9日目①
ジリリリリ、とアラームが鳴る。
華楓ちゃん大丈夫かなぁ。
朝起きてから最初に考えたことは華楓ちゃんのことだった。昨日からずーっとそのことを考えている気がする。妹のいちごちゃんがお手紙を渡しておいてくれるとは言ってたけど、やっぱり直接会わないともやもやしちゃうよね。
しかも今日は生憎の雨。憂鬱すぎて学校に行く気にもならない。
いやでも、行かなきゃ!と、どうにか自分を奮い立たせて布団の殻を破る。
ひぃ、寒い。
もう12月。そりゃ寒いよね。そろそろタイツとかも出さなきゃかなぁなんて思いながら準備を始めた
青色の折り畳み傘を手に取ったが、やっぱり長傘を持っていこうと思って床に投げた。
外に出ると、雨が強くなった気がした。
「おはよー!」
「おはよう。」
「お、どしたー?なんか元気ないじゃん?」
「え、そう?」
「フジコもそう思うよな。」
「うん。なんか元気ない。ノワが気付くんだから相当だね。」
「ええ、嘘―!まあ雨だし仕方ないよねぇ。」
「まあなぁ。ガチ寒いもん。」
「ほんとにね。しかもテストも近い。」
「やってらんねー!まあウチは勉強してないんだけど。でもテスト期間ってだけでやんなるし。アヤチとフジコはちゃんと勉強してるだろうし、そりゃ疲れるわ。」
「ノワはもうちょっと勉強しなー?」
「えー。」
そんな話をしているとチャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。
「みんなおはよう!ホームルームするから席座れー。今日は、白岡と佐藤が休みだ。テスト前だからか今日の5限……里谷先生の数学は自習だそうだ。」
自習の連絡に教室がざわつく。しかも数学の自習。ラッキーすぎる。いつもテスト範囲が終わっても先の単元に進むタイプの人だから、今日も授業だと思ってた。
「数学自習でよかったな。ははは。雨だけど体育は普通にやるからな。男子は体育館集合でバスケ、女子は卓球場集合で卓球だ。んじゃ、ホームルーム終わる。」
体育面倒だなと思いつつ、次の授業の準備をする。現代文か。
「アヤチ~。英語の課題見して~。」
「え、今日課題あったっけ。」
「え、ないっけ。ないならないでラッキーだけど。フジコに聞こ。フジコー!」
「ん?何―?」
「今日英語課題ないっけ。」
「あるよ。あのプリントでしょ。」
「え、嘘!ないと思ってた!詰んだかも!ちょっと持ってプリントあるかな。」
「アヤチが忘れるなんて珍しいじゃん。まあ英語3限だし間に合うっしょ。いつも課題やってない私が言うんだから間違いないね。」
「ドヤ顔で言わないの。で、ノワはプリント見たいんでしょ。」
「そうでございますー!お願いします。お願いします。」
「はいはいどうぞ。」
「マジ感謝!あ、今日お菓子持ってるからそれあげるわ。」
「やったね。んで、アヤチはプリント見つかったの?」
ファイルに入っているプリントを全部めくってみたが見つからず、もう一周しているところだ。
「ないんだけどー!」
「ええ、ロッカーとかは?」
「ロッカー見てくる。」
忘れ物をすることなんて中々ないからめちゃくちゃ焦っている。家の机の上にでも置いてきたかなぁ。あ、課題やろうとしてそのまま置きっぱなしなのかも。
ロッカーを漁ってみたが見つからず、教科書に挟んでいたりするのではと思い、英語の教科書をひっくり返してバサバサしてみるがやっぱりない。
ここまできたらないだろうなぁ。
トボトボと机に戻り、「なかったぁ。」と伝えた。
「あーあ、ドンマイ!まあ大丈夫っしょ。英語の先生優しいし!」
「そういう問題じゃないと思うけどね。」
「あはは!」
雨だしプリント忘れるし、最悪な一日だ。
午前中の授業を終え、お昼休み。
「アヤチ〜!英語大丈夫そうだったじゃんよかったな!」
「ほんとによかった。日本史だったら終わってた。」
「それは終わりだわ。ウチ今日学食!2人も来る?」
「行こうかな。英語の課題見せたお礼にポテト買ってくれるってノワが言ってるし。」
「言ってねぇけど!?まあいいけどさぁ。特別にアヤチにもプリン奢っちゃうよ。」
「まじ?それは行かなきゃ。」
「ウチは何食べようかなぁ。焼きそばとか食べちゃおっかなぁ。」
「いいじゃん。美味しいよね。」
「そーそー、んじゃ焼きそばにきーめた!」
学食に向かうと、有り得ないほど混んでいた。2人は外で待っててとノワが言ってくれたので外で待つことにした。数分すると、ポテトとプリン、そして唐揚げ丼を持って出てきた。
「あれ、焼きそばやめたの?」
「うん。唐揚げ丼美味そうだと思ったからこっちにしたわ。で、プリンのお客様〜?」
「あ、はーい!」
「はいよ。ポテトのお客様〜?」
「はーい。」
「はいよ。ウチにも1本ちょーだい。」
「うん。アヤチもあげる。皆で食べよ。」
「いいの!?」
「うん。ノワの奢りだし。」
ノワのお陰でお昼ご飯にプリンとポテトが加えられて大分豪華になった。
教室に戻り、机を3つくっつける。いただきますと言ってお弁当箱を開くと日の丸弁当だった。あんま好きなじゃないなぁと思いつつ仕方なく梅干しに箸を入れる。
フジコがポテトを差し出してきたので1つもらうことにした。
憂鬱なお昼。早く学校終わらないかななんて思っていたらスマホが鳴った。なんだろう。
「あ、華楓ちゃんからだ!」
「お、昨日のお返事来たか?」
通知をクリックする。長文が送られてきていた。
『こんにちは。
今日、いちごからお手紙を受け取りました。
おうちまで3人で来てくださったと聞いて驚きました。
ありがとうございます。
私は窓の外の楓を眺めて心を揺らすことができるくらいには元気です。
お手紙のお返事です。まず、お手紙ありがとうございます。
仲良くなってそんなに日もたたないのにこんなに親切にしてくれて、感謝でしかないです。
病気に関しては心配しないでください。
先生が大変優秀な方ですから。
きっと学校にも戻ります。
私が一週間と言った理由は、まず第一に友だちを作るのが下手だったからです。私なんかと関わってもらうのは申し訳ないですし、一週間なら取り合ってもらえるかなと思いました。
そして、この病気のせいで人を悲しませたくなかったからです。
急に風邪を引いたり、急に入院したり、急に手術になったり。
そういうことで人を悲しませたくないのです。
小学生の頃の友人で、私が入院する度に泣いてくれる子がいました。
すごく良い方でしたし、泣いてくれるのも嬉しかったのですが、私が苦しくなってしまったのです。
こんなに泣いてもらっているのに、私は何もできなくて申し訳ない。そう思っていました。
同じ状況になりたくなかったのです。
でもその心配はいらなかったみたいですね。悲しませてしまってはいるかもしれませんが、隣にいてくれているみたいでなんだか心があたたかくなります。
一週間でなくてもいいと言ってもらえるのもとても嬉しいです。
ぜひ、一緒に色々なところに行きましょう。回転寿司なんていかがですか?
私、行ったことがないので行ってみたくって。
あとは美術館や博物館ならご案内できますし、少し遠くに旅行なんかもいいですね。春になったらお花見、夏になったら海にも行きたいです。もちろん、小波さんと目黒さんも一緒に。
想像するだけで楽しくなってきました。
早く退院できるように頑張ります。
いちごに、3人に合わせて欲しいと懇願しておいたので、もしかしたら近々会えるかもしれません。
あやめちゃんも、体には気をつけて。
それでは。』
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