第47話 想起-7
術者のみならず、騎士たちも間近に控えた魔物討伐への準備に動き、王宮内は慌ただしかった。そんな時、メディウムからフォルテへリリーの腕輪が届けられた。少し前に神殿を訪れた時には、触れることもなかったそれをしっかりと両腕に嵌めたフォルテは、普段、自分が使っているバングルよりも強い魔力を感じた。これにウェルスの歌を乗せたらどれだけ強くなれるのかと、武闘家としての気持ちが昂っていく。
「ウェルス、いる? 」
高揚感を隠せないままウェルスの部屋の扉を叩くと、中からは当然のように落ち着いた声でどうぞと聞こえた。その声に、何となく恥ずかしくなったフォルテは、一つ咳払いをして自身を落ち着かせてから扉を開けた。部屋の中では、ウェルスがゲンティアナの神殿で手に入れた魔導書を眺めている。
「ねぇ、フォルテ、これはやっぱりティアナのものかな? 」
昨日、アカデミーの『宝探し』が無事に終わったという報告をリテラートたちから受け取ったフォルテとウェルスは、同時に彼らが得た神子と女神の記憶も共有された。それはまるで物語を聞いているような感覚だったが、自分たちがルーメンを巡って体験してきたことや、今、起きていることを考えればただの物語ではないと思えた。
「何か分かったの? 」
「ううん、そういう訳じゃないけど、そうだったらいいなって思って」
近くに来たフォルテを見上げたウェルスは首を傾げ、次にその腕に見覚えのない腕輪を見つけて納得した。何時もと纏う魔力が違って感じたのは、リリーの腕輪のせいだろう。
「届いたんだね」
近づくその時を思えば怖くもあるが、一人ではないと思うと心強かった。
「クラヴィスにも見せようと思ったんだけど、見当たらなくて」
「多分、騎士団の詰め所にいると思うよ。トルニス様から指揮を任されていたから、色々あるんじゃないかな」
「……」
「夕食の頃には帰ってくるよ」
頷きながらウェルスの隣に座ったフォルテは、彼の手の中にある魔導書へ手を伸ばした。綺麗な銀の装飾が施された中央に紫の宝玉がはまっている。フォルテは冬石を見たことがあり、それは雪のように真っ白だった。ティアナのものだったらいいとウェルスは言っていたが、冬石と同じだったら白であるはずだ。やはり、これはティアナのものではないのだろうか。
「ウェルス、この宝玉に見覚え……っ」
聞きながらフォルテが宝玉に触れたその時、ぐらりと視界が揺らいだ。
「フォルテ! 」
遠くでウェルスの声を聞きながら、落ちていく感覚にフォルテは瞳を閉じた。
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