第5話 死ぬほど嫌いな先生
学校に電話して担任の先生に退学することを伝えると、面談したいから保護者と一緒に学校に来るように言われた。
だから父親と一緒に学校に行くことになった。
「なんで退学したいの?」「将来の事とかちゃんと考えてんの?」と進路相談室で担任の先生に面談で言われる。
30代前半の熱血教室風のジャージ姿の先生である。名前は
小学生の頃からの同級生で高校も同じ学校に通っていた幼馴染がイジメられている時に、海山に助けを求めた。
そしたらコイツは「イジメられてる方も悪いんちゃうんか」と言ったのである。
そのセリフはイジメを放置することを正当化するための言葉だった。
イジメられてる方も悪いんやからイジメられていても仕方がないやろう、と先生は言ったのだ。
「一応、確認してみるわ」と海山先生は言った。
後日、先生は「山田が言ってたんやけど、お前等、イジメをしてるんか?」とイジメっ子に聞いて回ったのだ。
そんな事したら先生はどうなるか想像できなかったんだろうか?
「お前チクったらしいな」とイジメっ子ヤンキーに俺は絡まれた。
チクる、というのは大阪弁で告げ口をする、ということである。
先生に助けを求めたことを死ぬほど後悔した。あんなアホな奴に相談した俺が1番のアホだった。
イジメっ子ヤンキーに絡まれて足がブルブルものだった。だけどチクったことがバレてしまっているから、イジメの対象に俺はなることが決定していた。
「俺の友達をイジメるなや」と抗議してみた。
その結果、イジメられっ子のポジションが俺になり、幼馴染は晴れてイジメっ子ヤンキーチームに加入した。
退学するための面談で、いかにも俺の将来を考えてますよみたいな顔をしながら、先生として立派な発言をする海山にイラっとした。
「すみません家の事情で」と父親が情け無く言った。
だけど父親には何も言ってほしくなかった。俺の事情もあるのだ。
「お父さんは息子さんの将来の事を考えてるんですか?」と先生が言った。
「はぁ」と父親が情け無い声を出す。
「家の事情は関係なく学校は辞めるつもりでした」と俺が言う。
「何でや?」と熱血風の先生が言った。
「友達がイジメられていたことを先生に相談したところ、『山田から聞いたんやけどお前等イジめてるのか?』と聞いて回ったらしく、その日以降、酷いイジメにあってるからです」
と俺は嫌味たっぷりに言った。
「先生は言ったよな? イジメられてる方も悪いって。イジメられた事を先生のせいにするのか?」と海山が言う。
コイツめっちゃヤバい奴やん。そんなに自分は悪くない、って主張したいのか?
「そういう考えやから、先生のクラスにはイジメが起きるんですよ」と俺が言った。
このセリフは絶対にイジメっ子のセリフじゃない。教頭のセリフだ。
「イジメを自分で乗り越える強さがお前達には必要や」と海山がガチな目をして言った。
コイツはイジメを悪だと思ってないみたいである。イジメを悪だと思わない先生がいるなんて俺は想像もしなかった。
「そうですよね、お父さん?」と海山が父親に尋ねた。
「そんな訳あるか」とオッさんが絶叫する。
生まれて初めて父親の絶叫を聞いたような気がする。
「子どもがイジメられて、乗り越えて強くなれって言う親が世の中におるか!」
めっちゃ父親が顔を真っ赤にさせて怒鳴っていた。
「お父さんの職場が倒産したんですよね?」と海山が急に会話のハンドルを切った。
そんな話をしてるんちゃう、と父親には突っぱねてほしかった。
だけど父親は無職のことを負い目に感じているらしく、さっきまでの激情は風船が割れたように無くなってシュンとした。
「今は何をされているんですか?」と海山が尋ねた。
「ダンジョンを経営してます」とオッさんが言った。
いらんこと言わんでええねん、と俺は思った。
「息子さんの事を考えているんでしたら、ちゃんと再就職して息子さんに教育の機会を与えて下さい」と海山が言う。
いいセリフみたいに言うな、と俺は思う。ただ自分が責められて腹が立ったから言い返しているだけである。
結局のところ今日は面談だけで海山からは退学届けを貰えなかった。
一度、校長先生に話を持っていかないといけないらしい。
そして次に学校に来る日を決めた。
海山にまた会わないといけないと思うだけでウンザリする。
「私は仕事がありますので、これで」と海山は言って、進路指導室から出て行った。
父親は握り拳を握って唇を噛んでいた。
それから天王寺にある冒険者ギルドまで父親に車で送ってもらう。
「すまんかった」と父親が車内でボソリと謝った。
「オッさんは悪くないよ」と俺が言う。
「お父さんが不甲斐ないから、あんなしょーもない奴にバシッて言われへんかった」と父親が言って無理して笑った。
「それとお前のことも気づいてあげられへんでごめん」と父が言う。
本当に悔しそうに父親が言った。
「ええよ」と俺は呟いた。「冒険者ギルドまで送ってくれたら先に帰っといて。ちょっと仕事探すわ」
「本当にごめん」と父がボソリと謝った。
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