8日目③

「あれ、華楓のクラスメイト来たの?今回は3人も来てるんだ。あ、どうも。」

広い部屋に一瞬の静寂が広がる。

その静寂を破ったのは安定にノワだった。

「華楓っちの妹?めっちゃかわいいじゃん!華楓っちに似てる!」

「え、あ、ありがとうございます。3人とも華楓の友だちですか?」

「もち!」

へぇ、といちごちゃんは少し目を丸くしていた。

「私は妹のいちごと言います。華楓と合わせることはできませんが……。来ていただいてありがとうございます。」

いちごちゃんは淡々と話し、ぺこりと頭を下げた。

表情が明るいとは言えなかったが、敵意を持った表情をしているようには見えなかった。

勇気を持って口を開けてみる。

「こちらこそ、華楓ちゃんの体調が悪いのにこんな所まで通してくれて、ありがとうございます……!華楓ちゃん、すぐには治らなそうなんですか?」

そう言うと、いちごちゃんは苦い顔をした。

「そうですね。すぐに学校には戻れないと思います。」

少しの沈黙の後、フジコが口を開く。

「そういえば、名前教えてなかったよね。私は目黒富。インフルエンザ、とか……?この時期流行るよね。それともあんまり聞いたらいけない感じ?」

いちごちゃんは表情を変えずに黙り込む。

「別に話せないなら無理に話さなくてもいいけどー、でもウチら超絶仲良しだし?話してくれてもいいんだぜ!」

いちごちゃんは考え込んでいるようだ。その沈黙を破るように、家政婦の斉藤さんが飲み物とお菓子を持ってやってきた。当たり前のように高級そうな食器に香りの良い紅茶、オマケにショートケーキを持っていた。

「お待たせいたしました。先程聞き忘れてしまったのですが、アレルギーなどはございませんか?」

「ないっす!全く!」

「ノワ。」

食べる気満々のノワをフジコが制止する。ノワはえへへといった様子で、一切反省はしていなさそう。

「あ、私も大丈夫です。ありがとうございます。」

「私も平気です!というか、プリント渡しに来ただけなのでこんなに大丈夫ですよ…!」

「いえいえ。華楓さんのお友だちが来てくださったのですから。ゆっくりしていってください。私はこの家の家事などを担当しております。斉藤です。何か困ったことなどございましたらお声がけ下さい。いちごさんも、ごゆっくりなさってください。それでは私は失礼します。」

斉藤さんはそうニコニコと話し去っていった。ありがとうございますと口々に言い、ノワは早速いただきますと言ってケーキを食べ始めていた。なんともこの家に似つかない人だ。

「2人もどうぞ。ここのケーキ、美味しいので。」

「うん!めっちゃうまい!」

ノワは相変わらずだ。いちごちゃんがケーキを勧めてきたので、私とフジコもいただくことにした。見た目はごく普通のショートケーキだが、その辺に売っているショートケーキとは訳が違う。

スポンジはふわふわ、苺もとっても甘く、生クリームの甘さ加減も絶妙だった。絶対いいやつだ、と直感で分かる。急な訪問にもかかわらずこんなに美味しいケーキが出できたということは、家に常に置いているのだろうか。すぐにダメになるような食べ物なのに。

いちごちゃんも自分の前に出されたケーキを食べて、少し顔を緩ませていた。

「食べながらでいいので聞いてください。」

いちごちゃんが口を切る。

「まず、華楓と仲良くなってくれてありがとうございます。華楓は人付き合いが得意ではなくて、あまり友だちとか、できたことなくて。あやめさん、でしたよね。前、家に来てくださったときは驚きました。学級委員とかで先生に強制的に行かされたのかなとか、思ったんですけど。でも後になって華楓に聞いたら、お友だちですごくいい人でって楽しそうに話していて。先週は帰りが少し遅くなって母に怒られても、私は別にいいんだ、みたいな顔をしてました。だから本当に、感謝してるんです。」

そうだったんだ……と少し嬉しくなる。華楓ちゃんな楽しんでくれていることは分かっていたつもりだけど、家族にも楽しそうに話していたって聞くとやっぱり嬉しい。でも、帰りが遅くなって怒られていたなんて。言ってくれればよかったのに、とも思ってしまう。それにしてもいちごちゃんは私のこと、そんなに悪く思っては無いみたい。急に行ったから警戒されちゃっただけかな?

「ウチも華楓っちと仲良くなれてよかった!めっちゃ面白いもん。」

「私もです。ちょっと不思議だけど面白い子だし、すごくいい子だし。こちらこそありがとうございます。でも、私たちとカエちゃんを繋いでくれたのは、この子なんですよ。」

フジコはそう言って私に目線を向ける。

「そうだったんですね。前にいらした時は変なことを言ってしまって本当にごめんなさい。」

いちごちゃんは本当に申し訳なさそうにそう言ってくれた。謝ってもらいたかった訳じゃないけど、そう言ってもらえると友だちでいても大丈夫なのかなって思える。

「いやいや。もちろんビックリはしましたけど!でも友だちでいさせてくれるなら何でもいいです。あ、でも。もしかしたら華楓ちゃんから聞いてるかもしれないですけど、私から話しかけた訳じゃないんですよ。華楓ちゃんの方から話しかけてきてくれて。でもその中で一つだけ引っかかる言葉があるんです。友達になるとき、1週間でいいので友だちになってください、という感じで言われてて。どういう意味なんだろうってずっと考えてるんですけど……。何か知ってること、あったりしないですか?」

いちごちゃんが驚いた顔をする。

「そうだったんだ……。」

そう呟く。少し困った顔をする。悲しそうな顔をする。でも嬉しそうな顔もする。そして決心した顔をする。

「みなさんには話しておきましょう。華楓は今、大学病院にいます。昔から重い病気を持っていて、いつその時がくるか、分からないんです。だから迷惑をかけないように1週間と言ったのではないかと……。」

一瞬、時が止まる。

どういうこと……?

頭が理解することを拒んだ。

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