第18話 隣の席のアイスメイデンと保健室

「せ、先輩!私は大丈夫ですから、そんなに急がなくても!」


「大丈夫なわけがあるか、そんな大怪我して!どんな怪我でもそうだが、時間が経てば経つほど酷くなるんだよ!火傷なんてもっての他だ!菌が入ったらどうするつもりだ!良いから黙ってついてこい!」


「はひぃ……」


 俺は今、愛原と共に、ある場所へと向かっている。

 その場所とはもちろん保健室だ。

 あの人にひとまず応急処置してもらう為に。


「せんせー!急患、お願いしまーす!」


「ひゃわあ!び……びびびび、ビックリしたぁ!」


 保健室の扉を開けると同時に声を張り上げると、保健医を兼任する新任教師であり。

 癖ッ毛な茶髪と眼鏡が似合う我が校のマスコット的存在。

 芹沢萌花先生が驚いて肩をびくつかせる。

 相変わらず小動物みたいな人だ。


「もう、冬月くん!大声出しながら入らないでください!先生、心臓が飛び出るかと思いました!」


 先生は回転椅子を回してこちらに振り向くと、涙目で怒ってくる。  

 が、


「先生、今はそれどころじゃないんですよ!この子、早く診てもらえませんか!」


「なにを急いでるんです?一体どうしたって言うんで…………本当にどうしたんですか、その手!」


 愛原の手を見た瞬間、おどおどした顔付きが一変。


「なんて酷い怪我!一体なにをしたらこんな……いえ、今は治療が先ですね!冬月くんは愛原さんを椅子に座らせてください!先生は薬品などを用意しますので!」


 普段は片鱗すら感じさせないキビキビとした大人の顔を見せる芹沢先生が、テキパキ指示を送る。

 俺はその指示に小さく返事をして、愛原を丁寧に椅子に座らせた。


「先生、次はどうしたら!」


「ありがとうございます!では冬月くんだけ保健室から出てってください!秋乃さんはそのまま保健室に居て!手伝ってほしいことがあるから!」


「むぅ……めんどくさいわ」


「わかりました、それじゃあ俺はこれで!あとお願いします!」


 と言って保健室を出ていこうとしたが。


「……って、いやいやいやいや、ちょっと待って!なんで出てけ!?俺も手伝いを…………!」


 少しでも力になろうと、俺は踵を返す。

 だがそこでようやく、何故先生が出ていけと言ったのか、理解に至った。


「あっ、こっち向いちゃだめ!」


「へ…………?きゃあああ!」


「いっ!」


 愛原がブレザーどころかワイシャツ脱いでた。

 ふむ、愛原は下着水玉派か。

 清純派な彼女にピッタリ……って、分析してる場合か。

 これは流石によくない。

 事故とはいえ、アウトすぎる。


「もう!だからだめって言ったでしょ!」 


「すいまっせん!でもなんで服を!火傷は手だけですよ!?」


 見ないように目を逸らしながら尋ねると、芹沢先生はあられもない姿の愛原を自分の身体で隠しながら。


「一見するとそうだけど、もしかしたら服の内側も怪我してるかもしれないから一応検査しないといけないんです!わかりましたか!?」


「なるほど、確かに!それは盲点、失礼いたしました!……あの、ちなみになんですけど。服の下は……」

  

 尋ねた瞬間、秋乃さんがニッコリと。


「冬月くん」


「う……わかったよ……」


 これ以上愛原の身体に鼻の下をのばしたら殺すと言わんばかりの気配を感じ取った俺は、ノソノソと保健室を後にした。

 早くも尻に敷かれている気がして、気が気じゃない。

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