第6話 冒険者ギルドで出会いを求めるのは間違っている
俺が行ける範囲の冒険者ギルドは天王寺と堺東にある。
堺東は自転車で行ける距離にあるけど電車でアクセスしようとしたら不便である。天王寺は地下鉄の御堂筋線で家から一本だけど少し遠い。
今日は帰りが電車だから天王寺の冒険者ギルドに父親に送ってもらった。
冒険者ギルドはアピロビルの4階にある。
昔、映画館が入っていたところである。両親に連れられて映画を観に行った思い出がある場所だった。
そこが今では冒険者ギルドになっている。
冒険者ギルドはゲームのような荒くれ者がいるような場所ではない。受付のカウンターにはスーツを着たスタッフがいて、受付の奥には忙しそうにキーボードを叩いている職員がいた。
とりあえず冒険者登録をした。冒険者登録はアプリを落として、そこに住所やマイナンバーや自撮り写真を登録する。そして実際に受付で身分証明書を提示して冒険者カードを発行してもらう。冒険者カードにはアプリで登録した自撮り写真が付いていた。そして振り分けられた8桁の適当な番号が書かれている。
そしてランクが書かれていた。
ランクというモノが存在することを職員から早口で説明を受けた。
要するにお前みたいな初心者には入れないダンジョンがいっぱいある。だから魔王を倒してランクを上げろ。
みんなGランクからスタート。そして魔王を討伐すればするほどランクが上がって強いダンジョンに挑むことができるシステムになっているらしい。
冒険者カードを受け取ってすぐに、
「君は冒険者ギルドは初めての人?」と女性に声をかけられた。
髪はピンクでモコモコの白くて可愛らしい服を着ている。年齢はわからないけど大学生っぽい。すごく可愛らしい女性だった。
声をかけられるなんて思っていなかったから海外のアニメのように心臓が飛び出しかけた。
『えっ、俺に話してかけてます?』という風に自分を指差す。
ポクリと女性が頷き、微笑んだ。
なにも知らない新人を食い物にする奴が世の中にはいて、冒険者登録したばかりの人間に声をかけて来る奴は大抵ロクな奴じゃないとわかっていた。
「宗教の勧誘ならお断りです」と俺は言った。
可愛い女の子が俺に喋りかけるわけがない。絶対に初心者を狙った宗教の勧誘である、と思った。こういうのはハッキリと言わないといけないのだ。
「宗教の勧誘ちゃうよ」と彼女が言った。
「こんなところまでN○Kの集金ですか?」
と俺は怪訝そうに尋ねた。
さすがにN◯Kだとは思わない。だけど何かしらの搾取する側の人間だとは思った。
「N○Kでもないよ」と彼女が言う。
「それじゃあ何っすか?」
と俺は尋ねた。
俺みたいなしょーもない人間に何の用ですか? と俺は思うと同時に自分が
「ダンジョンのことを何も知らんかったら教えてあげようと思って、喋りかけてみてん」
ピンク髪の女の子が笑顔で言った。
「なんでアナタ様がそんな事を俺にする必要があるんっすか?」
純粋に思ったことを口にした。
「私は新人冒険者にダンジョンのことを教えるチュートリアル女。チュー子と呼んで」
と彼女がクスクスと笑いながら言った。
これは騙されそうである。
チュートリアルと聞けば警戒心を無くしてしまいそう。
「ネズミみたいな名前っすね」
と俺が言った。
「よく言われる」とチュー子がクスクスと笑いながら言う。
「本当の名前は白石花」
と彼女が言う。
「山田忍です」
と俺が言う。
自己紹介されたら自己紹介するのが礼儀だと思った。
「高校生?」
と白石さんが尋ねた。
「そうです」と俺が言う。
「すごいピチピチ」
と白石さんが言った。
「獲れたての魚みたいに言わんといてください」と俺が言う。
「ちょっとソファーに座って喋ろうか?」
と白石さんが言った。
この女性は俺からナニカを搾取したいんだろう。
もしかしたらただの親切で話しかけてくれただけじゃないか? と淡い思いもあった。そして、これから2人は恋に落ちてアヘアヘ的な展開が待っているんじゃないだろうか?
そんな下心のせいで俺は白石さんに言われるままソファーに着席した。
「ダンジョンのこと、どこまで知ってるん?」
と白石さんが首を傾げて尋ねた。
首傾げが、堪らなく可愛い。
「何も知らないっす」
と俺が言う。
「お姉さんがダンジョンのこと教えてあげようっか?」
と彼女が言った。
「お金持ってないっすよ」
と俺が言う。
「お金は出世払いで」と白石さんがクスクスと笑いながら言った。
それが冗談なのか、本当なのか俺にはわからない。
「あっ、はい」と俺は頷く。「それじゃあ総理大臣になったら支払わさせていただきます」
払う気なんて一切なかった。
「総理大臣って」と彼女は言いながらクスクスと笑った。
「ダンジョンが初めて見つかったのは30年前」
と白石さんが喋り始めた。
そこからダンジョンの説明を始めんのかい、と声に出してツッコミたかった。だけど女の子が喋っているのを止めることが俺にはできなかった。
30年前にアメリカの田舎で初めてのダンジョンが発見された。それは洞窟型のダンジョンで異世界の魔物が出現した。
「俺が作ったんじゃ」と言い出したのは薬に溺れた歯抜けのジジィだった。その歯抜けジジィこそ世界で初めての魔王と言われている。
魔王とはダンジョンマスターのことである。
誰も初めはジジィの言うことを信じなかった。歯抜けジジィの妄言だと思っていた。
「ダンジョンにとんでもない物が落ちている。それは拾った人のモノじゃ。ただしここで死んだ人は装備と寿命を貰う」と歯抜けジジィが言った。
誰も妄言ジジィの発言は聞かなかった。
すぐにダンジョンで人が死ぬことになった。だけど死んだ人はダンジョンの入り口で復活した。意識を取り戻した時には裸でダンジョンの前に立っていた。
同じように世界各自でダンジョンを作ったという人が現れて、同じような事を言い出した。
洞窟の成分を調べてみると地球には無い素材だった。ダンジョンは全て異世界から召喚されたモノだったのだ。
そして歯抜けジジィの言う通り、ダンジョンにはとんでもない物が落ちていた。
ポーションなどのドロップアイテムは現在の医療を超越する代物だった。沢山のダンジョンが出現した今でもポーション1本の買取価格は15万円である。
そして装備品。
魔物や亜人が装備している物がドロップすることもある。異世界産の武器は戦車すらも真っ二つにできる物も存在する。そういった武器は何億、何十億、何百億という金額で取引されている。
そして魔王を倒せばドロップするモノがあった。それは魔王の寿命である。1年から10年の寿命がドロップする。
ただしダンジョンで冒険者が死ぬと冒険者は寿命と装備品を奪われる。
なぜかスキル保持者は手首に寿命のプラスマイナスが刺青のように浮かび上がる。
なぜそうなるのかは今のところ解明されていない。
「へー」
と俺は言った。
これだけの説明を受けたのだから、すごい代償を払わないといけないような気がした。
「山田君には」と彼女が言った。
きた、と思った。
説明を受けてしまった代償を支払う時がきたのだ。
「1度でいいから私のパーティーに入って荷物持ちをしてほしい」
と彼女が言った。
「荷物持ち?」
ポクリと彼女が頷く。
「私達のパーティーに入って、ダンジョンがどんなところなのか知ってもらいたい」
と彼女が言う。
本当にそれだけだろうか?
俺のスキルなら荷物持ちは容易だった。
「もちろん報酬も渡すよ」と彼女がニッコリと笑った。
「俺、冒険者になったばっかりやからGランクっすよ」
「大丈夫。パーティーの平均ランクのダンジョンに入ることが可能やから」
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