第24話 隣の席のアイスメイデンと日曜日 【中】

 イジメ問題に対してどんな対策を取るつもりなのか姉さんに話して貰えないまま、1日半が過ぎた。

 一体どうするのか俺にはまったく見当もつかないが、今は考えがある姉さんに任せるしかない。

 愛原は心配だが、俺には俺の生活がある。

 特に今日はあいつの誕生日パーティーだ。

 いつまでもしけた面をしている訳にはいかない。


「おおー、準備万端って感じだなー!うっまそうな肉!さっさと食いてえぜ!」


「阿呆、まだあいつが来ていないだろうが。少しは辛抱しろ、一季」


「へへ、わかってるっての大沢!主役が来てないのに楽しむわけにいかないからな!」


「大沢じゃない、伊沢だ!何度もやらせるな!」 

 

 こいつら、人ん家の庭に来てそうそう煩いな。

 

「よー、当真!ジュースとか菓子とか買ってきたぜ!」


「ここに置いておくぞ」


 二人がちゃんとお使いをこなしてくれたようで一安心。

 バーベキューコンロの周辺に敷かれているブロックに置かれた買い物袋の中には、あいつの好きなメーカーのジュースに菓子がぎっしり入っている。

 

「悪い、助かった」


「へへっ。今更何言ってんだ、水くせえ。俺らの仲じゃねえか、礼なんて必要ねえって。だよな、伊沢」


「一季の言う通りだ。俺達に遠慮する必要はない、友達なんだから好きなだけ頼れ。それはそれとして、俺の名前は伊沢だと何度言えば……合っている、だと?」


 お前ら……。


「ははっ……まあでも礼儀として礼ぐらい言わせてくれ。せんきゅーな」


「おーう」


「ふっ」

 

 ニッと口角を上げて礼を告げると、ああは言っても悪い気はしていない二人は各々違った笑顔を見せる。

 そこへタイミング悪く。

 むしろある意味タイミングよく、姉さんからリャインが届いた。


「おっと、ごめん。リャインが……そろそろ愛原と秋乃さんが着くみたいだな」


「愛原ちゃんって確か、イジメに遭ったっつー娘だよな。当真が助けたとかいう」


「以前も聞いたが、酷い話だな。嫉妬でイジメとは。品性を疑う」


 だから俺はお前らが好きだ。

 見ず知らずの女の子の為に怒れるお前が。


「何かあったら俺らにも言えよ、当真。お前のダチは俺のダチだからな。一緒に守ってやろうぜ」


「おう、ありがとな二人とも」


「構わん。イジメなど許すわけにはいかんからな。俺も手伝わせて貰うぞ」


 と、俺達は拳合わせをして、一致団結した時。 


「お邪魔しまーす」


 聞き慣れた特徴的な声が聞こえてきた。

 そう、その声の主こそが今日の主役。


「……って何してんのよあんたら、拳を合わせたりして。なんか気持ち悪いんだけど」


 赤髪のツインテールにつり目、ホットパンツとTシャツが似合うツンデレ同級生。

 春先亜伽里だ。


 気持ち悪い言うな。





「亜伽里ちゃん、なんか久しぶりだなー。チア部忙しいん?」


「それなりにね。ほら、月末に体育祭あるじゃない?チア部は競技以外にも応援ダンスもやらなくちゃならないから、練習で忙しいのよ」


「なるほどな、俺達とは時間が合わない訳だ。家が隣同士で幼馴染みの当真以外とは」


 そう、この亜伽里という女。

 実は俺と幼馴染みなのである。

 物心ついた時から。

 俺の亡き母と亜伽里のおばさんも幼馴染みなんだそうで、最初からそういう運命だったのだと思う。


「隣同士って言っても、俺らも別に毎日顔を付き合わせてるわけじゃないぞ?亜伽里は朝早いし、クラスも違うしな」


「加えてこいつは部活もしてないグータラの引きこもりだからねー。部屋で寛いでる時たまに手を振り合ったり、窓越しで喋ったりが関の山よ」


 亜伽里の部屋は俺の部屋の向かい側だ。

 だからふとした時、亜伽里が言ったような事も多少なりともはある。

 どうやら、それが一季の琴線に触れたらしい。


「もおぉぉぉ!んだよ、それぇ!超羨ましいんだけどぉぉぉぉ!くそぉっ、所詮俺は友人A!幼馴染み系ギャルゲー主人公の当真には叶わねえのかよぉ!」


 四つん這いになり泣き叫び始めた一季に、俺と亜伽里はほぼ同時で。

 

「はっ倒すぞ」


「はっ倒されたいわけ、あんた」


「ほら、めっちゃ息合うじゃん!そういうところなんだよな!どうせお前らあれだろ!子供の頃一緒に風呂に入ったり、結婚の約束なんかしてるんだろ!たまたま着替えを見ちゃったりして幼馴染みムーヴかましてんだろ!ちくしょう!」


 なにを勝手な……と言いたいところだが、実は一通りしている。

 着替えもこの間見られたし、見ちゃったしな。

 亜伽里も記憶にあるようで、目を逸らした。


「その反応あるんじゃん、やっぱり!なんで俺には亜伽里ちゃんみたいな幼馴染みが居ないんだ!俺にも可愛い女の子が幼馴染みだったら、きっと……!」


 もし仮に居たとしても、お前の場合下心満載だから嫌われそうだけど。

 とは思うが、もちろん言わない。

 既に亜伽里がそれよりも遥かに攻撃力が高い一言を放っているからだ。


「キモッ」


「────!?」


 やはり女子の切れ味ある一言は恐ろしい。

 あれだけ煩かった一季を黙らせるどころか、白くさせてしまうのだから。

 と、そこで遠巻きにジュース片手で高みの見物を決め込んでいた伊沢が、駐車場に車が止まるブレーキ音を聞いて俺を呼びつける。

 

「おい、当真。来たぞ、最後の客だ」


 伊沢がもたれる壁脇の細い路地。

 玄関に続く小道から、待ち望んでいた三人が現わす。 

 その三人とは言わずもがな。


「待たせたわね、みんな。連れてきたわよ」


「ふ、冬月先輩!お邪魔します!」


 送迎の運転手をして貰った仕事着の姉さんと、スポーツ少女らしい活発感あるスポーティーな格好をした愛原。

 そして、

 

「お待たせ冬月くん、一昨日ぶりね。今から二人で抜け出してデートにでも行かないかしら?」


 場の空気をお構いなしにデートに誘ってくる、ジーパンとキャミソールワンピースを着用した銀髪の美少女。

 秋乃来栖である。


「行かない」


「あら、残念」

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