第9話 ざまぁしてやらなくちゃ!


 全員の間に、沈黙が流れる。マリンでさえも、ガーネットに口を挟めない。

 ボロボロになった剣の柄を握りしめながら、ぶるっと震えるサファイア。


「私は……ディアマント王子を、

 ……心から、お慕い申し上げて……」

「違う。

『愛してる』って、はっきり言える?」

「…………!!」



 ぐっと噛みしめられた、サファイアの唇。

 やがて、漏れた叫びは。



「……言えませぬ」

「えっ?」



 ばっと顔を上げ、まっすぐにガーネットを見据えるサファイア。

 そのまなじりには、涙さえ光っていた。



「言えませぬ、ガーネット様!

 それが証拠に、私が愛しているのはオニキス様です!

 ディアマント王子は尊敬こそすれど、そのような感情を抱いたことは一切ありませぬ!

 ましてや、あそこまで寵愛していらっしゃるガーネット様から奪おうなどと……!!」



 良かった――

 ガーネットは今度こそ、ほっと胸をなでおろした。

 それとは対照的に、感情を爆発させるサファイア。



「オニキス様はご自分の身も顧みず、ほぼ全ての策を講じられていました。

 ガーネット様を遠ざける為の策も、その一つです。

 勿論、王子は激しく拒絶されていましたが――

 ガーネット様をお守りする為ならば仕方がないと、受け入れ……だから私も、あの……!!」

「だから、王子の接吻を受け入れたということね」

「申し訳ありません……どのようなお咎めでも!!」



 ガーネットの腹は決まった。

 がくがく震えるサファイアの肩をそっと抱きながら、ねぎらいの言葉をかける。



「……ありがとう、サファイア」

「えっ?」


 思いがけない言葉をかけられ、サファイアは顔をあげる。

 そこにはガーネットの穏やかな、それでいて全てを見通すかのような笑顔があった。


「ホントに貴女は真面目なんだから~。

 それで、オニキスは知ってるの? 貴女の気持ちを」

「いえ……

 一度も、心のうちを明かしたことはありませぬ」

「そっかー。

 貴女の気持ちを知っててやったのなら絞首刑だけど、そこまでじゃなくて安心した」


 うーんと伸びをし、腕の曲げ伸ばし運動を始めるガーネット。いつも闘技場に赴く時の彼女の癖だ。

 サファイアは再び唇を引き締め、そんなガーネットに告げる。


「王都は今や火の海です……

 陥落は時間の問題でしょう」


 それを聞いて、さすがにマリンが顔を曇らせた。


「この短期間で、そこまで酷いことになっているとは。

 ガーネット様といえども、今度という今度は……」


 しかしガーネットは聞いちゃいない。両手に軽く紅の炎を出現させてみせるその仕草は、むしろ楽しげにすら見えた。

 トパジオに支えられながら、サファイアは懇願する。


「それでもオニキス様は、ディアマント王子のおそばにずっとついておられます。恐らく王宮に残っているのはあの二人だけ――!

 私も共に命果てるまで戦う覚悟でいましたが、オニキス様はそれを許さず。

 トパジオ様をお守りして逃げろとの仰せで!!」

「でもサファイアは……やっぱり、王子もオニキスも助けたかった。

 それで思いついたのが、私への救援ってことね」


 その言葉を聞いたサファイアのまなじりから、涙がぽろりと零れた。


「い……いかような罰もお受けいたします。

 どうか、どうかディアマント王子を……あの二人を、お救いください……!!」



 ガーネットは天の向こう――王都の方角を振り返る。

 激しい紅に染まっている王都の空。

 しかしその瞳に、揺らぎは一切なかった。



「全くもう。

 酷い奴ね……ディアも、オニキスも」



 腕組みしながら王都を見据えるガーネット。

 その背後に、マリンがぴったりと寄り添う。


「正直怖くはありますが、仕方ありませんね。

 そのような、酷い方々だからこそ――」


「そうよ。酷い奴らだからこそ……

 ちゃんと私たちが、ざまぁしてやらなくちゃ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る