第3話 プロセスエコノミー
「プロセスエコノミーって知ってるか?」
と父親が尋ねた。
「知らん」
と俺が答える。
「そういう事もちゃんと勉強しとかなアカンで」
と父親が言った。
「プロセスエコノミーとは商品を生み出す過程を発信して収益に繋げることを意味するねん」
とオッさんが言う。
コレは腹立つヤツや、と肌感でわかった。
急に喋り口調がイキりはじめたもん。
イキる、というのは大阪弁で調子に乗っているということである。
牛丼をご馳走してもらったお礼にダンジョン作りを手伝うことになってしまった。
俺は父親のアイフォンを渡されて動画を撮影をすることになった。そしてプロセスエコノミーの腹立つ説明を受けている。
「っで、そのプロなんちゃらエコノミーと動画の撮影に何の意味があんねん?」
と俺は尋ねた。
「アンタ、バカ〜」と父親はウフフフと笑いながら何かのアニメの真似をする。
「本当に聞いた俺がバカやった。部屋に戻るわ」
「嘘嘘。バカって言ってごめん。聞いてくれてええんやで。なんでもお父さんに聞いてくれてええんやで。お父さんが知ってることは何でも教えるから」
ウザっ。
「もう動画は撮影しといて。プロセスエコノミーの説明しているシーンを撮るから」
とオッさんが言う。
俺は父親がキモすぎてサブイボが立った。サブイボというのは鳥肌のことである。
この人の血を引き継いでいると思うだけで全ての血を取り出したい気持ちである。
「ちゃんと動画回してる?」
と父親が尋ねた。
「回してるよ」
と俺が言う。
一応、要望通りにアイフォンの録画機能で父親を撮影した。
「はい、どうも〜。山田さん家のダンジョン作りです」
といきなり父親がテンションを爆上げして喋り始めた。
「ごめんごめん、なにそれ? めっちゃキモいんやけど」
と俺が言う。
「なに言ってんねん。コレは動画の始まりの挨拶やんけ」
と父が言う。
「恥ずかしい。外ではやらんといてな」
と俺が言った。
「これをユーチューブでアップしてんねんぞ。外もクソもない」
と父親が言う。
「もうネットにアップしてんのかい? とんだ生き恥やな」
と俺が言う。
「生き恥って言うな。バズらな死ぬねんぞ」
と父親が言う。
「バズらな死ぬ50代は今すぐ死ね」
と俺は強い口調で言った。
「今、息子がカメラマンをしているんですが、息子からいい質問が来たので皆様にも説明させてもらいます」
恥ずかしい。
動画の撮影している俺がめちゃくちゃ恥ずかしい。
「俺なんも質問してへんやん。誰も聞きたくないことをネットで拡散して説明するな」
と俺は呟いた。
「プロセスエコノミーとは何ぞや? という質問を息子からされました」
父親は俺を無視して続ける。
「だから、そんな質問してへんって。そんなん一切興味が無いわ」
「プロセスエコノミーとは」
と父親が人差し指を立てた。
その人差し指にも腹が立つ。
「指を立てるな。その指も腹立つわ」
「商品を生み出す過程を発信して収益に繋げることを意味します。そして私の商品というのはダンジョンでございます。ダンジョンを生み出す過程を発信して収益に繋げようとしているのでございます。収益化しなくても、これを見た人が山田さん家に来てくれたら、それは宣伝効果になるのでございます」
喋り口調も全てがキモかった。
「はい、カット。これショートにするから」
と父親が言う。
動画の収録機能を停止する。
そしてため息を付いた。
「キツない?」
と俺は父親に尋ねた。
父親にユーチューブをやられたら息子としてはキツい。
キツいというのは恥ずかしい&悲しい&誰にもバレたくない、ということである。
「失敗する事がキツイって言ってるのか? よく聞け。忍」
と父親が言った。
俺の名前は忍である。
「失敗したら誰にも気づかれへんねん。だから恥ずかしいことは一切ないねん。チャレンジしなアカンで」
「ホリエモンの受け売りかいな?」
と俺はため息をついた。
失敗っていうかオッさんの今の存在がキツイわ、と俺は思った。あまりにも攻撃力が高すぎるので口には出さなかった。
俺は父親にアイフォンを渡す。
そして自分のポケットから自分のアイフォンを取り出す。
「チェンネル名は?」
と俺は尋ねた。
「山田さん家のダンジョン作り」
と父親が言った。
「本名を使うな」
と俺は言いながらユーチューブの検索エンジンに打ち込む。
すでに10本以上の動画が上がっていた。
だけど再生回数は全て10PV以下である。
「ホンマに誰にも気づかれてへんやん」
と俺は呟いた。
何が収益化やねん。収益化なんて夢の夢やんけ。
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