第13話 隣の席のアイスメイデンと恋愛フィルター

 男というのは単純な生き物だ。  

 というよりかは、バカだ。

 好きかどうかわからない相手だとしても、告白されたら意識してしまうし、あまつさえ好きになってしまう。

 それが男の生態だ。

 キスなんてもっての他。

 世間体を気にして人前では距離を取ろうとしていた相手でさえ、キスをしてしまったら最後。

 好きになってしまう。  

 なんて愚かな生き物なんだ、俺達男って生き物は。  

 中でも、最も度し難い男は俺で間違いないだろう。

 あれだけ他の生徒からの印象がー、とか言っていた癖にこの有り様なのだから、手の施しようがない。


「冬月くん、いい加減もう少しこっちへ来たらどうなの? 微妙に距離が出来てて嫌なのだけど」


 キスした瞬間恋に落ちて面と向かって話すのが恥ずかしいから、秋乃さんから物理的に距離を置いた。  

 だなんて、情けないにも程がある。

 乙女か、お前は。


「う……悪いとは思ってるんだけど、ちょっと恥ずかしくて」


「ふぅん、だったらもっと照れさせてあげるわ」


 秋乃さんは悪戯な笑みを浮かべると、詰めてきた。

 お陰で俺の身体はベンチの端と秋乃さんで板挟み。

 ベッタリくっついてしまっている。

 

「ちょっ、秋乃さん! 近いんだけど!」


「ほらほら、これでわたしを避けれないでしょう? ふふふっ」 

 

 なんだこの幸せな拷問は。

 昇天しそう。


「顔真っ赤にしちゃって、冬月くんも可愛いところがあるのね。 新発見だわ。 ふむ……そんな可愛い所を見せられたら、なんだかからかいたくなってくるわね」


 勘弁してほしい。

 こっちも新発見だよ、秋乃さん。

 案外Sなんだな、秋乃さん。 

 いや、普段のツンギレを見る限りSで妥当かもしれないね、秋乃さん。


「でも時間も時間だからここら辺でいい加減聞かなきゃね、名残惜しいけれど。 という訳で、冬月くん。 さっきの告白の返事、そろそろ聞かせて貰えないかしら? よもや断りはしないわよね」


 姉さん並みの圧を秋乃さんから感じる。  きっとなかなか答えてくれないから、不安にさせてしまったのだろう。

 だから断れない雰囲気を出したのかもしれない。

 申し訳なさで胸が張り裂けそうだ。


「ああ、待たせてごめん。 俺もようやく決心したよ。 秋乃さんの告白にどう応えるべきか」


「ええ……いつでも来なさい。 覚悟は出来ているわ」


 覚悟が出来ているという割には、膝に置かれた手が震えている。  

 常に強気な秋乃さんとはいえ、不安になる事はやはりあるようだ。

 俺はそんな彼女の手を握り、星空に負けない綺麗な瞳を見つめる。

 そして────


「秋乃さん、俺は……」


「ごくり…………」


 唾を飲み込んだ秋乃さんに、俺はハッキリとした口調でこう告げた。


「俺も秋乃さんが好きだ。 これからよろしくお願いします」









 恋をすると人は変わるという話がある。

 これはきっと、目と心に恋愛フィルターなるものがかかってしまうのが、原因なのだろう。  

 無論、クールを貫いてきた秋乃さんだってこの恋愛フィルターから逃れる手はない。  

 このように。


「あ、秋乃さんちょっと離れてくれるかな。 ノート写しにくいから……」


「いやよ。 だってわたしは冬月くんの彼女だもの。 なら冬月くんにくっつくいていても問題無いでしょう?」


 とまあ朝からずっとこんな調子なのだ、秋乃さんは。

 付き合えて嬉しいのはわかるが、四六時中これは流石に……。

 周囲の目も痛いし。


「あれってもしかして……へー、やるじゃん冬月くん」


「推しが……推しが幸せそうにしてる……! 私もう天に召されても良い……」


「くっ! おのれ、冬月! ついに秋乃さんに毒牙を!」


「きいぃー! よくもわたくしの御姉様を! 冬月当真、万死に値しますわよ!」


 三者三様とはこの事か。

 女子は一人を除き、皆尊い物を見るかの目を秋乃さんに向けている。

 かくいう男子はというと、隠す気も失せたらしい。

 一部の男子以外、皆一様に俺へ殺意を露にしている。

 冗談抜きでこれはよくない。

 そこで俺は。


「秋乃さん、ほんとにヤバイから! 今までの非じゃないから! 俺を間接的に殺す気じゃないなら、今すぐどいて!」


「……仕方ないわね」


 ようやく離れてくれた秋乃さんに安堵するのも束の間。

 

「またお昼にイチャイチャするわ」


「「「────────!?」」」


 彼女の爆弾発言により、方々の怒りが爆発。

 俺はいつの間にかどこぞの暴力系組合の事務所に迷い込んでいたのか。

 そこかしこから舌打ちとカッターナイフの刃を出し入れする音が教室内に響き始める。

 そこでようやくみかねた教師が口を……。


「冬月、放課後裏庭に来い。 風紀を乱した罰として、裏庭掃除だ」


 なんで俺だけ。

 

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