12日目①

「フジコー、数学テスト範囲どこー?」

「んっとね、128ページから160ページかな。」

「長くね!?」

「長いよ~。もう最初の方とか覚えてないしね。」

「フジコが覚えてないならウチが覚えてるわけないじゃん!てかワークも宿題出るんでしょ?無理すぎ!」

「今からでも間に合う!というか間に合わせるしかない!」

今は絶賛テスト期間。一応毎日勉強はしてるけど、全部終わる気が全くしない。何か捨てるしかないかなぁなんて考え始めてしまう。

「まあアヤチとフジコは絶対できるもんなぁ。ウチがなんで二人と一緒にいれてんのか分かんねぇし。」

「ノワがいなきゃどうにもなんないでしょ。」

「やっぱ?いや~、やっぱウチがいないとダメだよな~。」

「はい、調子乗らない!今日勉強会でもしようよ。」 

「いいね。私も勉強しなきゃだし。ノワも赤点スレスレだろうし。」

「マジヤバい。中間の時2人が教えてくれたから赤点免れたけどさ、なかったら絶対赤点だったもん!卒業できたら2人のおかげよ。」

「ノワはやればできるからね。教えますよもちろん。」

「ありがたすぎ!今度メシおごるわ!」

「やったね!あ、華楓ちゃんも大丈夫かな。授業受けられてないけど。そもそもテストの日来るかも分かんないし。まあ頭いいイメージはあるけどね。」

「まあな。ま、今回ダメでも中間結果よさそうだしだいじょぶっしょ!一応ノートだけ送っとく?ウチのノートはあてになんないだろうからやめた方がいいだろうけど。」

「あ~、落書きだらけでメモ全然ないもんね……。私送っとくよ!」

テストが近くなってなんとなく憂鬱だ。おまけに昨日から雨が降り続けている。雨の降ってる冬とか、寒すぎる。今はもう12月。面倒であきらめてたけど、もうそろそろ手袋探さないと。

キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴る。もうそんな時間か。

「あとで今日どうするか決めよう。」

「うん!」

「おけ~!」

自分の席に戻り、数学のワークを取り出す。苦手な微分積分の問題を解いていく。うーん、この数なんだ?

集中して数学の問題を解いていると、ガラガラガラっと扉を開ける音が聞こえた。時計を見ると8時40分。いつも30分くらいには来るのに珍しい。

いつもの通りパパッとホームルームを終わらせて先生は帰っていった。

「ねえアヤチ!フジコも!」

「え、何どうしたの。また宿題忘れた?でも今日宿題ないよ。」

「違う!古典の授業の時スマホいじってたんだけど、いちごっちから華楓っちが倒れたって連絡来たんだって!」

「え、嘘。ノワそれほんと!?」

「昨日あんなに元気だったのに……?」

「多分アヤチのほうにもいちごっちから連絡来てるよ。見てみ!?」

本当は昼休みにならないとスマホは使っちゃいけないけど、そんなことは言っていられなかった。

電源を入れるといちごちゃんからの通知が見える。

『おはようごさまいます。

華楓が倒れました。

今病院です。』

いちごちゃんも焦っていたのだろう。たった2行、事実らしきことが羅列されていた。

「どうしよう!」

「どうしようじゃねぇ!早退して行くしかないっしょ!」

「早退ってどうすればいいの?!」

「まかしといて!3人分の早退届出して駅までダッシュするから2人は駅向かってて。ウチ間に合わなかったら先行って!」

そういえば一年のとき、私が仲良くなる前はよく早退していた。最初はうわー、ギャルだーと思って関わりたくなかったけど、授業のペアワークで話して仲良くなったんだっけ。そしてこういう時は頼りになる。

「ありがと頼んだ!」

「ありがとう。じゃあ急ごう。」

そうして急いで駅まで向かう。空からは雨が降り注ぐ。走りはするが、傘が邪魔で全然進まない。いつもは駅までなんてすぐなのに、今日はとてつもなく長い距離に感じる。足がこれだけしか動かないのがもどかしくてたまらない。

「アヤチ、大丈夫だよ。」

フジコがそう言ってくれる。フジコの顔も曇っている。でも、きっと私が不安そうな顔をしていたのだろう。

「うん、大丈夫だよね……!大丈夫……。」

自分に言い聞かせるように言葉を発する。だって昨日はあんなに元気だったんだもん。いや、もしかして元気なかったのかな。私たちがテンション高かっただけかな。

「フジコ、昨日の華楓ちゃん、ほんとに元気だった?」

「うーん。入院沙汰になったくらいだから、いつもより元気ないなとは思ったよ?でもそんなものかなって思ってた。ああ、帰り際は表情曇ってた気もする。でも帰っちゃうの悲しいからかなとしか……。でも大丈夫だよ。あの病院のお医者さんたちだもん。カエちゃんもきっと強いから。」

「そっか。まあ、大丈夫だよね。」

「うん、急ごう。」

「うん!」

駅に着くと、電車が来ているのが見えた。

「はぁ、はぁ、電車来てるじゃん!」

「ほんとだ。あそこまで走ろうか。」

「うん、がんばろ!」

そして2人でホームまで走る。発車のチャイムが聞こえ始める。間に合え!

「ドアが閉まります。ご注意ください。」

「あー!」

プシューといってドアが閉まる。

「間に合わなかったね。ごめん遅くて。」

「いや!私もめっちゃ疲れちゃってたし!まあ、もう一本遅らせればノワとも合流できるだろうし、ちょうどいいかもね。てかめっちゃ濡れたー!」

「そうだね。ノワ待とうか。飲み物買おう。」

「そうしよ!何飲もっかなぁ。」

「私ミルクティー。」

「私は、うーん。メロンソーダかな。あとノワのも買っとこう。ノワはコーラでいいいよね。」

「うん。体育のあと絶対飲んでるもんね。」

「それな、体育のあとはこれしか勝たん!っていつも言ってる。」

そしてメロンソーダとコーラを持って、ベンチに座った。

メロンソーダを喉に流し込む。生き返る~!

「めっちゃ走ったから暑い!でも表面は寒い。」

「ね、寒いのか暑いのかよくわかんない。ミルクティーあったかい方買えばよかった。」

2人で話をしていると、ノワが走ってやってきた。

「まだ行ってなかったのかよ!いや間に合ってよかったけど!」

「さっき目の前で電車行っちゃったんだよ~。あ、これノワのコーラ!」

「ガチ天才!サンキュー!ってかさ、日本史の鳥ちゃんに3人早退しまーすって言ったらすんごい突っ込まれてダルかったわ。でもなんか担任が行きなさいって言ってくれて、いいとこあんじゃん!って感じだった。」

「先生ありがとう~!ノワもありがと!」

「はいよ~。あ、もうそろそろ電車くんじゃね?」

「電車がまいります。」

「ビンゴ!よっしゃ行くよ!」

「うん……!」

そうして華楓ちゃん行きの私たちは出発した。

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