13日目③

華楓ちゃんの家で小説を読ませてもらっていたんだ。

それで、家に電話がかかってきて、いちごちゃんは急いで病院に飛んで行った。斎藤さんに車を出してもらったとかなんとか。

ノワとフジコと、後を追おうかって話をしたけど、いちごちゃんから先を読んだかのような連絡が来た。

『家を空けてしまうのは怖いので、本当に申し訳ないのですが家のお留守番をお願いしてもいいですか?』

そう言われて断れるはずもなく、三人で留守番をすることになった。

「こんな時にいうことじゃないかもしんないけど、豪邸でお泊りとかちょーテンション上がるくね?」

「まあ、そうかも。」

「だいぶ楽しんでる自分いる‥‥‥。華楓ちゃんいたらもっと楽しかったんだろうけど!」

「アヤチそれ言うの禁止~!また今度それやればいいやん。取り合えず楽しんじゃおうぜ!家のものなんでも使っていいって?」

「そう、いちごちゃんが。斎藤さんが夜くらいには帰るだろうけど、遅くなりそうだからそれまではご自由にどうぞってさ。夜遅くに家に帰すのも申し訳ないからもしよければ泊まってくださいだって。帰りたければ斎藤さんに言えば送ってってくれるみたいだけど。」

「すげーな。ここ使い放題かよ。喜んで泊ってくわ。死んでもないっしょこんな贅沢。」

「ちゃんと遠慮してね?」

「さすがにな!常識あるから!」

「ノワは怪しいからね‥‥‥。」

そうして豪邸でのお泊り会が始まった。いちごちゃんは華楓ちゃんのことで病院に行ったんだろうからめちゃくちゃ心配だけど、この二人といられるなら、少しは安心していられそうだ。斎藤さんが帰ってきたら、色々聞いてみよう。

「華楓っちの部屋とか入っちゃマズイ?」

「さすがに勝手に入るのは‥‥‥。」

「だよな~。ワンチャンあるかもしれないし、いちごっちに聞いてみるわ!」

と言うと、連絡をし始めたらしい。そんなこと聞けるのノワくらいだろうなと思いながら、ちょっと華楓ちゃんの部屋が気になっている自分がいる。一回だけ入ったことがあるけど、ちゃんとは見てないし、どんなものに囲まれて生きてるのか気になる‥‥‥。もちろんダメだったら入らないけどね!

「あ、いいって!私の部屋には入らないで下さいだってさ。」

「いいんだ。」

「まあ、ちょっと気になってたし?いいっていうならお邪魔しちゃおうか‥‥‥?」

「よっしゃ!で、華楓っちの部屋ってどこだ?」

「あ、多分こっち。」

前にお見舞いに来た時にお邪魔したから覚えてる。

華楓ちゃんの部屋の前に行くと、誰もいないのにドアをノックする。

「お邪魔しまーす。」

一度見たことのあるお部屋。華楓ちゃんの部屋だなってすぐに分かるような空間だ。

「お~!ひっろ。めっちゃ華楓っちっぽい!」

「ね。結構想像通りかも。」

大きな本棚やピアノ、机にベッド。何度見ても素敵な部屋だ。

「このぬいぐるみ、カエちゃんみたい。」

そう言ってノワが手に取ったのは、ふわふわのたぬきのぬいぐるみだった。子犬くらいのサイズで、腕の中にすっぽり収まっている。

「めっちゃ似てる!」

「言われてみれば似てる!かわいい。華楓ちゃーん。」

華楓ちゃん似のぬいぐるみは大人気だった。

「今日一緒に寝ようぜ。華楓っちの分身。」

「いいかも。私もこのぬいぐるみ欲しいな。」

「え!ウチも欲しい!みんなでお揃いのやつ!」

「めっちいい。このサイズのも欲しいけど、キーホルダーとかもないかな。そしたらそれも欲しくない?」

「最高?今度華楓っちにどこで買ったか聴こう!」

「そうだね。あ、これ‥‥‥。」

「お、何か見つけた?」

「いや‥‥‥。なんでもない。」

「えー、なんだよー!あ、もしかしてこれ……?」

フジコとノワが見つけたのは、机の上にある栞だった。楓の押し葉の栞が4つ。ちょっと不格好で手作りっぽい。

「これ、華楓ちゃんが作ったっぽいよね‥‥‥?」

「そうじゃない?手作りって感じしてかわいい!」

「それな?やっぱ天才だわ。創作の才能ありすぎ。」

「これ、私たちに渡そうとしてくれてたんじゃない?」

そう言われて改めて栞を見てみると、H、N、Aと書かれていることに気がついた。私たちのイニシャルだ。

「ガチじゃん。やることがかわいいな華楓っちは〜!」

「フジコよく気づいたね。」

「うん。なんとなくってのもあったけど。」

「私たちは気付かないふりしよ!華楓ちゃんから貰った時、めちゃくちゃに喜びたいし。記憶から消す!」

「だなー!記憶よ消えろ〜。」

「ふふふ。そうだね。」

そして、華楓ちゃんの話や先生の話、バイトの話や最近あった面白い話が始まった。知らないうちに結構な時間が経ってしまう。雑談って嫌なことも時間も全部忘れられちゃう。

「ねぇ、もうそろそろ下戻らない?お腹空いてきたし、なんか食べたい。」

「あり!ケーキあるかなー?」

「ほんとに遠慮を知らないねノワは!まあ、家にあるものは何でもって言ってたし、あったら食べてもいいんだろうけどさ……。」

「よっしゃ。アヤチもそう言ってるし、ケーキ探そーぜ!」

そう言って私たちはリビングの方へ戻った。華楓ちゃんの家、全部の部屋を見たことがあるわけじゃないけど、本当に広い。華楓ちゃんの部屋からリビングまでくらいなら分かるようになってるけど、他の道通ったら自分がどこにいるか分かんなくなりそう。

「ケーキっケーキっ!」

「キッチンのおっきい冷蔵庫の中じゃない?」

「アヤチ天才か?絶対あるじゃん。」

うちよりも2倍くらい大きい冷蔵庫を開けると、様々な食材と、ノワが望んだケーキが入っていた。

「あったー!食べよーぜ!何がいい?」

「まあ、なんでも食べてよさそうだったしお言葉に甘えて……!チョコある?」

「ある!フジコは?」

「チーズケーキある?」

「ある!マジなんでもあるな。ウチショート〜。あ、うまい紅茶あるかな。」

「あるだろうけど、それこそどこか分かんないね。」

ここまでくると、なんだか悪いことをしているような気がしてきた。いいって言ってもらってるけど!

子どもの頃、親がいない時に内緒でお菓子食べまくってたのを思い出す。今思えば絶対バレてただろうけど。

華楓ちゃんもそういうことやったのかなぁ。今度華楓ちゃんのお母さんに聞いてみよっと。

ケーキの準備をしていると、玄関の方からガチャっという音が聞こえた。

「あ、斎藤さん戻って来たんかな。思ったより早かったわ。」

なんとなくケーキを持っていることに罪悪感を抱きながら席に座る。美味しそうー!と盛り上がってると、斎藤さんがリビングにやってきた。

「みなさん。ただいま戻りました。お留守番ありがとうございます。」

斎藤さんの表情が曇っている、というよりも真っ黒なことを見逃すはずはなかった。

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