第8話 真意

 

 もうガーネットは、いてもたってもいられない。

 自分だけ、何も知らなかったなんて。

 王子がそれほどまでに重いものを背負っていた。そんなことも分からないまま――

 自分はただ、王子を責めるばかりだったとは。


「な、何故そんな大事な情報が、今の今まで隠されてたのよ?」


 慌ててサファイアを問いただすガーネット。何とか諫めるマリン。


「それはそうでしょう。王子を犠牲にすれば国が救われるなどと……

 国民が知れば、大変なことになります」

「だけど、私はディアの花嫁よ。教えてくれたって!!」


 サファイアはひたすらに頭を下げ、切々と語り続けた。


「その件はガーネット様が正式に王家に入られてから、お伝えするつもりだったのです。

 しかしそれより早く、大災厄は発生してしまった。

 最初に予兆が見えたその時から、我々家臣団は夜を徹して協議しました。ガーネット様にも事情をお伝えし、共に力になっていただくべきだと。

 ですが――ディアマント様は、そうはなさらなかったのです」



 ガーネットの胸に、ストンと何かが心地よく落ちる感覚がした。

 あぁ……なるほどね。全部分かった。

 ディアなら、考えそうなことだ。

 私を抱く時にいつも私の身を案じてくれた、ディアなら。



「つまり……

 花嫁まで巻き込みたくない。自分ひとりが犠牲になれば皆が救われるなら、それでいいじゃないか。

 そう言ったのね、ディアは?」

「……はい」



 平身低頭したままのサファイアを見つめているうち、ガーネットも次第に冷静さを取り戻していく。

 そして同時に、ある決意がその胸にみなぎっていた。

 だがその前に、一応確認しておかねばならないことがある。



「それでは何故、王子は貴女に……ええと、こほん……

 せ、接吻を、したのかしら?」



 何となく答えは分かっていたが、敢えてガーネットは咳払いしつつサファイアに尋ねた。

 どんなに重大な理由があれ、婚約者たる王子が別の女に自分の眼前でキスをした。これだけは揺るぎない事実なのだから。

 案の定顔を赤らめながら、サファイアは弁解する。それまでとはうってかわって、口調がおぼつかない。


「あれは……その……

 私が、提案したのです。

 強引にでもガーネット様を説得するには、それしかないと。

 事実をそのまま話せば、ガーネット様は頑なに王宮に残られ、お命が果てるまで王子と共に戦われてしまうだろう……

 それは、王子の望みではないと」

「ふーん。そう、オニキスが言ったの?」

「い、いや! その、違っ……!!」


 真っ赤になってぶんぶん頭を振るサファイア。

 しかしガーネットはここぞとばかりに畳みかけた。


「貴女がそんな策略が出来る人じゃないのは分かってる。

 だからといって、ディア自身が思いついたとも考えられない。あの不器用さは天下一品だしね。

 だとすれば、頭のキレるあの参謀様しかいないじゃない? 私を逃がす為だけに、あんなふざけたお芝居を発案できるなんて」

「違います……オニキス様は!」

「じゃあ本当に、貴女はディアに懸想していて、ディアに接吻させるよう仕向けた。

 そういう解釈でいい?」


 がくがくと震え出すサファイアの全身。

 そんな彼女を見て、トパジオも涙ながらに訴えた。


「ねぇガーネット、もうやめてよ……!

 サファイアは僕を守りながら、ここまで必死にガーネットを探してきたんだ」

「ごめんねトパジオ王子、大事なことなの。

 ここでサファイアが嘘をつきとおすつもりなら私、彼女を処刑しなくちゃならなくなるから」


 ガーネットが静かに告げただけで、トパジオも黙り込む。

 彼女の身体から発せられる気迫は、周囲の草さえもわずかに揺らすほど。



「さぁ、サファイア。ちゃんと本当のことを言って。

 貴女は私以上に、ディアを愛している――

 そう誓える? その剣に」


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