8日目④

「え、どういうこと?華楓っち病気なん?」

重い空気を打ち切るようにノワが口を開く。

「そうです。それ以上の説明は難しいのでしませんが……。」

ノワはそんなぁといった表情をしていた。

「いやでも、治るかもしんないしな!」

「あはは、そう、ですね。」

いちごちゃんは曖昧に笑う。より気まずい雰囲気にしないでよ、ノワ。

「回復して帰ってくると思ってはいます。もちろん。完治は難しいですが、回復することはできますので。」

いちごちゃんのこの感じだと、回復するかも分からないのか……?

でも、病気であろうと何であろうと、華楓ちゃんに会いたい。まだ友だちでいようよって言いたい。いちごちゃんが言ったことが本当なら、1週間しか友だちでいられない必要は無い。

「あの、華楓ちゃんには会えないんですか?」

思い切って聞いてみる。

「今は難しいと思います。お医者さんの許可が降りれば……ですね。そしたら会うことができるようになります。」

「そうなんですね……。電話とかも……?」

「電話……。そうですね。できなくはないのですが、皆さんと話したら楽しくなって興奮してしまうと思うので。やっぱり難しいです。」

そっか……。何とかして伝えたいけどなぁ。

病状を悪化させたらいけないっていうのは分かるからなんとも言えない。

まあ、回復して帰ってきてくれればそれでいいんだけど。でも早く伝えたいし、病院で一人じゃ心細いだろうし……。

「じゃ、手紙はどうよ?流石に華楓っちも病院で一人ぼっちじゃ寂しいっしょ。ちょっとした手紙でもダメ?」

「あ、お手紙くらいなら!」

手紙なら!何を書こうかと即座に思考が巡った。

「お、だってよあやち。」

「あ、ありがとうございます!」

「いえこちらこそ。華楓のためにそこまでしてくれるなんて妹としてとても嬉しいです。まだ仲良くなってもらってから日も立ってないでしょうに……。」

「全然です!なんというか、そんな感じがしないんですよ。昔からの友だちかと勘違いするほど仲良しです。」

華楓ちゃんとは出会って1週間しか経ってないのに、もう何年も一緒にいたくらいの距離感がある。でも1週間しか経ってないと言われれば、それが嘘かのように感じられる。昨日知り合ったかのようでもある。不思議な関係性。

「そうなんですね。よかったです。お手紙くらいでしたら渡しておくので是非書いてください。」

なにか書くもの持ってきますね、と言っていちごちゃんは席を外した。仲良し3人組だけが残る。

「華楓っちそんなんだったとはなぁ。まあ確かに体育の授業、基本休んではいたか。」

「そうだね。でも流石にびっくり。」

「ほんとにだよー!でも1週間ってそういうことだったんだ。なんか安心したっていうかなんていうか。」

嫌われていた訳じゃないと知った安心感と、病気だなんて大丈夫かなという心配が同時にやってくる。でも、この2人が来てくれてよかった。1人じゃ耐えられなかったと思うもん。ありがたい友だちだ。

「病気してるし会えないっていうからすごく心配したし、どうしようかと思ったけど、お手紙だけでも書いて渡せるならよかったね。」

「そうだよね!何書こうか考えとかないとすごい時間かかっちゃいそうだよぉ。」

「あはは!あやちはそうだろうな。ほんとに夜まで帰れなかったりして。」

「さすがにそこまでじゃないよ~!」

あはは、とみんなで笑いあう。さっきまであんなに憂鬱な雰囲気だったのに、こう笑えるまでになっているんだからすごい。友だちの力って最強だ。

「お待たせしました。手近な便箋と封筒がなかったので、メモ帳とペンになってしまったのですが、こんなものでも大丈夫でしょうか。」

メモは、手の平くらいのサイズの少し小さなものだった。一枚じゃ足りないことが分かっていたのだろうか。何十枚か持ってきてくれていた。ペンはどこか重厚感のあるもので、少し使うのに躊躇してしまいそうだ。

「全然なんでも!書ければ問題なし!あざす!」

「それならよかったです。あ、飲み物お持ちしましょうか?」

「いや!大丈夫です!」

ノワがノリノリで追加の飲み物を頼む前に断っておいた。

「よし。じゃあ紙一枚もらおうかな。」

フジコがそう言って手紙を書き始める。

「うちもー!」

「あ、私も一枚!」

全員で筆を走らせる。サッサーと、ペンと紙が擦れる音が聞こえ焦ってくる。私は何も書き始められていない。書きたいことはたくさんあるはずなのに、その言葉が脳内でぐちゃぐちゃになって、文字として出力されない。うーん、と唸っていると、フジコが話しかけてきた。

「あやち、すごい迷ってるでしょ。」

「うん。言葉がまとまらないっていうか、出てこないっていうか……。」

「ノワを見習いなよ。もう勢いのままだもん。」

ノワのほうを見てみると、すごい勢いで紙に食らいついているのが分かる。

「あやちぃ遅いぞ~。とはいえ、夜までかかっても待っててやるからさ。書きたいこと全部書いとけ!」

二人とも……!私は二人のこういうところがが大好きだ。

「ありがとう……!じゃあ、夜まで待っててね。」

「もう。できるだけ早く終わらせてよー?」

「はあい。」

そうして思いを綴っていく。


『華楓ちゃんへ

どうも!あやめです。

病気のこと、妹のいちごちゃんから聞いたんだ。

すっごく心配してるけど、きっと大丈夫だって信じてる!


あとね、華楓ちゃん、一週間前に私に「一週間でいいので、付き合っていただけませんか?」って言ってくれたじゃん。あれ、一週間じゃないとダメなのかな?もっと一緒にいちゃダメなの?

私はもっと一緒にいたい。だって先週一週間、すっごく楽しかったから。

まだまだたくさん面白いこと紹介したいし、いろんなもの食べに行きたいし、いっぱい遊びに行きたい。

華楓ちゃんがどういう気持ちで一週間って言ったのかはわかんないけど、これからも友だちでいてくれると嬉しいな。もちろんノワとフジコも含めてね。


闘病、大変だと思うし、辛いこともたくさんあると思うけど、私はどこからでも応援してるよ!!!頑張れー!

早く退院して会えることを祈ってる!

元気になったらまたどこか遊びに行こうね。


あやめより』

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