第25話 隣の席のアイスメイデンと日曜日 【後】
いよいよ始まった亜伽里の誕生日パーティー。
となれば、最初は主役である亜伽里からのお言葉を頂戴したいところ。
という訳で、ブロックでこんな物を作ってみた。
「当真、ステージならびにカーペットの準備が完了したぞ。いつでも我らが姫をお連れしろ」
「おう、了解!では、姫!足元にお気をつけて壇上にお上がりください!」
「さあさあ、遠慮せず!さあさあさあ!はいっ、姫様壇上にお上がりになりましたー!ふぅぅぅぅぅっ!」
「あんたら、後で覚えてなさいよ……」
仲間内だからこその悪ノリに逆らえず、壇上に上がった亜伽里は耳まで真っ赤にして怒っている。
この時点で既に後が怖くてたまらないが、やってしまったものは仕方がない。
覚悟を決めて、俺は伊沢に予定のブツを催促する。
「金沢くん、例のアレを!」
「金沢じゃない伊沢だ!受けとれ、当真!」
伊沢が投げたのはマイクである。
ただしオモチャの。
俺はそのマイクに手を伸ばし、見事キャッチ。
「ナイスパス!お待たせいたしました、我らが姫!是非こちらをお使いになり、わたくしどもにその可愛らしい……ぷっ。可愛らしい声をお聞かせください……くくっ」
亜伽里はそれを受けとると、イライラしながら。
「当真、あんた今日が命日と思っときなさいよ」
今日が俺の命日なのか。
初めて知った。
夜の戸締りちゃんとしよ。
と、身の安全を万全に期す決意を固めた時。
深呼吸を何度か行った亜伽里がスピーチを始めた。
「こほん! えっと……本日はあたしの為に集まってくれてありがとうございます。まさかこんなに人が集まるなんて思ってなかったから、結構ビックリしました。それと、秋乃と愛原……だっけ。ガチでありがとね。よく知らないあたしの誕生日会に来てくれてほんと感謝するわ。いつもは男所帯だからこれは結構嬉しい誤算よ。そこだけは三バカに感謝してあげるわ、……ありがと。て事で、今日はこのバカどもはほかっておいて、女だけで楽しみ…………」
なかなか酷い幼馴染みだ、これだけしてあげたのにバカだの放っておくだの。
ならここは期待に応えてやらなきゃな!
「じゃあみんな、そろそろ誕生日パーティー始めようか!亜伽里、誕生日おめでとー!かんぱーい!」
「かんぱーい!ひゅー!」
「うむ」
「かんぱい」
「は、はい!かんぱいです!」
チンッと鳴る亜伽里以外のグラス。
「え……?」
自分以外の全員が、本日の主役である自分を置き去りにしてかんぱいするという光景に亜伽里は呆然とする。
そしてようやく何が起きたのか把握した幼馴染みは、次第に身体をプルプルさせて。
「あ……あああああっ、あんたらねぇ!頼んでもないお膳立てをしたくせに、邪魔するなんてどういうつもりよ!バカじゃないの!ほんっとバカじゃないの!?てか、そこのバカップル!あたしのパーティーなんだからあたしの許可無しに勝手に肉を焼くな!あーっ、もぉぉぉぉ!」
レッツパーリー。
「────────うわぁ」
何故かバーベキューパーティーが始まってからというもの。
亜伽里がドン引き顔でこちらをずっと見てきている。
俺達はただ、
「冬月くん。はい、あーん」
「あーん。んぐんぐ……」
「美味しい?」
「うん、おいひぃよ秋乃さん。秋乃さんもあーん」
「あーん、もぐもぐ。冬月くんが食べさせてくれたからかしら。自分で口に入れた時よりも、もっと美味しく感じるわ。じゃあお返しに……」
肉を焼きながら、秋乃さんと食べさせあってるだけだというのに。
「なんていうか……話には聞いてたけど。 想像以上のバカップルね、あんたら」
誰がバカップルだ。
「ごくん…………はぁ?俺らのどこがバカップルなんだよ」
「交互に食べさせ合ってるのがもうバカップルなのよ」
……うむ、なるほど。
改めて言われると、今更ながらその通りかもしれないと思えてきた。
付き合い始めて二日目から、秋乃さんはほぼ毎日餌付けしてくるから感覚が麻痺していたが、傍目から見たら確かにこれはバカップルな行動。
どうやら二人もそれが日常の一部になっていたらしく。
「慣れってこえぇな。最近違和感、感じなくなってたわ」
「右に同じく」
二人にまで指摘された途端、なんか恥ずかしくなってきたな。
これ以上醜態を晒したくないし、ここは大人しく肉でも焼いて……。
「冬月くん、次はハラミよ。あーんして」
そうは問屋が卸さなかった。
「秋乃さん、ありがとね。でももう良いかな。 お腹少しは満たされたし、なによりみんなの目が痛いから今日の所はもうやめところか。というか、恥ずかしいから今後は人目がある所ではあーんを止める方向で…………ああ、またねじ込むの? そう…………んぐぅ」
「恥ずかしいとか言っといて、結局イチャつくんじゃないの!彼氏居ないあたしへの当て付け!?」
自分の恋愛がなかなか進んでないのに、今まで女っけの無かった幼馴染みがイチャイチャしているのが余程目障りのようで、理不尽にキレてくる。
そこへ、呆れながらもどこか楽しげな姉さんが、タッパー片手に割り込んできた。
「はいはい、ちょっと失礼するわねー。当真、トング頂戴」
「はいよ」
トングを手渡すと姉さんは、鉄板の上で美味しそうな音を奏でている具材を次から次へとタッパーに詰めていく。
茶色成分多めに。
「姉さん、もしかしてもう仕事に戻るのか?折角久しぶりに集まったんだし、少しぐらいゆっくりしていけば良いのに」
「そうもいかないのよ。今日中に終わらせないといけない仕事があるから」
姉さんはチラッと一瞬愛原に目配せをする。
その視線を感じ取った愛原は、肉をハムスターみたいにチマチマかじりながらキョトンと。
「あむあむ………………?」
「ふふ、なんでもないわ。ゆっくり楽しんでなさい。……じゃあまた後でね、愛原さん」
姉さんのお仕事スマイルに愛原はコクコク頷く。
そんな愛原に今一度微笑んだ姉さんは、背中越しに手を振って去っていった。
余計な一言を残して。
「ああそうそう、当真。これだけは言っておくわ。くれぐれも……くれぐれも、不純異性交遊だけはしないように。わかったわね」
「ちょっ!」
変な空気になるからやめてくれませんか、お姉さま。
「冬月くんのえっち」
「先輩はやっぱり変態さんです……」
「さいっていね、あんた」
ほらぁ!
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