第12話 花嫁の到着
※今回、若干えぐめの暴力描写があります。苦手なかたはご注意ください。
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「水晶が、生えてこない?
なんで……?」
茫然と呟く王子。
今まではどれだけの攻撃を受けても、どれほど自身を恨んでも、憎たらしいほどすぐに新たな水晶が生まれていたのに。
そんな王子のもとへ、ゆっくりと近づくイフリート。
「歴代王子の自爆には苦労させられたものよ。我はあの爆風のおかげで、何百年もの間眠るハメになった。
それだけの苦汁を舐めさせられたというのに、我らが何も対策をしていないと思ったか?
貴様の水晶の力は、この炎が全て吸収する。貴様が自己を犠牲にしようと、もはや何の意味もない。
今日はクリスタッロ最期の日――
人間の世界は滅ぶ。長年の魔族の願いが、今、叶うのだ!」
「そんな……
そんなはずは……っ!!」
絶望に見開かれるディアマントの瞳。
何も出来ず、歯噛みするしかないオニキス。
哄笑するイフリート。
「災厄は止まらぬ。今こそ、我ら魔族が地上を蹂躙する時!
永劫なる魔の世界が訪れ、我はその魔王となるのだ!!
そう、貴様を喰らうことによってなァ!!」
そう言い放つが早いか。
イフリートは傷ついたディアマントに向かって、その剛腕をひと薙ぎする。
それだけで再び彼の身体は吹き飛び、さらに毒爪までもが胸を深くえぐった。
「ぐぁ……っ!」
「王子ーっ!!」
オニキスの絶叫にも、イフリートは止まらない。
倒れた王子の身を容赦なくわしづかむと
そのまま、あんぐりと開いた真っ赤な口腔へ、彼を投げ入れた。
「――!!!」
オニキスはもはや声も出ない。
ただ、喰われる王子を、無二の親友を、凝視することしか出来ない。
ガリ、ガリッ、ムシャッ……
酷い咀嚼音に混じって、次々と水晶が潰される音が響く。
それは、王子の命が砕ける音か。
もはや、これまでか――
全てを諦め、オニキスが両の瞼を閉じかけた
――その刹那。
「人様の婚約者、下品に食べ散らかすんじゃないわよ!!!」
炎の中でひときわ高らかに響いた、少女の声。
と同時に、隕石の如く巨大な火球が、一気にイフリートの横っ面めがけてぶちこまれた。
「ぎ、ギアアァアアァア!!?」
情けなくも悲鳴を上げ、頭を抱えるイフリート。
あまりの衝撃でその口から、王子が床へと投げ出される。囚われていたオニキスまでも。
痛みに耐えながら、それでも王子に駆け寄りその身を起こすオニキス。
あそこまで追いつめられながら、ディアマントはまだ息があり、意識もあった。
勿論、身体中ボロボロだったが。
「こ……この火術は……
まさか?!」
オニキスに支えられつつ、王子は顔を上げた。
その視線の先。焼け落ちかけた扉の前に、腰に両手を当ててふんぞりかえっていたのは
――炎を映し、金色に輝く緋の髪。
いつもは可愛い団子にまとめられていたその髪は、今は全ての拘束を振り切るかのように解かれ、さらさらと熱風に舞っている。
そして、決意と憤怒に燃える大きなブルーの瞳。その姿は間違いなく
――ガーネット・グルナディエ。
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