第9話 経験値を獲得しました

 ダンジョンの入場料は1万円だった。

 そんな大金、俺が持っている訳がない。


 お金を持ってないので帰らせてもらいます、と言いたかった。

 めちゃくちゃ帰りたくて仕方がなかったのだ。疎外感MAXだし、荷物重たいし、3日間もダンジョンに潜るなんて聞いてないし。


「それじゃあ1万円貸すから絶対に返してね」と白石花から茶色い銀行券を渡される。


 全然、貸していらんねんけど。


「はぁ」と俺は言いながら茶色銀行券を受け取り、入場料を支払ってダンジョンに入った。


 1階層目は強いモンスターが出ないらしく、3人がトコトコと歩いた。俺は20キロ以上の重たい荷物を持っているので付いて行くのがやっとだった。

 どんどんと3人の背中が小さくなって行く。


 重たい荷物を持ちながら俺はお金の計算をしていた。

 今回の報酬はポーション1本。

 約15万円である。

 すでにダンジョンの入場料で1万円を消費した。

 残り14万円。

 食費諸々の準備で実は300円は使っていた。

 残り13万7000円。

 もしダンジョンで死んだら寿命が奪われる。

 しかもココはDランクなのだ。

 奪われる寿命は1年だけという訳にはいかないだろう。

 こんなにしんどい思いをして、寿命まで奪われてしまったら、めちゃくちゃ損である。

 

 搾取、という言葉が頭に浮かんだ。

 俺は弱い。

 弱い人間は搾取されてしまうのだ。


 クソ、と俺は思った。

 もっと勉強をしとけばよかった。

 家にお金が無くても、めちゃくちゃ勉強ができればお金がかからない学校に行けただろうし、バイトで家庭教師もできただろう。家庭教師が割のいい仕事かどうかはわからん。わからんけど寿命が縮まることはないし、こんなに辛い思いをすることは無いと思う。


 こんなにしんどい思いをお姉ちゃんはしていたんだろうか?


 俺はお姉ちゃんっ子だった。

 シスコンというやつである。

 いつでもお姉ちゃんは俺の味方だった。

 4つ上のお姉ちゃんは俺のことを可愛がってくれた。

 姉が家出したことで一番ショックを受けていたのは俺だと思う。


 どこかのダンジョンでお姉ちゃんもしんどい思いをしているんだろうか?

 そう思うと胸がグッと痛くなった。


 そしてヒマリのことも考えた。

 アイツは勉強が出来るのだ。

 だけど家にお金が無い。

 母親はヒマリに何度もごめん、と謝っていた。

 それはこれから先、十分な教育を受けさせてあげられないことへの謝罪だろう。

 妹にはダンジョンに入ってほしくなかった。

 妹だけは勉強して、いい学校に通って、搾取する側の人間になってほしい。



 魔物を倒しながら3人は進んで行き、4階層目までやって来た。

 ちなみに、このダンジョンは上がって行くタイプのダンジョンである。

 壁に光る石が埋め込まれていて、ランプを持たなくてもダンジョンを進むことができた。



 金髪ヤンキーは剣を握りしめて魔物を倒している。どうやら立花のスキルはファイヤー系らしい。剣に炎がまとっている。


 ピアスヤンキーも剣を握りしめて魔物を倒していた。岡崎は氷系のスキルらしい。剣に氷が纏っていた。


 白石さんはサンダー系だった。

 ビリビリした黄色い光を放出していた。

 3人とも攻撃タイプで、バランスがめちゃくちゃ悪い。

 怪我した時はどうするんだよ?


 そう思っていたら怪我をするたびにドロップしたポーションをガバガバと使っていた。


 頭がイカれてるのか? それがどれだけのお金になるかわかってないのか?

 いや、絶対にわかってるはず。白石さんが買取価格を喋っていたのだ。


 休憩するときも俺は3人から少し距離を取った。

 3人は俺のことを気にしていない素振りだった。


 白石さんもダンジョンに入ってからは俺のことを道具の1つとしか思っていないらしくて、目も合うこともなかった。

 それでも気を使われて喋りかけられるよりかはマシだった。


 お昼ご飯も各々がリュックからご飯を取り出して食べていた。俺もカロリーメイトをモシャモシャと食べた。

 水がほしかった。

 トイレに行くフリをして、少し彼等から離れた。


 そして俺は1人部屋の扉を出現させた。

 中は六畳一間の部屋である。それが俺のスキルだった。

 もともと1人部屋にはベッドと円卓しか置かれていない。このベッドと円卓も1人部屋のスキルに含まれた家具である。 

 その場所に食料と水を置いていた。

 水を取り出して飲む。2リットルのペットボトルを持って来てしまった。500ミリだったら持ち運びも出来たのに。

 水を飲んで2リットルのベットボトルを部屋に置く。そしてスキルを解除した。


 それからもダンジョンを進みながら3人は魔物を倒した。

 たまに魔物はアイテムをドロップした。


 この建造物ダンジョンはどれだけの階層があるのだろうか?

 質問したいけど3人との心の距離がありすぎて喋りかけられない。



 そして休憩の時に3人はテントを張った。

 どうやらココで寝るらしい。


「お前は」と立花が言った。「テントが無いんやから、そこら辺で眠れよ」

 ゴツゴツの硬い地面を金髪ヤンキーが指差す。


 こんな場所で眠れる訳がない。


「この周辺の魔物は殺したけど、魔物が出現したら教えてくれ」

 と立花が言ってテントを閉めた。


「おやすみ」

 と白石さんが言って、俺に手を降ってテントを閉める。


 ピアスヤンキーは何も言わずにテントを閉めた。


 さようですか。

 彼等は俺のことを何だと思っているんだろうか? 本当に何とも思っていないんだろう。人間とも思っていないんだろう。別にどうでもいいけど。



 俺は1人部屋の扉を出現させた。

 そして中に入った。

 俺が中に入って扉を閉めると扉は消える。


 俺はベッドにダイブした。

 円卓を見ると見知らぬノートが置かれていた。


 なんだろう?

 こんなノート置いた覚えがない。


 ノートに手を伸ばす。

 そして開いた。


『経験値を獲得しました』

『レベル2に上がりました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『レベル3に上がりました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『レベル4に上がりました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『経験値を獲得しました』

『レベル5に上がりました』

『ノートが使えるようになりました』

『経験値を獲得しました』

 etc。



 なんだろうこれ?

 同じ文字の羅列が続いている。

 これが何なのかを考える前に、俺は睡魔に襲われた。

 使うことのない筋肉を使って、今日は疲れたのだ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る