠さなくちゃいけないのか? と自分自身が思ったことに対して疑問を抱いた。
「レベルが上がるって珍しいんですか?」
と俺は尋ねた。
「そもそも人間にレベルがあることが、めっちゃめっちゃ珍しいよ」と彼女が言う。
「でも、こんなに沢山の冒険者がいるんやから、レベルという概念を持っていて、レベルが上がる冒険者がいてもおかしくないでしょう」と俺が言う。
「何言ってんの? 概念ってなに? 難しい言葉使わんといて」
「すみません。概念って言うのは」と俺は概念について考える。ちょっと説明するのが難しいぞ?
「〇〇とはこういうモノだ、という思考のことやと思います。さらに付け加えるなら〇〇とはこういうモノだ、というのを体現してる人のことを俺は言ってます」
「ようわからんけど」
と彼女が言った。
「レベルってガイネンを持ってた人が、この世の中に1人だけおったよ。Sランク冒険者の、あの有名な、名前なんだっけ? もう10年以上前に死んでる人」
と白石さんが言った。
俺は冒険者に疎い。せいぜい冒険者関係で持ってる知識は、ダンジョンで死んでみた動画のユーチューバぐらいである。
そんな俺でも白石さんが言った、Sランク冒険者の有名な人というワードだけで、名前は覚え出さないけど顔は浮かんだ。日本人である。
「世界最強って言われてた人っすよね?」と俺が尋ねた。
「そうそう」と彼女が言う。
「なんで死んだんでしたっけ?」と俺は尋ねた。
世界最強の冒険者が死んだことはニュースでやっていた記憶がある。その当時の俺は7歳である。だから内容は覚えていない。
「ダンジョンが壊れて、いっぱい魔物達が溢れ出して」と白石さんが言った。
「えっ、ダンジョンって壊れるんですか?」と話の途中で俺は質問する。
「後にも先にも、その一度きり。魔物達の魔力にダンジョンが耐えられへんようになったんちゃうか、って言われてる」
「へー」と俺が頷く。
「そのダンジョンの魔王が最悪で、ダンジョンが壊れた後に魔物を引き連れて何百万人って人間を殺してん」と彼女が言う。
たしか、そんなニュースだった。
日本から遠い国で魔王による大量殺人が行われた。
「その魔王と戦って、最強冒険者は死んだみたい」と白石さんが言う。
「最強冒険者がいなかったら、その魔王に世界は滅ぼされていたやろう、って言われている」
そんなニュースだった。冒険者と魔王が相打ちで死んだのだ。
世界を守った冒険者。ホンマモンの勇者やん。
そんな凄い人が俺と同じようにレベル上げが出来たなんて。
確実に俺はチートやんけ、と思った。
でも俺が抱いた感情は歓喜じゃなかった。もし俺がレベル上げができることが政府の機関とかにバレたら、次にダンジョンが壊れた時に駆り出されるのは確実に俺だろう。絶対に嫌。
チートを手に入れたのに、誰かに搾取される人生は送りたくない。
強くなっても、そこそこの強さでいよう。
レベル上げができる秘密は墓まで持って行こう。
「レベル上げできたのは、その1人だけしかいないんですか?」と俺は尋ねた。
「その人しか私は知らん。ズルいよね。チートすぎる。魔物を倒すだけでステータスの全てが上がるんやもん」と彼女が言う。
白石さんにも、俺のレベルが上がることは隠そう。
「思ってたんやけど」と白石さんが言った。
「山田君って出会った時の体つきと全然違うよね。顔だってカッコ良くなってるっていうか、引き締まってる」
「そんな事ないっす」と俺はボソリと言う。
「気のせいっすよ」
「それに急に布団が現れるっておかしくない? これも山田君のスキルなんやろう? なんかキッカケがあって現れたんかな?」
白石さんがニッコリと笑って俺を見る。
アホなくせに勘がいい。
俺は彼女と視線を合わせないように、キョロキョロと視線を動かす。
「そのノートもスキルなんやろう?」
と彼女が尋ねた。
「し、知らんっす」
と俺が慌てながら言う。
「山田君ってホンマにネジが外れてるな」
と白石さん言った。
「えっ? なんで?」と俺が尋ねた。
「パニックになるところが人と違う」
と彼女が言う。
「はぁ?」と俺は首を傾げる。
「言わんかったけど、普通は初めてダンジョンで人が内臓を飛び出てるのを見たら、吐くか泣くかパニックに陥るねんで。それは平然としてたくせにノートがスキルかどうか聞かれてるだけでパニックに陥ってるやん」と白石さんが言う。
立花が大怪我をして倒れていた時のことを思い出す。死にそうやな、と思っただけだった。それがオカシイことを指摘されるまで気づかなかった。
「山田君って彼女おるん?」
と白石さんが尋ねた。
「えっ? なんで急に?」
話が急に変わって頭が混乱する。
「彼女おるん?」
と白石さんが首を傾げて、同じ質問を繰り返す。
「いません」と俺は答えた。
「それじゃあ付き合おっか?」
と白石さんが言う。
「えっ、なんで? 無理っす」
と俺は慌てながら言った。
こんな訳のわからん女と付き合うどころか友達にもなれない。
「そのノートってスキルなんやろう?」
と彼女が言う。
質問が戻った。
「ち、違います」と俺が言う。
「私、強い人が好きやねん」と白石さんが言った。
「俺、強くないっすよ」
「これから強くなるんやろう?」
と彼女が尋ねた。
「ならないっすよ」
と俺が言う。
「付き合おう?」
「無理っす」
「冗談や」と彼女が言って、ニッコリと笑った。
でも目が笑ってなかった。
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