第14話 隣の席のアイスメイデンと燃やされた靴

「つーことはマジで付き合ってんのか、当真と秋乃さんは。いつかはそうなるとは思ってたけどよ、思ったよりスピーディーで度肝抜かれたぜ」


 この、箸の先端でこちらを指す男の名前は大槻一季いっき

 中学生の頃から付き合いのある友人だ。

 高校デビューとして茶髪にしたが、持ち前のウザさとエロに賭ける熱意のせいで学校中の女子を敵に回した、正真正銘のバカである。

 

「見てたらわかるだろ、マジだよ。……あむ」


「みてえだな。じゃなきゃこんな公衆の面前で、あーんなんかしないだろーし。なっ、唐沢」


「何度言えばわかる、俺は唐沢じゃない。伊沢だ、阿呆が」


 そして今しがたツッコミをしたのがもう一人の友人、伊沢宗次郎。

 伊沢は高校一年生の頃仲良くなった、インテリ風眼鏡をかけたエセインテリだ。

 一見無愛想に見えるが、その実めちゃくちゃ付き合いが良い。

 この学校で出会ったベストフレンドと言っても過言ではない。


「俺はいつかこうなるだろうと予測していたがな」


「そうか、ありがとな三沢」


「伊沢だと言っているだろうが!」


 伊沢が度重なる弄りでキレる中。

 秋乃さんが無理矢理卵焼きをねじ込んできた。

 まださっきの唐揚げが残ってるのに。


「んがが……ちょっと秋乃さんストップ!入れすぎだから、そんなに入らないから!ハムスターじゃないからね、俺!ねえ聞いてる? なんで無我夢中で詰めてくるの?餌付けのつもりなの? だとしたら失敗だよ、大失敗だよ。ただただ苦しいだけだもの」


「失敗したわ」


「ようやくわかってくれた?よし、じゃあ秋乃さんもいい加減自分の弁当を……」


「お米も要るわよね、ごめんなさい」


 そうじゃない。

 全然わかってないわ、この子。


「ほんともう勘弁して?口の中が飽和状態だから。それ以上は入らな……あ……あぁぁぁ……」


「愛されてんなぁ、当真のやつ。 くぅー!羨ましいぜ!」


「同感だ」 

 

 なら代わってやろうか?

 呼吸が薄くなってきて、マジで呼吸困難になるからな、弁当で。





「おう、ようやく来たか冬月……って、お前どうした。顔色真っ青だぞ」


 そりゃあ、あんだけハイスピードかつ、を間断なく放り込まれたら誰だってこうなる。

 若者の胃袋を舐めるなよ。

 若くても限界はある。


「ちょっと食べすぎちゃって」


「そうか、なら丁度よかったな。ほれ」


 後藤先生から渡されたのは、昔ながらの竹箒二本とボロいチリトリだった。

 これを使って掃除をしろという事か、このだだっ広い裏庭を。


「どうも……秋乃さんもほら」


「これが罰なのね、なんだかワクワクしてきたわ」


 なにをそんなにワクワクする要素があるのか、俺には理解不能だ。

 だが冗談抜きで本気で楽しみらしい。

 秋乃さんは身体を揺らして、喜びの感情を表現している。


「先生、もう始めても良いのかしら。わたし、早くやりたいわ」


「相変わらずお前は変わったやつだな。好きにしろ」


 後藤先生に許可を貰うなり、秋乃さん箒で落ち葉を掃き始める。

 そんな秋乃さんを満足げに一瞥した先生は。


「冬月、お前も秋乃を見習ってちゃんとやれよ。あと、いちゃつくのは禁止な」


 余計な一言を付け加えた後藤先生は。


「いちゃつきませんって!ていうかさっきからなんで俺にばっかり言うんですか!風紀を乱してるのはどっちかといえば、秋乃さんの方で……!」


「下校のチャイムが鳴るまでに終わらせろよー」


 俺の抗議を右から左へ受けながして、裏庭から去っていった。





「よーし、こんなもんか」


 掃除を始めておよそ一時間。

 秋乃さんの手際の良さとやる気のお陰で、裏庭は以前とは比べ物にならないほど綺麗になった。

 ベンチの下はもちろん、花壇や渡り廊下近辺には今や落ち葉のひとつもない。

 

「秋乃さん、楽しかったか?」


「満足したわ」


 秋乃さんは十分楽しめたようで、気の抜けた顔をしている。

 

「そりゃよかった。さて、んじゃ片付けるかな」


「ええ」


 そんな会話を経て俺達はそれぞれ道具を手に、掃除道具をしまう場所。

 校舎裏へと足を運ぶことにした。


 ガタッ。


「ふぅー、やっと終わったなぁ。つっかれたー」


「冬月くん、今日はどうする?勉強する?」


 今からか?

 冗談だろ。 


「やらないよ、もう帰ろうぜ」


「そうね。なら途中まで一緒に……」


 と、倉庫の扉を閉じたその時。  

 妙な声が聞こえてきた。


「────ッ!」


「なんだ……?向こうからか?」


 聞こえてきた場所はあそこの角を曲がった先か。

 確かあの先は人通りの少ない暗がりだった筈だが。

 

「ねえ冬月くん、これって今動かしてたかしら」


 秋乃さんが覗き込んでいるのは、倉庫から離れて設置されている焼却炉だ。  

 

「いや、令和が始まった頃からかその前からか。こういう焼却炉って火事に繋がったり、事件に繋がるから基本的に使われないだろ」


「そうよね。でもこれ見て。なにかがおもっくそ燃えているわ」


「おもっくそて。秋乃さんってたまに言葉遣い荒いよね」


 ツッコミながら俺も焼却炉を覗き込む。

 確かに焼却炉が動いており、炎がパチパチとはぜている。

 誰がつけたんだ。

 先生にド叱られるぞ。


「ん……?これなんだ?靴っぽいな」


「誰かがわざわざこれで燃やしたのかしら」


 見た感じ、燃やし始めてそう時間は経っていないような気がする。

 俺は一先ず焼却炉の電源を押下。

 このまま着けておいて先生にもし見つかったら事だと、火を止める。

 その瞬間、嫌な音が響いた。

 嫌な声も。


「ひっ!」


 バチン!


「秋乃さん」


「うん」


 秋乃さんと俺は頷き合うと、暗がりへと続く壁に身を寄せ、覗き込む。

 そこでは思いもよらぬ……むしろ、ある意味予想していた光景が広がっていた。


「ちょ……ッ。 ちょ……調子乗ってんじゃないわよ、あんた! い、一年癖に生意気なのよ!」


「そうよそうよ!あたしらより先に選手に選ばれやがって!何様のつもりよ!」


「悪いと思ってるのならそこで土下座しない!このドブスが!」


 それは紛れもなくアレだった。  

 学校では……社会では付き物とはいえ、見ているだけで胸くそが悪くなる光景。

 イジメの現場である。




 

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