第19話 隣の席のアイスメイデンはとっても不機嫌 【前】
翌日。
またしても姉さんから呼び出しがかかった。
またしてもお昼にだ。
今回も前回と同じく行きたくはないが、行かねば小遣いを止めると言われたので行かざるを得ない。
屋上へ。
「遅かったじゃない、当真。 前回より三分も遅いわよ、日が暮れるかと思ったわ」
屋上へと続く扉を開けると、姉さんが転落防止の網にもたれながら電子タバコをふかしていた。
「そりゃあ悪かったですね!こちとら毎回いきなり呼ばれるんで、そんな直ぐには対応出来かねるんですよ!てか何で屋上!?微妙に遠いんだよ!職員室と同じタイムで行けるか!むしろ頑張った方だと思うけどね!はぁはぁ……ふぅ。……で、なんの用?わざわざこんなところに呼び出して」
「それはもちろん、愛原陸海さんの件よ。校舎裏であったっていうね」
なんとなく予想はしていたが、やはりか。
逆に呼び出される理由がアレ以外に思い当たらないが。
「竜兄ぃや芹沢先生から聞いたのか?」
「ええ、後藤からね。芹沢先生は……想像に任せるわ」
芹沢先生の事だから多分。
『あれ痛そうでしたねぇ。どこで怪我したんでしょぉ?火傷するくらい熱いところなんて学校にあったかなぁ』
こんな感じのポヤポヤした返答をしたんだろうな。
まあでも結局手の火傷しか見付からなかったし、あれだけでいじめと結び付けるのは難しいか。
「愛原……さんの親からはなにも?」
「今のところ無いわ。そのうちかかってくる可能性はあるけど」
普通娘が包帯を巻いていたら気になるもんだが、愛原が誤魔化したのか?
オオゴトにしたくなくて。
俺もいじめられていた時、親にも姉さんにも言えなかったからな。
愛原の気持ちは痛い程わかる。
「まっ、そっちは任せるよ。大人の相手は大人にってね。んじゃ俺は秋乃さんと一緒に、愛原と話にでも……」
「……待って、当真。貴方、これからも愛原さんに関わっていくつもり?わかってる筈よ、いじめを不用意に助けたら今度標的になるのは……」
わかってる。
いじめをする奴は、いじめている奴を助けようとする奴も標的にするもんだ。
重々承知している。
……だからなんだ。
いじめられるから助けるなと、関わるなとでも言うつもりか?
そんなの……俺はごめんだ。
「それでも俺は愛原を見捨てるつもりはないよ、姉さん。竜兄ぃが俺を助けてくれた時みたいにね」
「ッ!」
姉さんは俺の言葉にハッとすると、自傷気味な笑いを溢す。
「は……はは……………何を言ってるのかしらね、私は。 こんなの教師失格じゃない。 自分の弟の為に愛原さんを、生徒を切り捨てようだなんて……恥を知りなさい、冬月葉月」
パン!
やっと姉さんらしくなってきた。
頬を叩いた姉さんの顔は、先程までの苦虫を噛み潰したようなモノではなく。
事故で両親と死ぬ筈だった俺を救い上げてくれた時に見せていた、あの必死な顔に戻っている。
「当真……悪かったわね、変な事ばかり言って。でももう大丈夫。教師として、人として何をすべきか、今ならハッキリとわかるわ」
こうなった姉さんは無敵だ。
確かに姉さんは性格破綻者だし、大酒飲みで、すぐ俺や竜にいを叩く人畜有害を地で行く人だ。
歯に衣着せぬ言い方をすれば、屑である。
だが俺は知っている。
この人は誰よりも、弱者の味方だということを。
そんな姉さんだからこそ、俺は────
「だから、私にも一枚噛ませなさい。貴方のヒーロー気取りに」
「姉さん……ああ、頼りにしてる。やっぱり姉さんはそうじゃなきゃな、へへ!」
誰よりも信用しているんだ。
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