第57話 隣で手を握るアイスメイデンと家庭問題【前】

『当真、今日暇だったりする?よかったら遊ばない?観たい映画があってさぁ。ほら、一人で行くのも寂しいじゃない?だからどうかなーって』


『先輩先輩!今からショッピングモール行きませんか!実は前にお話ししたスポーツショップに、ラビット社のリストバンドが入荷されまして!お礼も兼ねてプレゼントしたいのですが、どうでしょう!』


 二人の気持ちは嬉しいが、お断りさせていただく。 

 なにしろ本日は秋乃さんとのデートなのだ。

 邪魔されたくない。


「悪いな、二人とも」


 ごめん、秋乃さんと今からデートだから行けない。

 他の人でも誘ってくれ、と文章を打ち込み送信。

 諦めてくれたのか、スマホはうんともすんとも鳴らなくなった。

 肝心の秋乃さんからの通知も。


「秋乃さん……どこ行ったんだ」


 日曜日なだけあり、ショッピングモールは大混雑。

 少しでも離れたら居場所もわからないぐらいだ。

 なのに秋乃さんったらフラフラと……。

 

「もう一度電話してみるか」


 これで三度目になる電話をかけてみる。

 しかしまたしても出ない。

 返ってくるのはいつまでも鳴り続けるコール音のみ。

 参ったな。

 何故かリャインも返してくれないし、これじゃあ居場所がわからないぞ。


「はぁ……こうなったら仕方ないな」


 このまま待っているだけでは埒が明かないし、ここは────


「探しに行ってみるか。一階のどこかには居るだろ」


 取り敢えず右時計回りで一周してみようと、スマホをジーパンにしまい、歩きだした。


 それからおよそ数分。

 秋乃さんは思いの外、早く見つかった。

 

「ご来店のお客様へご連絡です。冬月当真様、冬月当真様。迷子のお連れ様を迷子センターで保護しております。至急迷子センターまで来ていただきますよう、お願いいたします」


 見つけたというか、呼ばれた、と言った方が正解だが。


「冬月くん」


「秋乃さん……なにしてんの」


 職員さんに案内され迷子センターの扉を開けると、ひとりぼっちの秋乃さんがお菓子を頬張っているところだった。

 

「お菓子を食べてるわ」


「じゃなくて、なんで迷子センターに来てんのさ。 リャイン返してくれたら探しに行ったのに」


「テンパってて忘れてたわ」


 心配して損したんだけど。


「ああそう……まぁ何事も無くてよかったよ。じゃあ行こうか」 


「ええ」


 俺は職員さんに頭を下げると、秋乃さんを連れて迷子センターから去っていった。

 





「それで、これからどうするの?映画観る?」


「だね。予定通り、映画館に行こっか。観たいアニメの映画があるんでしょ?」


「ん」


 意外にも、秋乃さんが提示してきたのはアニメだった。

 しかも子供向けのアニメ映画。

 なんでもお母さんがそのアニメの大ファンだそうで、限定グッズの入手をお願いされたんだとか。


「大人二枚お願いしまーす」


「かしこまりました。ではこちらのタッチパネルから座席をお選びください」


 映画のタイトルは『ポケッツモンスターズ時空を越えしピカッチ』。

 世界一有名な長寿アニメである。

 とはいえ、所詮子供向けのアニメだ。

 大して期待は持たない方が……。


「う……うぅ……ピカッチぃー!」

 

 俺はむせび泣いた。

 それはもう自分でも引くぐらい号泣した。

 確かにポツモンの映画シリーズは泣けるが、高校生にもなってここまで心を震わされるとは思いもよらなかった。

 

「面白かったわ」


 秋乃さんは変わらずスンッとしていたが。

 いつか涙を流す所を見てみたいものだ。

 

 総評。

 やっぱりポツモンは幾つになっても面白い。

 次回作が上映したら絶対また観に来よう。

 そのくらい感動した物語だった。

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