第46話 想起-6


  アカデミーでの『宝探し』最終日

 最後の手懸りを得たグループが続々と庭園に向かっていた。何時しか出来ていた互いの協力体制のため、彼らが先を競うそぶりは見られず、寧ろ、下級生の手を別のグループの上級生が引く姿も見られた。


 最終地点となった場所には、ソリオを中心にティエラとシルファの姿があった。七か所目で受けた問題の答えを伝え、彼らの手から水晶の欠片を受け取ったリーダーたちは、自分たちのグループにそれを持ちかえるが何故か仕掛けを発動させないでいた。

 そうしていくうちに庭園内は生徒たちで溢れかえっていく。


「皆、どうした? 答えを得たなら仕掛けを……」


「ティエラ様、もう少しだけ待ってください」


 近くにいた生徒にティエラが声を掛けると、待ってくれという。何をとは言われなかったが、笑顔で応えた少女にティエラは分かったと返していた。そうしてこの場所に到達していないグループが残り三つとなった時、そのグループがそれぞれリテラート、カーティオ、リデルの手を引いてやってきた。


「ソリオ、これはいったい……」


「俺にも何がなんだか」


 手を引かれてやってきたリテラートは、困惑を浮かべた表情でソリオに問いかけたが、聞かれたソリオも訳が分からずにいた。


「皆、揃ったな」


 それまで黙って皆のやり取りを見ていたシルファが、少しだけ悪戯な笑みを浮かべて五人を見た。


「え? シルファ? 」


「お前たちに礼がしたいと、研究室の生徒を通して相談を受けたのでな。最後のクリアを共に過ごした皆で迎えるのはどうだろうと、助言させてもらった」


 なるほど、とシルファの話に頷いたリデルは、皆の前にソリオを押し出した。


「そういう事なら、ソリオが合図を出すのがいいかも」


 戸惑いながらも頷いたソリオは、庭園に集まった生徒や身を寄せている人たちを眺めた。所々、意地悪な問題も入れていたにもかかわらず、最後までどのグループも諦めずに到達してくれたことに感謝するのは自分の方だと思う。胸の奥から込み上げる何かを感じながら、もう一度頷いたソリオは、せーのと声を掛けた。


「primaver!」


 重なった多くの声に応えるように、それぞれの手の中で水晶の欠片はソニアの花へと変わっていく。皆から感嘆の息が漏れる中、花の無い冬の庭園に橙色の花が咲き誇る。


「ちなみに、この後はあれ、どうなるんだ? 」


 こっそりと後ろから耳打ちしたリデルの言葉に、ハッとしたソリオはばつの悪そうな顔をする。


「考えてなかった……」


「やっぱり、おっちょこちょいだ」


 くすくすと笑ったカーティオは、両の掌で器を作るとそこに魔力の光を貯めた。そしてそれを空に放り投げると、庭園中に降り注いでいく。光の粒が水晶から作られたソリオの花に触れると、光と共にはじけて散っていった。


 その夜、ソリオは一人でソニアの神殿があった場所に立っていた。

 カーティオたちと最初に訪れた時には、感じられなかったものが今ははっきりとわかる。時の狭間に置かれた神殿を、昼間の生徒や民の祈りが包んでいく様が。そして祈りが届いたのと同じように、神殿からも神気の道が出来ていることに気付く。それは見落としてしまいそうに細かったが、幾重にも連なる鎖のように強固だった。ならば、寧ろ、神気が通った道があったから、祈りが届いたと考えるべきかもしれない。


「本当に、ティエラの加護を受ける者がいる……のか? 」


 神殿からこの地まで伸びた神気が行く先を探ってみるが、ここからは他の気配がして何処に繋がっているのかまでは分からなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る