第13話 初めての共同作業

 

「な……

 ガーネット。何で……?」



 僕はあれだけ、君を拒絶したはずなのに。

 熱と痛みで朦朧とする意識の中、ディアマントはそれだけを呟いた。

 ガーネットの背後には、侍女のマリンまでがぴったりと寄り添っている。

 あぁ……犠牲は、僕だけで良かったのに。何故君は――



 この奇襲に一度は面食らったものの、イフリートは悠然と頭を上げた。

 そしてガーネットにその矛先を向ける。


「ククク……王子の花嫁よ。

 今更情にほだされ王子を助けに来たのか知らんが、無駄なこと――

 貴様についても、闘技場に使いを送り既に分析済みだ。

 貴様の得意術は炎。我に炎は効かぬ!!」


 砕けるかというほどに壁を揺さぶる、イフリートの下劣な哄笑。

 しかしガーネットは一歩も動じない。


「あ、そう。

 あの時のサイクロップス、どうも変だと思ってたけど、あんたの仕業だったのね。

 でも、そんなの関係ないの……

 私、王子とお話があるから。どいてくれない?」


 この状況下でありながら、にこやかに微笑むガーネット。

 一切躊躇することなく、彼女はイフリートの正面を堂々と素通りする。

 最早勝利を確信しての余裕か、嘲笑しながらその素通りを許してしまうイフリート。



 そして彼女は王子の目の前に座り、傷だらけの手を優しく取った。



「ガーネット。君は……!」

「待って。

 色々言いたいことはあるけど、とりあえず、時間がないから。

 ちゃちゃっとやっちゃいましょ♪」


 思わず叫びかかった王子の口を、軽く指で塞ぎながら。

 その耳に、ガーネットはそっと囁く。誰にも聞こえないように。



 ――ねぇ。覚えてる?

 私が教えた、あの言葉。



 それだけで、王子は全てを察した。

 ガーネットが何をするつもりかを。



 ――うん、覚えてる。

 君のとっておきの、おまじないだからね。


 ――準備は出来てるの。ぶっつけ本番だし、うまくいくか分からないけど。


 ――でも、こうなったらやるしかない。



 炎の粉が舞い踊る中、決意を固める王子。

 そんな彼を見て、ガーネットはふと何かに気づいたように目を見開いた。


「あ、あら? 

 ディア、頭の水晶の下……そ、それって……!」


 この状況下でありながら、思わず顔を赤らめるガーネット。

 そんな二人に、イフリートは一気にブチ切れる。


「貴様ら、何をコソコソと!!

 我は魔王となる者!! 水晶の王子を喰らい、この世の頂点に君臨する者ぞ!!

 貴様の炎など、足元にも……」



 だが、その瞬間。

 ガーネットは王子の手を離さないまま、もう片方の右手をぐっとイフリートに突きつけた。

 王子も再び、ぼろぼろの剣先をイフリートにかざす。


 ガーネットの手には、炎術の紅。

 そして王子の剣からは、瞳の色と同じ、ほのかな翡翠の光が生まれていた。

 二人の目に、もう迷いも恐怖も一切ない。


 それぞれの光が融合しながら溶け合い、イフリートに突きつけられた剣の先端に、膨大なエネルギーが閃光となって集う。



「なっ……!? こ、この光はまさか……! 

 待て、待ってくれ、王子は返す、だから……」

「やかましい!

 私のディアを喰らおうとした罰、その身で味わえ!!」



 今更のように命乞いをするイフリート。しかしガーネットも王子も待つわけがない。

 二人の唇から、あふれ出す呪文。

 それは、かつてかわした、二人だけの秘密の『おまじない』。



「情熱の炎は、慈愛の雫とともに」

「猛き水流は、勇気の結晶とともに」

「「ふたつの力は光となる!

 対消滅術・クロスフレアクラッシャー!!!」」



 一気に収束し、爆発する光。


「ぶ、ブギャアアァアアア!!?!

 こ、これは……我の力となった、水晶が!!?」


 閃光の嵐が、イフリートに降りそそぐ。

 それだけではない。イフリートの身体が、何故か内部からどんどんはじけ飛んでいき――


 遂には、骨まで砕けて爆発四散した。

 他の多くの魔物たちを巻き込んで。



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