11日目①

「いやー、昨日楽しすぎてバイトかんっぜんに忘れて、駅までダッシュしたわ!ギリ間に合わなかったわ!」

「間に合わなかったかぁ。ノワの走りなら間に合うかと思ってた。」

「フジコ、ウチは早かったんよ。電車が遅かっただけ!悪いのは電車!」

「そんな訳はないと思うけど……!でも私たちも時間忘れててごめん!怒られたりした?」

「いやー、もうそりゃこっぴどく。そもそもたまに遅刻するからさー、いつもいつも何なんだ!ってカンカン!」

「それはノワが悪いかも。」

「フジコが味方してくれない〜。まあ良いし、昨日楽しかったから。また華楓っちママに会いたいなぁ!」

「ね!楽しかった!小さい頃の華楓ちゃんかわいかったなぁ。でさ、昨日あの後いちごちゃんから連絡来たんだけど、今日お見舞い行ってもいいって!」

「ガチ!?行くしかないっしょ!」

「それは行くしかないね。」

そう、昨日家に帰ってからいちごちゃんから電話がかかってきたのだ。何か忘れ物でもしてしまったかと思ったが、そういう訳ではなく、華楓のお見舞いに行ってくれないかという話だった。そんなのOKに決まってる!喜んで行くことを伝えたが、ひとつだけいちごちゃんにお願いごとをした。

「そう!だから今日行こうと思うんだけど、華楓ちゃんには内緒にしておいてって頼んだの。」

「サプライズってことですか!?」

「そういうことですノワさん!」

「たまにはやるじゃん!」

「たまにはって何!今日二人とも何も無い?なければ一緒にお見舞い行こ!」

「あったりまえじゃーん!」

「言われなくても行くつもりだよ。」

「えへへ。そうだよね。」

そんな話をしていたら、突然ノワが叫び始めた。

「あー!今日現文課題ある日じゃね!?」

「そうだね。昨日ノワに言わなかった?」

「フジコ……言ってたな……。うわー!どうしよう。あ、でも単語調べなら今からでも間に合うか。」

「間に合う間に合う〜!頑張りなノワ!」

「はぁい。でも待って電子辞書忘れた。」

「はいこれ。」

「フジコ〜!準備よすぎ。忘れ物しなすぎ。やるしかないかぁ。」

「最初からやるしかないんだけどね!」

そんなくだらない会話を打ち切るようにドアが開いた。

「ホームルーム始めるー!今日も白丘は休みだ。」



「ノワ、結局課題終わんなかったんだ。授業中指されて焦ってたのバレバレ。」

「フジコ〜!いや、頑張ったんだよ!?でも1、2時間目にサボれそうにない芸術があったんだから仕方なくない?」

「え〜?3限の英語寝てたの見てたけど〜?」

「ギクッ。」

「ノワはもうそろそろ懲りなね。で、カエちゃんのお見舞い行くんでしょ。病院の場所知ってるの、アヤチだけだよね。」

放課後、2人は前までのように私の机に集まってきた。

「あ、そうだったそうだった。えーっとね、たしかちょっと遠いんだよね。なんか凄そうな大学病院だった。」

「ぽい!逆にこの辺の病院だったらなんで!?って思うし!」

「確かに。どのくらいかかるの?」

「えっとね、学校から電車で1時間くらい?」

「おー、かかるねぇ。でも華楓っちのお母さんにケーキとか紅茶とかいっぱい貰ったし!そのくらいはお安い御用ですわ!」

「だね!よし、電車間違えないようにしないと。」

「意外とアヤチ抜けてるとこあるからね。たまに大事なとこでやらかすから。」

「フジコ〜!そんな事言わないでよ〜!」

学校を出て、いつもの道を歩く。電車はいつもと反対側。なんだか不思議な感じだ。

最初は、1時間長いねとか言ってたのに、着いてしまえばあっという間だった。喋ってると時間の進みが早い。

「この駅なん?ほんとに合ってる?」

「合ってるって!」

「じゃあ向かおうか。西口だっけ。」

「そう!華楓ちゃんの元に行くぞー!」

「おー、やけに楽しそうじゃん。ま、ウチも華楓っちに会えるの楽しみだけど〜!アヤチには負けるかも。」

「そんなに楽しそう?」

「大分ね。」

「もう、フジコまで。まあいいよ、実際楽しみだし。嬉しいし。あ、なんかお見舞いの品みたいなの持ってった方がよくない!?完全に忘れてたぁ。」

「そうじゃん!もうアヤチ〜!」

「ああー、忘れてたね。私もなんで気が付かなかったか……。」

「お見舞いって何持ってくべきなの!?あ、フルーツバスケットとか!?」

「はいはい、アヤチ焦りすぎ。多分だけど、華楓ちゃんのことだもん。フルーツバスケットなんてもらい飽きてるよ。」

「確かに。じゃあ何がいいんだろ。ねぇノワ!何かいいのあるでしょ!」

「え、ウチ!?んー、お花、とか?名案じゃね!?」

「お花も華楓ちゃんの病室にありそう。容易く想像できる。あとお花は退院した時じゃない?」

「ああー、言う通りすぎるー。じゃあ何がいいんだよー!アヤチ!」

「んー、お菓子、とか?!」

「あ、いいんじゃない?クッキーとかチョコとかなら食べやすいだろうし、ついでに暖かい飲み物とか持っていったらいいかもね。ペットボトルで売ってると思うし。」

「たまにはやるじゃん!じゃあお菓子買ってこーぜ。コンビニにあるっしょ。」

駅前のコンビニに向かい、お菓子を選ぶ。

「んー、やっぱこのクッキーじゃね?ここのクッキーいっぱい入ってて美味しいんだよなぁ。」

「いやでも1人で食べる量じゃないと思う。ジップもついてないし。それならこっちの方がいいんじゃない?カエちゃん好きかな。」

フジコが手にしたお菓子は、小さなクッキーサンドのようなものだった。開けたら閉められないタイプではあるけど、このくらいなら食べきれそう。

「いいね、それ!それにしよ。あとは〜、これにしよ!」

私はいちご味のチョコレートを手に取った。前に華楓ちゃんと食べたことを思い出したからだ。あのとき、美味しいと言って食べていた記憶がある。

「あー、華楓っちいちご好きそうだよな。妹も苺だし!」

「そういう意味じゃないけど……!まあこれも決定で。あとはー、甘いものばっかりじゃ飽きるかな。しょっぱいの……。」

「あ、これじゃね!?」

ノワは小袋が4つ連なったスナック菓子を指さした。確かにこれからちょっとずつ食べられそうだし、いいかも。

「それいい!じゃあこれで決定かな。」

「あ、待って。もう一個いい?」

「ん?いいよ。なになに?」

フジコについて行くと、デザートのエリアに着いた。

「私ここのプリン好きなの。カエちゃんにも食べてもらおうと思って。」

「そういうことか。じゃあこれも持ってこ!」

「だな!」

買ったものは大したものではないけど、華楓ちゃんへの愛情はいっぱいこもってるお土産。喜んでくれるといいな。

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