10日目③

「こんちはー!やっぱ華楓っちのママめっちゃ美人。思った通りだ。」

「あらそう?そんなこと言われたら……いくらでもケーキご馳走しちゃうわ。」

「え!いいんすか!?ラッキー!」

華楓ちゃんのお母さんが奥から出てきて挨拶をされ少し臆していると、ノワが先陣を切って喋り始めてくれた。本人はただ喋りたくて喋っているんだろうけど。

でも、華楓ちゃんのお母さん、思ったよりフランクな人っぽい?見た目は美人だし高そうな服を着てるけど、そんなに怯えなくても大丈夫なのかも。声も喋り方も優しい貴婦人といった感じだ。どこか華楓ちゃんのふわふわした喋り方に似ている。

「うふふ。何ケーキがいいかしら。」

「うちショートケーキ!」

「ショートケーキね。おふたりは?」

「え、あ、いや私は……。」

フジコと私で遠慮し合っていると、ノワが

「くれるって言ってるんだから遠慮すんなよ〜。」

と言ってくる。人の家なのにノワはいつでも変わらない。

「そうよそうよ、遠慮しなくていいのよ〜。子どもはいっぱい食べて育たないと。」

華楓ちゃんのお母さんは屈託のない微笑みを私たちに向けてくるので、お言葉に甘えていただくことにした。でも1回断っておくのがマナーかなみたいなさ!あるじゃん!ノワはがめつすぎ!

「じゃあ、私もショートケーキがいいです!」

「私も同じので。」

「みんなショートケーキでいいのね。いちごもショートケーキよね。あとみんなお紅茶飲める?」

「飲めます!!!」

「ノワ勢い良すぎ……笑。あ、私たちみんな飲めます!」

ノワは何でこんなに真っ直ぐなんだろうとよく思う。なんか、一緒にいて面白い。

私たちが答えると、華楓ちゃんのお母さんは奥にいた人に、

「ショートケーキ4つ出してちょうだい〜。あとお紅茶。美味しいやつがいいわ。」

と伝えていた。姫の城に来た気分だ。

「えっと、あなたが小波さん?」

「そうっす!さざなみなのはです!華楓っちがなんか言ってたんすか?」

「そうよ〜。小波さんが、みたいな話よく聞くのよ。お誕生日プレゼントにって、櫛をくれたって子でしょう?」

「あ!そうっす!華楓っちが話してくれてたの、なんかめっちゃ嬉しいわ。」

「すごく嬉しそうに話してたわ。それであなたが目黒さん?」

「はい。目黒です。目黒富といいます。」

「お菓子を作るのが上手な子よね。アップルパイとシフォンケーキをいただいたって。」

「あ、そうです。お菓子作るの好きで。大したことはないんですけど。」

「いや!ノワの作るお菓子はマジで美味しいんです!華楓っちママにも食べてほしい!」

「あら〜、いいわね。私もたまにお菓子を作るんだけど、よく失敗しているわ。作り方を教えてもらいたいくらい。」

「いえそんな。でも、もしよくできたら是非貰ってくだい。」

「いいの?嬉しいわ。その時になったらいただくわね。そしてあなたが……、えっと……。」

華楓ちゃんのお母さんは私の名前が思い出せないみたいだ。するとノワが空気を破る。

「ふはは!あやめっす!緑川彩明!」

「ああ、あやめちゃん!あなたの話はよく聞くわ。というか、ここ1週間は毎日あなたの話をしていたわね。していなかった日はないわ。一緒にお菓子を食べたんだとか、コンビニに行ったんだとか。」

「そうですね!まあ、たわいも無いことしかしてないですけど、でも華楓ちゃん何でも楽しそうで!だからこっちまで楽しいし嬉しかったです!」

「あらあら、そう言ってもらえて華楓も幸せ者ね。いちごもそう思うでしょう?」

「まあ、そうだね。」

華楓ちゃんの話をしていると、ケーキを持った斉藤さんがやってきた。

「またいらしてたんですね。こちらショートケーキとフルーツティーです。お熱いですからお気をつけてお飲みください。それでは。」

高そうなお皿に乗ったショートケーキと、高そうなコップに入った紅茶が目の前に丁寧に置かれていく。割ったら洒落にならない。

「実は華楓、ここまで自分から仲良くなった子っていなかったのよ。」

「え!?そうなん!?あんなに面白いのに!?」

「うふふ。華楓、面白いかしら。あの子人見知りだし、こんな家柄でしょう?だからあまり周りの子も近づいて来なかったみたいなのよね。」

「そうだったんですね……。」

「だからやっぱり心配していたの。このまま人とあまり関わらずに死んでいくのかしらって。だから、3人が仲良くなってくれて、私も自分事のように嬉しいのよ。ありがとうね。」

「いえ。お礼される程のことはしていませんし、カエちゃん。あ、えっと白丘さんと一緒にいると楽しいし面白いので。」

「そんなに華楓は面白いのかしら。外では面白いことをしているのかもしれないわね。うふふ。というより、目黒さんは華楓のことカエちゃんって呼んでるのね。小波さんは華楓っちって呼んでいたかしら?」

「いえーす!」

「ニックネームまでつけてもらえて嬉しいわ。あ、ケーキもうひとつ食べる?」

「え!マジですか!?激アツ!いただきます!!!」

相変わらずのノワだが、華楓ちゃんのお母さんはなんだか嬉しそうだ。

「2人も食べるわよね。次は何ケーキがいいかしら?」

「フルーツタルトとかあるんすか?」

「あるわよ〜。2人は?」

申し訳ないなぁと思いながら、お言葉に甘えることにした。フルーツタルト、美味しそうだし私も同じのにしよう。

「私も同じので大丈夫です!」

「私もです。」

「そう?遠慮しなくていいのよ?」

「いえ!全然遠慮とかではなく、フルーツタルト好きなので!」

「うふふ、あやめちゃんは面白い子ね。いちごも同じのでいいかしら。じゃあフルーツタルト4つね。すぐ出すからちょっと待っててちょうだい。」

「ありがとうございます。」

そう言って華楓ちゃんのお母さんはキッチンに向かっていった。今回は斉藤さん呼ばないんだ。

流石に貰いすぎて申し訳ないなぁと思ってはいるけど、やっぱりちょっと、というか大分嬉しいし期待しちゃってる。私ってずるい。

「お待たせ〜。ついでにお紅茶もいただいてきたわ。アールグレイ、飲める?」

「ガチですか!?アールグレイめっちゃ好きです!」

「あらよかったわ。お2人は?」

「私も好きです!嬉しい……。」

「私も大丈夫です。」

「そう。ゆっくりしていってね。あ、そうだ。華楓の子どもの頃の写真とかあったかしら。」

「え!めっちゃ見たい!絶対可愛いじゃん!」

「私も見たいです!もしよければ……!」

「小さい頃のカエちゃんも変わらず可愛いんだろうなぁ。」

「ちなみに、可愛いですよ。妹が言うんだから絶対です。」

「あら、こんなに食いつくとは思わなかったわ。そうよ、昔から華楓は可愛くてね。今ももちろん可愛いけれど、幼少期にはまた違った可愛さがあったわ。」

だって想像するだけで可愛いもん。今だってとっても可愛いし天使みたいなのに、小さい頃だなんてどうなっちゃうの!

「これがアルバムね。」

華楓ちゃんのお母さんは、棚の中から1冊のアルバムを引き出し、机の上に広げた。そこには、ケーキを頬張る華楓ちゃんや、花束を持ってニコニコ笑っている華楓ちゃん、泣き叫んでいる華楓ちゃん、猫と戯れている華楓ちゃんにピアノを引いてる華楓ちゃん……。たくさんの小さな華楓ちゃんが映っていた。これだけでも、愛されて育ったんだなということが分かる。そもそも、アルバムのタイトルが『華楓No.14』だもん。パッと見写真の華楓ちゃんは幼稚園生くらいに見える。その歳で14冊目のアルバムって相当だよね。

「え、可愛すぎん?」

「そうでしょう?あ、いちごのも見る?」

「お母さん!」

「うふふ。嘘よ。でもいちごも可愛かったのよ〜。あ、華楓の生まれた時のアルバムもあるかしら。」

華楓ちゃんのお母さんは、何冊もアルバムを出してきて、思い出を語ってくれた。きっと華楓ちゃんのことを話せるのが嬉しいんだと思う。そんな華楓ちゃんのお母さんは最初のイメージとはかけ離れた、とても親しみやすい人だった。

「あら、喋りすぎたかしら。もうこんな時間。夕飯でも食べていく?」

「いや!いいです!大丈夫です!家でお母さんがご飯作ってると思うし、もうたくさんいただいてお腹いっぱいですし!」

私がノワが何かを言う前に答えておいた。ちょっと美味しそうだなと思ったけど、流石に申し訳ない!

「そうなのね。じゃあ、また今度夕飯食べにでもきてちょうだい。私もいちごも嬉しいから。」

「はい、ありがとうございました!」

今日は華楓ちゃんの話して終わったな。幼少期の華楓ちゃんのおもしろエピソードを思い出してクスッと笑った。

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