第11話 隣の席のアイスメイデンと昔馴染み【後】
「「………………」」
お互いにお互い見られたくない所を見てしまい、お互い硬直する。
総合的な絵面で見たらヤバイのは恐らく俺の方だ。
どういった経緯で姉さんの写メを手に入れたのかはともかくとして。
夏日紫苑は姉さん、もとい自分の通う高校の教師が写された写メに話しかけていただけ。
充分それもヤバイ気がするが、俺ほどではない。
なにしろこっちは覗きをしていた事を本人にバレてしまったのだから、何を言われたって文句なんか言えやしない。
なのに、秋乃さんときたら。
「変態が居るわ」
「秋乃さん、いきなり何言いだすの!?」
早速ぶっ込んできおった。
「ははは、随分な言いようだね。久しぶりに会ったというのに」
「わたしは別に会いたくなかったわ」
「悔しいけれど、まったくもって同意だね。僕も会いたくなかったよ、君なんかとは」
同小だからそれなりに仲が良いのかと思ったらむしろ逆。
火花を散らすほど仲が悪い。
「そっちこそ随分な物言いね。コンクリート詰めにして湾に沈めるわよ」
極道かな。
秋乃が如くかな。
「君は相変わらず口が悪いね。昔から秋乃さんはそうだ、だから父親に……」
「それ以上彼の前でその薄汚い口を開いてみなさい。本気で殺すわよ」
「秋乃……さん?」
父親と聞こえたが、秋乃さんはお父さんと何か確執でもあるのか?
そういえば秋乃さんの口から親の話は滅多に出ない。
やはり何か事情が…………いや、今はそんな事どうでも良いな。
売り言葉に買い言葉。
元々は秋乃さんのせいだから夏日紫苑を糾弾するつもりはないが、俺は秋乃さんの友達……になったつもりだ。
友達が悪く言われているのに静観しているつもりはない。
「僕は君のそういう所が昔から……」
「夏日、だったか?もうやめてくれ、秋乃さんが嫌がってる。聞いてる方も不愉快だ」
俺は二人の間に入り、夏日紫苑を睨み付けた。
夏日はしばらく俺の目から視線を外さない。
が、俺の言葉が通じたのか。
夏日は申し訳なさそうに頭を下げる。
秋乃さんではなく、俺に。
「ごめん、僕が浅はかだった。謝罪するよ……えっと……」
「冬月当真だ。あと謝るなら秋乃さんにしてくれ、俺にじゃない」
秋乃さんは夏日紫苑とただの昔馴染みだと言っていたが、恐らくは違う。
なにか因縁めいた物があるのかもしれない。
でなければ他人に気を遣えて、丁寧な言葉遣いを気を付けている夏日が秋乃さんに謝罪するのを躊躇う必要がない。
しかし、夏日は結局謝罪を口にした。
「すまない、さっきは言い過ぎた」
決して頭は下げなかったが、まあ今回はこれで手打ちと……
「死んでくれたら許すわ」
秋乃さん。
「君という人は本当に……」
「ふん」
全然手打ちとならなかった。
むしろ悪化したまである。
二人はまたバチバチと火花を散らし始めた。
俺はそんな二人を見て。
「ちょっとジュース買ってくるから、終わったらベンチに集合な……」
諦める事にした。
販売機でジュースを買った俺は、頃合いをみてベンチに戻る。
「お待たせー。炭酸とコーヒーと天然果汁のジュース買ってきたけど、二人はどれが……」
そこでは二人が距離を置いて座っていた。
これが二人の心の距離なのかもしれない。
溝が深すぎる。
「ありがとう、当真くん。じゃあ僕はコーヒーを貰えるかな」
いきなり名前呼びか、馴れ馴れしいな。
まあいいけど。
「コーヒーな、ちょっと待って。はい、どうぞ」
「わざわざごめんね、いただきます」
手渡すと夏日は爽やかな笑顔を送ってきた。
俺がこんな笑顔を見せても引かれるだけだが、夏日がしたら女の子がキャーキャー喚くんだろうな。
「なにかな?」
「いや、なんでもない。夏日は顔が良いなと思っただけだよ」
「そうかい?自分じゃよくわからないな。まあでも女の子に言われるより、同姓に言われる方がなんか嬉しいね。なかなか言われないからかな」
夏日は自分の顔を鼻にかけないし、どこからどう見てもモブな俺とも和やかに話してくれる。
こいつは多分良いやつだ、それは間違いない。
だけど、イケメンはやっぱり嫌い。
僻みなのは重々承知している。
「冬月くん、わたしもコーヒーが飲みたいわ」
「なんだ、買ってこいってか。仕方ないな、ちょっと待って……」
「ここにあるから買ってこなくても大丈夫」
「あっ、ちょっと!」
なんでわざわざ夏日のを奪うかな。
「君はさっきからなんなんだ、嫌がらせばかりして!」
「ふんっ」
「もしかしてまだ昔の事を引きずっているのかい?あれは君にも問題が……!」
ああもう、いい加減にしてくれ。
「はいはい、一旦落ち着きなって二人とも。ほら夏日、ブドウジュースで良いよな」
このままでは埒が明かないと、俺はペットボトルを差し出し、二人の間に座る。
こうすれば二人が顔を合わせずに済むと踏んでの行動だ。
多少はマシになってくれれば御の字って程度だけど。
「すまない、何度も迷惑をかけて」
そう思うなら自重して欲しいものだ。
「迷惑だと思うなら、さっさとどっか行けば良いのに」
「秋乃さん」
「むぅ……わかったわよ。もう言わないわ」
ようやく少しは落ち着いたかと、俺は炭酸ジュースの蓋を開ける。
ペットボトルの口から甘味飲料水の独特な風味が漂ってきた。
その香りを嗅ぎながら一口含むと、炭酸が口の中に広がり若干喉が痛い。
「ぷはっ。炭酸って最初の一口がキツいよなぁ、美味しいんだけどどうしてもこれだけは慣れそうにない。あっ、そういえば夏日。さっきのアレなんだけど」
「アレ? ……ああ、葉月先生の事かな。それがどうかしたのかい?」
正直、同級生が実姉を好きだとかしんどいから聞きたくない。
けれどあの写メを見たからには、弟として訊かないわけにはいかないわけで、俺は恐る恐る。
「言いたくなかったら言わなくて良いんだけど、夏日はその……姉さんの事が……」
「うん、好きだよ。この世界の誰よりもね」
やっぱり聞かなきゃよかった。
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