第20話 追及-2


 その頃のアカデミーでは、敷地内を覆う結界の準備が進められていた。

 既に三つの守護石は要になる台座に収められている。発動時に何が起こるか分からない為、他の生徒と家族たちは中央の大講堂に集められていた。そこで今後の説明と、『宝探し』の詳細を伝えられることになっている。

 グループ分けは既にソリオとティエラに寄って行われているから、それが終われば開始を待つだけだ。こうして子供たちが一堂に会する機会は今までなかった事もあり、上級生に逢えると瞳を輝かせるファーストの生徒たちも少なくない。何せ、今のセカンドには数年後の各国の中枢を担う者たちが居るのだ。学年間の交流がほとんどないアカデミー内では同じ場所に集う事すら貴重な機会で、しかも今回はその憧れの生徒たちが中心にこの企画を動かしている。それは子供の家族たちも同じようで、講堂内は熱気のようなものが感じられた。

 壇上に上がったリテラートは、割れんばかりの拍手に迎えられて幾らか驚いたようなそぶりを見せた。しかし、それも一瞬の事で、真剣な表情を浮かべた彼が中央に立ち、すっと手を上げればピタリと拍手は止んだ。


「皆、ありがとう。突然の事で驚いた者も少なくないと思うが、先に各国より発表された通り、未来を担う君たちとそのご家族はこのアカデミー内で保護する事になった。しばらくは不安も伴うだろうが、どうか、我々の指示に従って欲しい。この後の事については、ソリオより説明がある。よろしく頼む」


 舞台袖でそれを眺めていたリデルは、流石だねと呟いた。その言葉に得意げな顔を見せたソリオに、ふふっとティエラが笑う。

 戻ったリテラートの代わりにソリオが中央に立ち、今度はこの後の事について説明を始める。基本的な過ごし方については、アカデミーに入る時にされていたためそれを簡単に済ませると、今度は『宝探し』について話し始めた。途端にソリオの顔が活き活きと輝くのを、舞台袖の面々は楽し気に眺めている。


「今、皆さんの座席を指定させていただいた通り、これが皆さんの大きなチームとなります。サードは実際にはゲームには参加しませんが、下級生たちの相談を受けてくれます。彼らはどのチームの生徒に対しても応えることは出来ますが、その答えが有利になるか、不利になるか……それを互いに見極めて下さい。セカンドとファーストは、さらに小さなグループで動く事になります。もちろん、他のグループと協力も構いません。自分たちのチームが最終的にトップに立てるように色々考えてみてください。個別の質問は、各チームのマスターに」


 ざわざわとしだした講堂内をソリオは見渡した。

 最初は各自の出身国を主体に別けてみた。恐らくそれならばチーム内は上手くいくだろう。だが、ルーメンの縮図を、皆が協力する意味を確固たるものにしたかった。だから、生まれた国や出自にこだわらず、まんべんなくチームは分けたはずだ。

 グループに関しては、各チームのマスターに任せた。彼らは王族に近しい、将来的には、リテラートたちと共に政の中枢を担う者たち。下級生や普段はかかわりのない同級生たちの言葉を聞くのは、何時かの為になるはずだ。もちろん、全てが上手くいくとは思っていない。ぶつかる事もあるだろう。それでも、その後に何かが残ると信じている。まだ、自分たちは立場に縛られない。だからこそ、出来るはずだから。


「では、最初の手懸りを配ります。ですが……ここで、僕と約束をして下さい。それを開く事が出来るのは、明日からです。一応、魔術で封をしてありますが、本当に簡易なものですから、開けようと思えばすぐに開けられるでしょう。でもね、約束を守れなかった方の手懸りは見えなくなってしまう。手懸りを見たいならば約束を守るだけです。ほら、簡単でしょう? それでも、心配な方は信頼できる人に預けてみるのもいいでしょう。見えなくなってしまったら、それを打ち明けて誰かに見せてもらえばいい」


 先程とは比べ物にならないくらいのざわつきに、ソリオはにっこりと満足そうに笑う。目の前にあるそれをどうするかは自由だ。先にある大きな利の為に今を耐えるか、目の前にあるそれへの好奇心に負けて利を捨てるか。ファーストの年少者たちには少々酷かもしれないが、世界はそんなに優しくはない。その時立たされた場所から、自分で最良の道を選ぶしかないのだから。


「これ、ソリオが考えた仕掛け? 」


「……あぁ」


「そ、ソリオの本領発揮なのね」


 先程よりもさらに活き活きとしたソリオの様子に、ティエラとリデルは苦笑を浮かべ、リテラートは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。普段は柔らかな印象のソリオだが、その実はそんなに優しいものではない。


「これでは、ソリオの事もっと好きになっちゃう子たち出てくるんじゃない? 」


「そう……いうものか? 」


「そういうもんでしょ。ソリオも楽しそうだし、良かったんじゃない」


 ソリオが組み立てた今回の『宝探し』の目的は、これを通して横だけでなく縦への繋がりを持たせる事。それが子供たちにした説明だが、実際には暇つぶしという名で非常事態への気を逸らす事が大きな目的だ。

 パニックになった子供の制御は難しい、例え、傍に親がいようとも。だから、そうならない様に意識を向ける。運営側に入った生徒たちにはそう説明してある。彼らもまた、各国の中枢を担う人材だった。

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