第34話 隣に座る後輩と田中美住の関係 【中】
「なるほどな……愛原のお陰で少しずつわかってきた気がする。つまるところ、こういう事か」
まず重要なのは愛原と田中の関係性だ。
二人は陸上部の中でも特に仲がよく、田中は愛原のトレーナーとして、日々一緒にトレーニングに励んでいた。
その結果。
田中のお陰なのか、愛原の努力が実を結んだのか。
はたまたそのどちらも必要だったのかもしれない。
愛原は11月の陸上競技大会の選手として選出されてしまう。
写真はその時、記念として撮影をしたんだとか。
しかしあいつがそれを良しとしなかった。
それこそがイジメの主犯であり、愛原に選手の座を奪われた茶髪女。
青井だったのである。
ちなみにもう一人の桃色サイドテール女の名前は、桃川というらしい。
ここまでがイジメの発端となった経緯だ。
そしてここからが田中と愛原。
双方にとっての悲劇の始まりとなる。
愛原が選手に選ばれた翌日の事。
田中に呼び出された愛原はノコノコと校舎裏に行ってしまい、待ち構えていた青井と遭遇。
イジメへと発展していった。
そこへ俺達がやってきて……という流れとなる。
おっと、いけない。
忘れちゃならないあの件があったんだった。
「あの靴ってさ、結局あいつらが燃やしたのかな。タイミング的にそうとしか思えないけど」
「だとは思うんですけど、私は少し違和感があって……」
違和感?
「田中先輩はシューズが私の宝物なのを知っていた筈なんです。なのに燃やすかな……って」
うむ、言われてみれば確かに。
田中は間違いなく愛原を可愛がっていた。
なのにいくら逆らえないからって、愛原の思い出の品を簡単に燃やしたりするか?
バレたら関係修復なんて不可能になる代物だぞ。
いや、あり得ない。
DMからも見てわかる通り、田中は愛原との関係を最も大事にしていた。
燃やせる筈がない。
となると、考えられるのは。
「……こればっかりは本人から聞くしかないな。ほぼほぼ間違ってはないと思うが」
「え……?」
「ん……ああ、なんでもない。気にしないでくれ」
「はぁ……そうですか?」
腑に落ちてない顔色だ。
が、幸いにも聞こえていないかったようで。
「じゃあ続けますけど、ここからは先輩もよくご存じだと思うので、ある程度ははしょりますね。 えーっと、次が……」
「一週間ほぼ毎日トイレに連れ込まれて水をぶっかけられた、か」
「で、ですね」
まさかあんな漫画でしか見ないようなイジメをやる奴が、実際に居るとはマジで思わなかった。
だからといって、愛原が無意識の内に出していたヒントに気付いてあげられなかった理由にはならない。
「愛原。悪かったな、気付いてやれなくて。一週間も辛かったろうに」
「い、いえ!先輩は悪くないので、そんなに落ち込まないでください!むしろ嬉しかったですよ?私の事、ちゃんと見てくれてるんだなって」
何故自分よりも辛い状況に置かれた女の子に励まされているのか。
二重に情けなくて泣けてくる。
「冬月くん、わかっているわよね?」
「うっす」
ありがとう、秋乃さん。
お陰で涙が引っ込んだよ、恐怖で。
だからもう、浮気をしたら殺すと言わんばかりの眼力をしまってくれないかい。
お願いします。
取り敢えず全体像としてはこんなとこか。
あらかた理解はしたと思う。
二つほど謎が残っているが。
それはもちろん、靴を焼却した件に田中が関わっているか否か、と────
「なんで青井達に逆らえないのか……だな。よっぽどな弱みでも握られてんのかね。愛原はなんか心当たり無いか?あったら教えてほしいんだが」
「うーん、それがサッパリで。先輩が非行に走るとは思えませんし……」
田中と一番の仲良しであろう愛原に思い当たらないのなら、簡単には見つかりそうにないな。
同級生の俺ですら、田中の悪評は聞いた覚えがない。
記憶にある事と言えば、廊下で三人とすれ違ったぐらいのもので……ん?
そういえば……、
「今ふと思ったんだが、青井達と田中っていつ頃からの付き合いなんだ?何度か三人一緒に居たところを見かけたから、最近の話じゃないよな」
「どう……なんでしょう。少なくとも私よりかは付き合い長いと思いますけど」
となると、一年の頃からの付き合い。
もしくは最悪、小中学生の頃からの知り合いな可能性もでてくるな、これは。
仮に高校以前からの顔見知りなら、弱みなりなんなりを今から調べるのは不可能に近い。
一番簡単な手段は田中を問い質す方法だが、多分話さないだろう。
人にバレたくないからこそ、効果があるものだし。
うーん……であれば、こっち方面から攻めるのは諦めた方が良さそうだな。
ならやはり当初の予定通り、アレをやるしかない。
「今は田中をどうこうするのは無理だな。愛原のリスクが大きすぎる」
「え……でもこのままじゃ田中先輩が……!」
「落ち着けって。そりゃあ俺だってなんとかしてやりたいが、その為の手段が何一つないんだよ。助けようがないだろうが」
言い分が理解出来ない訳ではないのか、愛原はぐぬぬと引き下がる。
そんな彼女に俺は匂わせるように。
「ただ、切り口を変えればもしかしたら田中を救う手立てに繋がるかもしれない。それには愛原と田中の協力が必要不可欠だが」
「な……何か考えがあるんですか?あるなら教えてください!私なんでもしますから!」
「なに、そう難しい話じゃないって」
言いながら、俺は愛原の鼻っ柱を指差す。
そしてこう告げた。
「部活対抗リレーで奴らに勝てば良い。ただし愛原、お前が直接対決する相手は……青井だがな」
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