第8話 御堂筋線沿いのダンジョン
「アンタのスキルは特殊やで、あんまり人前で使ったらアカンで」
と姉が言っていたことを思い出す。
つまらない奴に搾取されてつまらない人生を歩むことを警戒して姉は言ってくれていたんだと思う。
白石花が連れて来た2人の男を見て、スキルはバレてはいけない、と思った。
1人は金髪で笑ってるけど目が怖い。剣を背負っている。
もう1人は黒髪でピアスを大量に付けている。同じように剣を背負っている。
2人とも軽装というか、ちょっとコンビニに行って来ます冬パージョンみたいな服装をしていた。完全に攻撃型なんだろう。
そういう俺も軽装だった。
俺に防具を買う財力はない。だから軽装になってしまう。
もしかしたら2人の見た目が怖いだけで本当は優しい人かもしれない。
でも今までの経験上、見た目が怖い人は本当に怖い人が多い。
「怖がらんでええよ。2人ともちょっと怖いだけやから」
と白石花が言う。
ちょっとは怖いんや、と俺は思う。
白石花はモフモフの服装ではなく、上下プロテクターをつけていた。手にはフルフェイスヘルメットも握られている。しかも全身が黒色だった。
「立花君と岡崎君」
と白石花が紹介してくれる。
立花の方が金髪で、岡崎の方がピアスである。
「お前、今日の荷物持ちやろう?」
と金髪の立花が言った。
「はい」と俺が返事をする。
「これ持てや」
ドサっと荷物を床に置いた。
3人の荷物がまとめられたリュック。
「あれ?」
と白石さんが首を傾げる。
「山田くんの荷物は?」
俺の荷物は『1人部屋』の中に入れていた。
ココでスキルの説明はしたくない。
「ちゃんと持って来てます」
と俺は言って、ポケットからティシュを取り出す。
「ポケットテッシュやんか」
と白石さんが驚いている。
金髪とピアスがアホみたいに爆笑している。
「3日は潜るんやで」と白石さん。
聞いてないぞ。3日も潜るのか?
テントがあるのが怪しいと思っていた。
「それに、そんな軽装でええの? すぐ死ぬで」
と白石さんが言った。
「防具を買うお金が無くて」
と俺が言う。
「ダンジョンで食料あげへんからな」
とピアスの岡崎が言った。
そして抱えていたテントを置いた。
「コレも持て」
「はい」と俺が頷く。
「それじゃあパーティー申請したら、コンビニに寄って3日分の食事でも買う?」
コンビニで食べ物を買ったら高くつくだろう。でも怪しまれないように何かは買っておきたい。
それから冒険者ギルドでパーティー申請を出す。これを出さないと俺がダンジョンに入れないらしい。ダンジョンはパーティーの平均ランクまで入れる。今日入るダンジョンはDランクらしいのだ。
荷物がめちゃくちゃ重たかった。
大きなリュックが1つ。それに簡易テントが3つ。このテントはパカンと簡単に開くタイプのテントである。
総重量20キロぐらいあると思う。
もしかして、これを3日も持ち続けるのか?
スキルを使いたくて仕方がなかった。
でもコイツ等にスキルはバレたくない。
コンビニに寄って俺は3日分の食料としてカップラーメンを3つ手に取った。
「お湯無いんやで」と白石さんに言われる。
「大丈夫っす」と俺が言う。
お湯はケトルを持って来ているし、水も持って来ている。もちろん『1人部屋』に入れていた。
「お湯出せるスキルなん?」
と白石さんが尋ねた。
「まぁまぁ」と俺が頷く。
「えっ、それじゃあ俺もカップラーメン買っとこうかな?」
と立花が言う。
「アンタは自分で水を沸騰させることができるやろう」
と白石さんが言った。
「重たくなるから鍋は持って来てない」と立花が言う。
湯を沸かしたケトルを出したらビックリするだろう。それを彼等に見せたくなかった。
「お湯を出せるっていうか、唾液でふやかすと言うか」
と俺が言う。
「カップラーメン買うの、やめとくわ」
と立花が言った。
「やっぱり俺もやめとこう」
俺はカップラーメンを棚にしまって、カロリーメイトを手に取った。
「山田君ってどんなスキルなん? 人に話したくないスキルやったら別にええんやけど」
と白石さんが言った。
「弱すぎて人に話すと、もう2度とパーティーに入れてもらえないので言うのはちょっとやめときます」
と俺が言う。
「なんなん? 教えてや」
と白石さん。
えっ、人に話したくないなら別にええ、って言ったやん。
「そんな雑魚のスキルなんてええやろう。早よ行こう」
とピアスまみれの岡崎が言う。
「知りたいもん。使えるかもしれんやんか」
と白石さんが言う。
使えるから言えないのだ。
このパーティーとは、もう2度と一緒になりたくない。
報酬はポーション1本。でも3日もダンジョンに潜るとは聞いていなかった。
3日もダンジョンに潜るのだったらポーション1本では断っていた。
だけど今更言えない。
そして電車に乗って、我孫子に向かった。
我孫子に目的のダンジョンがあるらしい。
御堂筋線の電車に揺られながら楽しそうに3人は喋っていた。だけど俺は黙って荷物を抱えて座っていた。本当に重たい。これを持って移動するのが苦痛である。
別にどうでもいいけど3人は中学生の頃からの友達らしい。中学生の頃の友人が結婚した事で盛り上がっている。
疎外感MAXである。
そして我孫子駅に辿り着く。
俺は3人に付いて行き、商店街から外れた場所に建っている歪な形の大きな岩のような建造物までやって来た。
それがダンジョンだった。
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