13日目②
「みなさん、急だったのに来ていただいてありがとうございます。」
「いえいえ~!見せたいものがあるとか言われたら来るしかないっしょ!」
「そんな大したものではないかもしれませんが……。」
いちごちゃんに呼ばれ、おうちにお邪魔した。見せたいものがあるって言うけど……。
「見せたいもの、あっちにあるので案内しますね。」
そうして通されたのはリビングだった。机の上に置かれていたのは、茶色いブックカバーがかけられた本だ。
どこかで見たことがある。
そうだ、華楓ちゃんの机によくおいてあった本だ。本が好きなのかなって思ってたけど。でも、見せたいものが本ってどういうこと……?
「これ、華楓がずっと持ってたノートなんです。私は小説か何かだと思っていたのですが、前に面会できたときに、これの中身を見てみてくれって。」
「何が書いてあったの?」
「小説です。」
「え、華楓っちが書いたってこと!?天才じゃん!」
「こんなの書いてるなんて知らなかったです。それで、これを見てほしくて。」
「ほらアヤチ、早く読めって。気になるじゃん。」
「え、私!?」
「うん。最初はアヤチが読んだ方がいい。私たちは後からでも読めるしね。」
「うん、分かった。」
2人からの後押しもあって、1ページ目を開く。まず最初に書かれていたのは『花』という文字。恐らくタイトルだろう。その次に見えたのは11/29〜という言葉。書き始めた日付だろうか。
それから先は本文で、華楓ちゃんの文字が綴られていた。
病室にいる主人公と、鳥の話だった。
主人公は余命が少ない。そんな中、病室の外から鳥がやってくる。その鳥と仲良くなり、外出禁止なのに外に出て、色々な楽しいことをする。でもそれがバレてしまい、病室にいるようになった。
鳥が去り際に落としていった羽を大切にしている。
ふと、主人公は鳥に名前をつける。『ハナ』という名前。主人公が花を見ていたときに初めて会ったから、そして去る時はいつも花の横に座ってから飛び立つから、だそうだ。
それから主人公は病室が移動となり、それから会えていない……。
すごく綺麗な話。
華楓ちゃんが書いたっていうのが伝わるどこかあたたかい話。でも、とっても悲しい話。これはきっと、完結してないんじゃないかな。まだ先がありそうな書き終わりだった。
そして読み終わった私の頬には涙が伝っていた。
これは小説だ。現実の話じゃない。これは、小説だ。まだ完結もしていない。
なぜか、自分にそう思い込ませていた。
「アヤチ……?」
ノワがそう呼びかける。
「ごめん、なんでもない。2人も読んでみてよ。素敵な話だよ。」
そうして、2人も『花』を読み始める。また、静寂が広がった。
途中、ジリリリリ、と電話が鳴った。
「あ、すみません、出てきますね。」
この時、電話呼び出し音が何を告げる音だったかなんて、知るはずもなかった。
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