第11話 初めて女性を1人部屋に入れる

「えっ、なにココ?」

 と白石花がキョロキョロしながら辺りを見渡す。


「ココは俺のスキル、です」

 と俺は言った。

 1人部屋と言うのはダサいからカッコ良く英語で言ってみた。


「この1人部屋がスキル?」

 と白石花が驚いている。


 せっかくカッコ良く言ったつもりなのに日本語に直されてしまった。


 俺は頷く。

「このシングルルームが俺のスキルです」

 と俺はさらに言い直した。


「こんなに便利な1人部屋があるんやったら何で使わんかったんよ?」

 と彼女が言う。


 この女は絶対に1人部屋と言いたいらしい。


「アナタ達に言いたくなかったからです」

 と俺は素直に言った。


「なんで?」

 と白石さんが尋ねた。


「信用でけへんから」


「なんで?」

 さらに白石さんが尋ねた。

 

「……」

 信用できない理由は幾つかあった。

 あんなヤンキーをどうやって信用しろって言うねん。

 それに3日もダンジョンに潜るって聞いてへんぞ。

 3日も潜るって聞いていたらお前に付いて行かんかったわ。


「ダンジョンで仲間を信用でけへんかったら死ぬで」

 と白石花が言う。


 めちゃくちゃ腹が立つ。

 お前のことを仲間と思ってへんわ、と心の中で思う。


「ごめん。俺の部屋から出て行ってください」

 と俺は言った。


「えっ、なんで?」

 と白石さん。

「今、外に出て行ったら死ぬやんか」


 勝手に死ねよ、と俺は思った。


「山田君は仲間を見殺しにするつもり?」

 と白石花が尋ねた。


 俺は冷めた目で彼女を見た。


「仲間やと思ってませんよ。3日も潜るって教えてくれていたら俺はアナタ達とダンジョンに潜ってないです。必要な情報を教えてくれてへんやん。誰が信用すんねん」


「どれだけ潜るか聞かん方も悪いやん」と白石さんが言う。


「たしかに、どれぐらいダンジョンに潜るかの確認を怠ったのは俺です。でもワザと情報を隠していた側に言われたらムカつきます」と俺は言った。


「言うのを忘れてただけ」

 と白石さんが言った。


 ムカつく。

 

「3日間もダンジョンに潜るなら報酬が全然釣り合ってへんじゃないですか」

 と俺は言った。


「今更そんなこと言わんといて。ポーション1本で了承したのはソッチやん」と白石さん。


「そうやって今まで荷物持ちを探してたんでしょ? 荷物持ちもパーティーなら報酬は折半が一般的っていうことぐらいネットで調べてわかっているんっすよ」


「それじゃあ断れば良かったやん」と白石さんが言った。


「それでもアナタに付いて行ったのは初心者でパーティーを組んでダンジョンに入れるのは有り難かったからです。そんな奴を探していたんでしょ?」


「そうや。何が悪いん?」と白石さんが言った。「冒険者もビジネスや」


「なんも悪いことないっすよ」

 と俺は言った。

「別に俺のシングルルームから出て行かんでええけど、俺の事を仲間やと思わんといてください。ダンジョンの中で俺のことを道具としてしか見てへんかったくせに仲間なんて綺麗事を言わんといてください。キショク悪いわ」

 と俺は言った。


「……」

 彼女は下を向いた。


 言いすぎたか? でも事実なのだ。

 3人にとって俺は荷物を持つだけの道具なのだ。


「別にいいっすよ。白石さんに付いて行ったのは俺の判断なんで」

 と俺が言う。


「私、ココから出るわ」


「出たら死ぬっすよ?」


「死んでも寿命を奪われるだけやもん。部屋から出る。ココにおったら山田君が気分悪いんやろう?」


「今までの行動が気分悪かっただけです」

 と俺は言った。


 俺には攻撃をする術がなかった。

 だから彼女にはダンジョンに出るまで魔物討伐をしてもらうしかないのだ。死なずにダンジョンから出るには彼女が必要だった。


「これから俺のことを道具じゃなくて、人間として接してくれたらいいだけです」

 

 本当は許したくないけど、俺には彼女が必要だった。仕方がない。


「……」


「この部屋から出るって言うのは、俺のことを人間として見れないクズ女っすよ?」

 と俺は言った。


「わかった」

 と彼女が言う。


「話変わりますけど、あの甲冑は魔物なんですか?」

 と俺は尋ねた。


 話を変えたかった。密室空間で離れることもできないのに、これ以上は気まずくなりたくなかった。

 いや、今が気まずさのMAXだと思う。話を変えて、気まずさを誤魔化したかった。

 それに、あの甲冑のことも本当に気になった。


「あの甲冑は魔物じゃない。人間や」

 と彼女が言う。

 白石さんはテンションが地を這うレベルに下がっていた。俺の発言のせいだろう。


「人間?」

 と俺は尋ねた。


「ダンジョンを運営しているのは魔王だけちゃうねん。幹部と言われる人間も存在する」

 と白石さん。


「幹部?」


「ダンジョンは会社や。社長は魔王や。そこに従業員が雇われてる。それが幹部」


 へー、と俺は頷く。

 ダンジョンは魔王1人が運営している訳ではないらしい。


「魔王の元へ冒険者が辿り着かんように幹部は冒険者を殺しに来たり、中ボス戦で現れたりする」と彼女が言った。


 へーー、と俺は頷く。


「でも人間なんっすよね? そんなに強くないんじゃ?」

 と俺は尋ねた。


「そうでもないよ。ダンジョンの加護が幹部には与えられているし、ダンジョン運営にスカウトされるような冒険者は強いし」

 と彼女が言った。


 一流冒険者がダンジョン幹部として雇われている。さらにダンジョンの加護もあって強くなっている。


「でも、あんなに強い幹部がDランクのダンジョンにおるなんて、ついてへんわ」と白石さんが言った。


「しばらく甲冑がどこかに行くまで俺は寝ます」

 と俺は言ってベッドに行く。

 別に眠たくなかったけど、やる事も無いので寝たふりをすることに決めた。


「白石さんも適当にくつろいでください」と俺は言った。


 魔王の幹部。

 父親のダンジョンのことを考えた。

 俺は別に父親のダンジョンの幹部にはならんよ?

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