第54話 隣で全てを告白する同級生と決着の体育祭 【前】

「先輩!私、やりました!青井先輩に勝ちました!」


「ほんと大したもんだ。カッコよかったぞ、愛原」


「えへへ」


 愛原も俺と同じく、本当に勝てるとは思っていなかったようで大はしゃぎ。

 二人して満点の笑顔を浮かべる。


「愛原、あんたやるじゃない!見直したわよ!」


「ははは、流石だね愛原くん。おめでとう」


「ふん……及第点にしておいてあげるわ」


 秋乃さんも一応は祝福してくれるつもりはあるのか、二人と一緒に来て珍しく愛原を誉めた。

 そんな中。


「秋乃さん、もう少し分かりやすく誉め……ん?田中……?」


 田中が地べたに座り込み放心している青井の元へと向かっていく。


「青井」


「田中……」


「だから言ったでしょ、あんたじゃ陸海に絶対勝てないって。これでわかったんじゃない? 自分とあの娘の実力の差が。凡人と天才の圧倒的な差が」


「くっ……」


 凡人も努力すれば天才に勝る、という言葉がある。

 だがあれは、凡人が天才に近づきたいが為に産み出した欺瞞だと俺は思う。

 凡人がどれだけ努力をしようとも、元々才能がある人間に努力されたら差は開くばかり。

 勝つ事なんか夢のまた夢。

 残念ながらそれが真理だ。

 しかし、だからといって、努力した人間がそう簡単に諦められる訳がない。

 青井もまた例外では無かった。


「じゃあなによ……才能の無い、私みたいな凡人は這いつくばってろとでも言うつもり!?どうせ勝てないから諦めろって!そんなのおかしいでしょうが!私だって必死に……!」


「必死……?あんたが必死?はっ……ふざけないでよ。他人を蹴落とす事ばかりに注力してたあんたが必死にやってたですって?私に勝てないからって卑怯な手で貶めたあんたが、そんな犠牲者面するんじゃないわよ!」


「なんですって?……もう一回言ってみなさいよ、あんた!」


 げっ、ヤバい!

 取っ組み合いになっちまったぞ!


「もう一回どころか何度だって言ってやるわよ!あんたは卑怯者よ、青井!努力もせずに弱い立場の人間を貶めてのし上がる事しか出来ない卑怯者なのよ、あんたは!そんな奴が陸海に勝てる筈がないわ!本気で努力してる人間に、あんたなんかが勝てる訳がないのよ!」


「この……っ!」


「ちょ、お前ら一旦落ち着けって!田中、暴力はまずい!暴力は……いでででで!」


 どうして俺の周りの女子は、こう握力が強いんだ。

 引き離そうと羽交い締めにした腕を掴まれた瞬間、激痛が走る。


「当真、邪魔しないでよ!青井みたいなクズはぶん殴らないとわかんないのよ!だから離して!はーなーしーてー!」


「離して欲しいのはどちらかと言えばこっち!……あー!」


 と、悶絶しながら田中を押し留めていたら、そこへ桃川が。


「青井ちゃん、お母さん達見てるからヤバいって!」


 来ているだろうとは思っていたが、青井達の親もやはり……!

 だとしたらここが一番のチャンスだ。

 ここを逃したらこの騒動に終止符を打つのは難しくなるかもしれない。

 そう判断した俺は、青井達の親にも聞こえるようわざとらしく大声で。


「青井も桃川の言うこと聞いとけって!じゃないとお前らが田中と愛原を虐めてる事を、田中が暴露しちゃうかもしれないだろ!?それでも良いのか!」


「ちょ……!」


 流石に今のを聞いて喧嘩どころではない二人は取っ組み合いをやめ、俺を睨み付ける。

 その間、親御さんや生徒諸々がザワザワと。


「うちの子がイジメ……?」


「どういう事だ?」


 おし、食い付いた。

 後は釣るだけだ。


「あっ、やべ言っちゃった!ごめんごめん、秘密だったよな!田中の弱みを握って金を揺すったり、イジメに荷担させたりさせたのは!悪かった、つい!」


「あ、あああ……あんたいい加減に!」


 青井が真っ青な顔をして俺に掴みかかってきようとしたが、それを田中が阻止。


「あんた……!」


 青井が睨むのも構わず田中は呼吸を整え、悟ったような表情で。


「もうやめなさいよ、青井。これ以上やったって、あんたに勝ち目はない。私ももうあんたに従うつもりもない。あんたの負けよ、青井」


「……っ!わかってんの、田中!?こっちにはあんたの弱みが!」


「勝手にすれば。あの秘密にもう効力はないもの、公表なりなんなりすれば良いわ。パパもママも許してくれたから」


「え……」


 勝負あったか。

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