第15話 隣の席のアイスメイデンとイジメの現場

「な……なにしてんのよ、さっさと土下座しなさいよ!」


「土下座のやり方もわかんないの?こうやんのよ!」


「ううぅぅぅ……」


「あははっ、良い様なんだけど!マジでウケるわー!」


 虐められているのはどうやら一年の女子のようだ。

 そして虐めている側は恐らく二年生。

 以前二年生の教室が並ぶ廊下ですれ違った覚えがある、真面目な印象だった三人組だ。

 だが三人は前に見かけた時とは違い邪悪そのもの。  

 一年の女の子が泣いているにも関わらず、土下座したその子の頭を踏みつけている。

 あんなものを見て怒りが抑えれるはずがない。

 なんとかして助けなければ。

 そこで俺は秋乃さんに。


「秋乃さん、先生を呼んできてくれ。その間に俺があの子を……」


 指示を出すが、返事がなく動く気配もない秋乃さんに違和感を覚え、咄嗟に振り向く。


「秋乃さん……?」


 俺の背後では秋乃さんが放心状態となっていたのだ。

 彼女の身体が小刻みに震えている。

 一体なにが……。


「秋乃さん?秋乃さん、いきなりどうしたんだ。大丈夫か?」


 あまりの様子のおかしさに、俺は秋乃さんの肩を揺すって意識をハッキリさせようとする。

 どうやらそれが功を奏したらしく、秋乃さんはハッと瞳に光を戻すと。


「ご、ごめんなさい。すぐに呼んでくるわね……」


「あ……ああ、頼む」

 

 ヨロヨロと立ち上がり、真っ青な顔で校舎へと向かっていった。  

 秋乃さん、どうしたんだろう。

 イジメの現場がショックだったのか?

 

「……いや、秋乃さんの様子も確かに気にはなるが」


 今の優先順位は虐められている一年生。

 手遅れになる前に間に入らねば、と。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「…………ッ」


「泣いて謝れば許されると思ってんじゃ……!」


「やめろ!なにしてるんだ!」


「きゃっ!」


 俺は女の子を踏みつけていた同級生を引き離す。

 少しばかり力が強かったのか、イジメっ子がこけそうになる。 

 が、


「大丈夫か?もう心配しなくて良いぞ、すぐ先生が来るからな」


「ひっく!うぇぇ……!」


 そんなのお構いなしに俺は、泣きじゃくるその子の肩を抱いて立ち上がらせ。  

 

「な……なによ、あんた! あんたには関係ないんだから引っ込んで……!」


「こんな女の子をよってたかってイジメてんのに、見て見ぬふりなんか出来るわけないだろ!」


 女の子を守る形で、噛みついてきたリーダーらしき女子を睨み付けた。

 

「……」


「べ、別に私達はなにも……!」


「そ、そうよそうよ!人聞きの悪いこと言わないで!」


 まあそりゃあイジメてましたとは白状しないわな、イジメっ子は。

 俺も昔イジメられた経験があるから、それをよく知っている。


「人聞きの悪い……?あのなぁ、俺はさっきから見てたんだよ。あんたらがこの子の頭を……」


「そ、それは勘違いだから!そう、勘違いなの! 遊んでてちょっとエスカレートしちゃったっていうか!だよね!?」


「う……うん……」


「愛原だって嫌がってた訳じゃなかったし、なんならヘラヘラ笑ってたし!そうよね、愛原!」


 愛原と呼ばれたスポーツ少女は名前を呼ばれると、肩をビクッと震わせる。


「えと……あの……その…………」


 これは明らかな脅しだ。

 自分達がイジメをしているのをバレないよう、愛原を黙らせようとしているに他ならない。

 愛原にとっては、さっきまで自分を虐めていた奴らにそう言われたら頷くしかない。


「は、は……ぃ……」


 が、俺がそれを良しとしなかった。

 肯定したらますますエスカレートするのは目に見えていたから。

 だから俺は、震える手でシャツを握る愛原にこう告げたのだ。


「ダメだ、愛原さん。 絶対に頷くな」


「え……?」


 愛原は涙を目尻に溜めながら俺の顔を見上げる。  

 俺はその涙を指先で拭い、彼女の頭を撫でながら。


「大丈夫だ、後は俺達に任せろ」


 言って、再度三人組を睨み付ける。


「さっきから聞いてたらなんなのよ、あんた!虐めてないって言ってんじゃん!あんたの勘違いなのよ、全部!だからさっさとどっかに……」


「そうか、俺の勘違いか。ならここで何をしていたのか、全て洗いざらい説明できるよな?虐めてないんだもんな?」


「はあ?どうしてあたしらがあんたなんかにそんな事しなくちゃなんないのよ!ふざけるのも大概に……!」


「あのさ、お前らこそ勘違いしてないか?誰が俺に説明しろっつったんだよ。お前らが説明しなきゃなんないのは俺にじゃない、あの人にだ」


 何を言っているのかわからないという顔をしている三人組をよそに、俺はさっきまで自分が隠れていた場所。

 すなわち、校舎に続く校舎裏を指差した。

 厳密に言うと、校舎裏ではなく…………、


「お前ら、そこで何をしている!全員動くな、わかったな!」


 バタバタと豪快な足音と共に登場した我らがヒーロー。

 後藤先生に、だが。

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