第7話 ホンマにお父さん、アカン奴やわ

 部屋に入った瞬間に呆然と立ち尽くした。

 電子書籍もいいけど、やっぱり本もええがな、っで、俺はラノベも漫画も書籍で集めていた。その本が一冊も無かった。本棚に一冊も俺の本が収納されていなかった。

 なんでや?

 慌てて一階へ。


「俺の部屋に本が無いんやけど?」

 と俺は母親に尋ねた。


「本回収してくれる業者さんが来てくれたで」

 と母親が言う。


「それはブック◯フのことか?」

 と俺は尋ねた。

「誰かが呼ばな来うへんやろう?」


「誰が呼んだんやろう」

 と母が言う。


「オバハンやろう」

 と俺は言った。


「ブック◯フに取られへんように、自分のスキルに収納しとけばよかってん」

 と母親が言った。


「俺、魔力少ないから1週間しか物は置かれへんねん」と俺が言う。


「それじゃあ、もっと他の保管場所を考えたらええやないの」と母親が言った。


「部屋に本を置いてたらアカンのか?」

 と俺は尋ねた。


「アカンに決まってるやん。家賃払ってへんねんから。明日からモ◯◯クであの部屋を活用するんやから」

 と母親が言った。


 もうすでに俺の部屋を倉庫代わり使おうとしているらしいのだ。

 だから俺の荷物が不要らしい。


「俺の部屋は?」

 と俺は尋ねた。


「アンタには『1人部屋』ってスキルがあるやないの」

 と母親が言った。


 たしかに俺のスキルは『1人部屋』である。だけどスキルを使えば魔力を消費する。部屋なのに疲れは取れない。ずっと部屋で筋トレしているみたいなモノである。だから今までスキルを活用しなかった。それに少しでも物を置いておけば1週間で魔力を失って荷物が放出される。俺のスキルは物置きとしても使えない代物だった。


「ご飯できてるよ。今日はブック◯フのお金があるからアンタも食べてもええわ」

 と母親が言った。


「本を売ったお金まで取るんか?」

 と俺が尋ねた。


「当たり前やないの」と母親が言う。


「今まで家賃無しで部屋に置いてあげたんやで。それぐらい貰ってもええやないの」

 とオバハンが言う。


 絶望っす。

 イライラする。

 だけど家にお金が無いこともわかっている。

 お金が無さすぎて、半年後には家族解散するのだ。家族解散すれば本どころの騒ぎじゃない。

 だからイライラするけど、それと同じぐらいに仕方がないか、という気持ちもあった。


「ご飯出来たからオッさんを呼んで来て」

 と母親が言った。


「オッさんの分のご飯もあるんか?」

 と俺が驚く。


「あるよ」

 と母親が言った。

「ダンジョンにお客さんが初めて来て、オッさん初めて殺されてん。凹んでるからケツ蹴飛ばして連れて来て」


 一軒家の庭にあるダンジョン。

 一体誰が来るねん。

 ココにダンジョンがあると知らなければ他人の家にわざわざ人は入って来ないだろう。

 つまりココに来たのはユーチューブの視聴者さんか? いやいや誰も見てへんチャンネルやで? でも10PVもあるってことは誰かは見ている。


 オッさんはダンジョンの中にいた。

 魔王が座りそうな王座に100キロの50代のジジィが座ってる。

 めちゃくちゃ凹んでいるらしく、呆然としていた。


「ご飯やって」

 と俺が言う。


 父親が俺をチラッと見た。


「今日、初めてダンジョンにお客さんが来て」

 と父親が言った。


「オバハンから聞いたよ」

 と俺が言う。


「誰が来たか聞いた?」

 とオッさんが尋ねた。


 俺は首を横に降った。


「海山」

 とオッさんが言った。


 海山。

 今日、学校の面談が無ければ父親との接点が無かった先生である。


「海山のアホは大学まで冒険者やってたらしくて、結構強かったわ。ハハハ」

 と父親は無理して笑った。

「ギリギリやられてもうたわ」


 絶対に嘘である。

 ガッツリとやられたんだろう。凹むような殺され方をしたんだろう。


「なんで海山がウチに来るねん?」

 と純粋に思ったことを口にした。


「気になったから来たらしいわ。ついでにお父さんを殺して寿命を奪って帰ったわ」

 と父親は言って、無理して笑った。


 父親は死ぬためにダンジョンを作った。

 だけど実際にダンジョンで殺されたらショックらしい。

 俺もショックだった。

 父親の寿命が奪われた。しかも学校の先生が奪いに来たのだ。


「ぅぅんっ、もう」

 と俺は叫んだ。

 うまく言葉で言い表せない苛立ちと不安が押し寄せて来たのだ。


「寿命、何年奪われたん?」

 と俺は尋ねた。


 父親が右手首を見た。

 そこには寿命のプラスマイナスが刺青を入れたように書かれるらしい。


「1年」と父親が言った。


 1年やったら良かったやん、と言いそうになってやめた。

「そうか」と俺は呟いた。


「オバハンがご飯を作ってくれているらしいわ」

 と俺が言った。

「食べに行こうや」


「うん」と父親が頷く。


 そして食卓に向かった。

 4人がけ用のテーブルには5つの椅子が置かれていた。

 お姉ちゃんは、まだ家に帰っていない。

 4人のご飯だった。

 今日のご飯はシンプルに肉うどんだけだった。


「仕事は見つかった?」

 と母親が俺に尋ねて、うどんをズルズルと啜った。


「とりあえず荷物持ちからしようと思う」

 と俺が言う。


「そうか」と母親が言った。


 ズルズルズル、と肉うどんを啜る音と共に「うっ、うぅ、うっ」と父親の泣き声が聞こえた。

 オッさんはうどんを啜りながら泣いていた。腕で涙を拭って泣いていた。


「頑張ってお金を稼いで来て」

 と母親が言った。


「わかってる」

 と俺が言う。


 オッさんが泣いていることに俺と母親は触れないように努めた。そうするべきだと思ったのだ。そうしないといけないと思ったのだ。

 でもヒマリは父親の涙を無視できなかった。

 ずっと妹は父親のことを見つめていた。


「お父さん、なんで泣いてるん?」

 とヒマリが尋ねた。


「ごめんな。ごめんな」

 と父親が謝った。

「俺が不甲斐ないばっかりに、ごめんな」


「オッさん、ご飯中やで。泣くなよ」

 と母親が言う。


「ホンマにお父さん、アカン奴やわ」

 と父親が言った。


「お父さんはアカン奴じゃない」

 とヒマリが言って、エンエンと泣き始めた。


「アンタが泣くからヒマリまで泣いてもうたやないの」

 と母親は怒って、泣いていた。


 もぉ〜、と俺も呟いて、涙を拭った。


 山田家はダメかもしれない。ダメかもしれないけど俺の大切な家族なのだ。だけど、もう家族が離れ離れになってしまうかもしれない。

 頑張ってお金を稼がなくちゃ、と俺は思った。 


 俺も明日から冒険者になる。

 明日は荷物持ちだった。

 報酬はポーション1本。


 俺はダンジョンがどれほどの地獄なのかも、まだ知らない。



 次の日、俺は待ち合わせしていた天王寺の冒険者ギルドに向かった。

 そこにいたのは俺を誘ってくれた白石花と絶対に関わってはいけない系の2人の男だった。

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