第10話 王宮炎上
それから半日ほど経過した後――
王都は炎上していた。
王宮には既に魔物たちが大量に侵入し、ガラスの彫刻が美しかった建造物も次々に蹂躙され、破壊されていく。
王宮を守る兵士や術師たちも殆どが負傷し、強引に避難させられていた。勿論、ディアマント王子の命令によって。
そして、王宮の最上階。玉座の間でもあるこの場所では――
第一王子ディアマントと、その臣下たるオニキス。その二人だけが残り、無数の魔物たちと戦っていた。
既に最上階まで魔物が次々に飛び込んできたが、そのたびに強烈な剣術で撃退するディアマント。真っ赤な絨毯が魔物の黒い体液で染まっていく。
そんな彼の背後を守るオニキス。治癒術で王子を癒しながらも、細剣を構えたその手は擦り傷だらけだ。
勿論王子自身も身体じゅうに傷を負い、その身体から生えた水晶は半分以上が砕け散っている。それでも水晶は後から後から生えてくるのだが。
このような状況に陥って、約半日――
オニキスと背中合わせになりながら、王子は尋ねた。
「本当にいいのかい? オニキス。
サファイアのこと……」
「……良いのです。
ガーネット様を守り、王子の望みを叶える。その為なら致し方ありません。
元よりサファイアは、僕には高嶺の花。強くてまぶしくて、手が届かなかった」
「そうかな?
君も彼女に負けないくらい勉強して、ここまで登りつめてきたのに」
「もう、過ぎたことですよ。
彼女はガーネット様やトパジオ様と一緒に、無事逃げのびてさえくれれば
――っ!!」
そんな二人の至近で、ガラスの砕け散る轟音が響いた。
倒れた魔物の上をさらに無数の魔物が踏みつけ駆け上がり、王子たちに襲いかかってくる。
「オニキス! 下がれ!!」
「王子!!」
魔物たちの目標は勿論、ディアマントだ。
この国の王子を喰らい、水晶の力をとりこむ。その為だけに魔物たちは侵攻してきた。
逆に言えば、ディアマントさえ犠牲になれば大災厄は止まる。
それが分かっているから、王子は自分以外の全員を王宮から逃がした。父王も、弟も。
愛するガーネットまで、全員を。
――それでも、自分だけは。
自分だけは王子のそばに、最期までいたい。
それは随一の参謀であり、同時に王子の幼馴染でもあったオニキスの意地だった。
王子と共に食われて果てようとも、それは彼の本望だったと言える。その強い意志は、さすがのディアマントでも抑えきれなかった。
――しかし。
「うっ……!?」
知略に長けても、近接戦闘はどちらかと言えば不得手なオニキス。
得意の氷術でどうにか奮闘していたものの――
眼前に迫ったのは、二人の身長を遥かに超える体躯をもつ、人型の魔物。
しかも身体じゅうに紅蓮の炎をまといながら、他の魔物をその図体だけで威圧しつつ、この最上階まで侵入した怪物は――
「これは――イフリート!?
とうに滅びたはずの伝説の魔族までが、ここに……?」
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