第55話 隣で全てを告白する同級生と決着の体育祭 【後】

 田中は遂に告白した。

 自分の弱みとなる喫煙から、イジメに荷担したことや、青井と桃川から受けた屈辱全てを。

 これで青井達の行いはつまびらかになり、全てに決着が着く、筈だった。

 だが、世の中というのはそう甘くはないようで。


「あの青井さんが?ほんとなの?」


「桃川さんもそんな人じゃないと思うんだけど……」


 一般的に青井と桃川は平凡な学生だ。

 非行の噂など今まで一度も無かったのだから、急に言われても混乱して当然。

 そこで俺はある音声を提示した。


『はーい、証拠写真出来上がりー。て訳だから、君もこれから私らの下僕ね?田中ちゃんと同じく。とりあえずぅ、そうだなぁ。愛原をレイプしてみよっか!そしたらバラさないで……』


 まさかこれが役に立つ時が来るとは思わなかったな。

 世の中、何が起きるか分かったもんじゃない。


「なにこれ……酷すぎ……」


「マジで?うわぁ、俺ショックだわ。青井さん、真面目な良い子だと思ってたのに……」


「あのバカ娘が……」


 ふぅ、これで青井と桃川はおしまいだな。

 証拠と呼ぶには弱いかもしれないが、誰もが田中の悲痛な叫びを信じてくれた。

 それだけでイジメを終わらせるには十分過ぎる呼び水となっただろう。

 ただ、田中にもそれ相応の罰が下る可能性もあるが。


「わ、わたしはちが……イジメてなんて……」


 まだ諦めないのか、青井のやつ。

 幾らなんでも諦めが悪すぎ…………。


「だ……だから嫌って言ったじゃん、イジメなんかやめよって……」


「……は?桃川、あんた何言って……。あんたも乗り気だったじゃない!なのに何を今更!」


 おお……意外な展開。

 桃川が裏切る可能性もあったが、まさか本当にやるとは。

 クズの友達はクズって事か。


「嘘言わないでよ!私はやりたくなかったもん、イジメなんて!青井ちゃんが強要してきたんじゃん!愛原がムカつくからイジメようって!」


「ふ……ふざけんじゃないわよ!あんただけ逃げるつもり!?あんただって愛原と田中をイジメる時、楽しんで…………あ……」


 醜いな。

 最後は仲違いの上に自滅したか。

 こうなってはもう泥沼だ。

 後は教師と親御さんに任せても問題無いだろう。

 どうなるにしろ、あいつらにはもう逃げ道は無い。


「なんだか最後は呆気ないわね。あれだけ色々あったのに」

 

「まぁ、最後は案外こんなもんかもな。映画とかゲームでもエンディングは微妙だったりするだろ?」


「そうかもね……でもこれは……私達が生きてるこの世界は、映画でもゲームでもない。これで終わりじゃないのよね。この先も……」


「ああ、そうだな。残念だけど、現実はここで終わってくれない。相応の罰が下る、こればったりはどうしようもない。多分、田中さんも」


「……えぇ、わかってる。覚悟は出来てるわ。停学でもなんでも受け入れるつもりよ。それだけの事をしたんだから」


 言って、田中は愛原を見る。


「先輩……」


「ごめんね、陸海。それとありがとう」


「た……田中せんぱぁい!こちらこそ……こちらこそありがとうございます!うわぁぁぁん!」


 抱き合い、ここまでの汚泥をすすぐよう涙を流す田中と愛原。

 そんな二人を眺めながら、俺と一季、伊沢は。


「これがナマモノの百合か……。うん、いいね。実に尊い」


「わかる」


「俺、尊死しそう」


「あ、あんたらね……」


 変態を見るような目を向けないで欲しい。

 ゾクッとしちゃう。





「ではこれにて四季校名物、体育祭を閉幕と致しますわー!おーほっほっほ!」


「皆の者、気をつけて帰るがよいぞ!ちゃんとゴミは持ち帰るのだ、よいな!はーはっはっはー!」


 その後はなんやかんやと事態は収束。

 青井と桃川、それと騒ぎの中心となった田中や俺らを抜いた体育祭はつつがなく進み、終わりを迎えた。

 それから暫くして。


「以後、このような事が無いよう!良いですね、冬月先生!」


「へーい」


「なんですか、その返事は!貴女はもう少し教師としての自覚を……!ええい!話は以上です!さっさと出ていきなさい!」


 教頭先生に追い出された俺と姉さんは、職員室からそそくさと退散。

 廊下に出るなり、ハイタッチした。


「当真、お疲れ様。よくやったわね。悪くない結果だと思うわ」


「姉さんが色々動いてくれた結果だよ。俺はただ……」


「背中を押しただけ?」


 姉さんはそう言って、ニヤッと笑う。


「う……そうだけど、なんか文句でもあるのかよ」


「ははっ、ないない。それであの娘達がまた笑えるようになったんだから、文句なんかあるわけが無いでしょ。……よく頑張ったわね、当真。やっぱり貴方は私の自慢の弟よ」


 急に誉めないでくれ。

 照れる。

 普段が普段だから余計に。


「そりゃどうも……ところでさ、田中と愛原なんだけど二人は今どうしてる?確か、青井と桃川の親が謝りに来てるんじゃなかったか?」


「ああ、そうそう。その件で当真に話があったんだった」


「え、なんだよ。またなんか面倒事か?勘弁してくれ、俺はもう嫌だぞ。ここ最近構ってやれなかったせいで、秋乃さんが不機嫌になってるんだよ。だから今からフォローを……」


「愛原さんのお母さんと、田中さんのご両親が当真に会いたいんだってさ。娘の事でお礼が言いたいんだそうよ」


 …………。




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