第9話 隣の席のアイスメイデンは天才肌 【後】

 秋乃さんはやると宣言したらやる女だ。  だから彼女がやると言った以上、こうなるのはある意味予定調和。

 世の理によって定められし運命、だったのかもしれないと、今にして思う。


「くぅ……」


「やりすぎたかしら」


 はい、案の定ボコボコにされました。

 ガンシューティングはもちろん。


 ホッケーでも。


「これ以上秋乃さんの好きにさせる訳にはぁぁぁっ!」


「隙だらけだわ、冬月くん」


「ああああぁぁぁぁぁぁ……」


 格闘ゲームでも。


「もらった!」


「隙だらけだわ、冬月くん」


「フッ……燃え尽きたぜ、真っ白にな……」


 レーシングゲームでも。


「ここを曲がりきれば、ゴールはもう目の前……!」


「隙だらけだわ、冬月くん」


「ああっ、甲羅が横っ腹に! 嘘でしょ、どんなコントロールしてんの秋乃さん」


 他にも、メダルゲーム、バスケット、疑似競馬ゲームと色々やった。

 が、そのどれもが秋乃さんの圧勝。

 手も足も出なかったのである。

 秋乃さん、マジハンパない。


「ほんと凄いよね、秋乃さんって。天才肌っていうか。一つぐらい勝てると思ってたんだけど……」


「楽勝だったわ。冬月くんってセンス無いから」


 もうゲーセン通うのやめよっかなと、並んで座るベンチで項垂れる。

 彼女の発した言葉は、それだけの決断を促す力を有していた。

 

「そ、そう……楽しんでもらえたみたいでなにより……」


「ええ、楽しかったわ。だからまた来ましょう、二人で」


 どの口が言うんだと文句の一つでも言ってやりたいところだが。

 また一緒に来たいと言ってくれた事がなんだか無性に嬉しくて、俺は自然と頷いていた。


「そうだな、また来ようか二人で。その時は手加減してくれ、俺センス無いみたいだから」


「ふふ、覚えておくわ」


  情けない自虐に秋乃さんにクスクス笑い、俺もそんな彼女に釣られて笑う。

 なんだが良い雰囲気だ。

 ただベンチに座ってこうやってダベっているだけ。

 それだけなのにとても楽しい。

 心が浮わつく。

 相手が女の子だからだろうか。

 それとも相手が秋乃さんだからだろうか。

 どちらにせよ、いつまでもこの雰囲気を味わっていたい。

 俺は少なくともそう感じている。


「はは、なんで俺達笑ってるんだろうな。別に大して面白くもなんともないのに」


「ふふ、本当ね。他愛もない会話なのに、なんだがとても楽しい。これってやっぱり冬月くんだからかしら。それとも……ううん、きっとそう」


 しかし秋乃さんにおいては、その限りではないようで。


「わたしはそう思いたいわ、こんな気持ちになれたのは冬月くんだからだって。だからこそ、わたしも覚悟を決めなくちゃならないわよね。このままズルズルと続けたくなんかないから……」


「覚悟?」


「ええ」


 秋乃さんの雰囲気が変わった。

 一目見ただけではいつものクールな秋乃さんだが、とても緊張しているのか、耳は赤くなり、呼吸も乱れている気がする。


「……ねえ冬月くん、少し良いかしら」


「なに、秋乃さん?改まって」


「ううん、ただ……冬月くんに大事な話があるの。だから、ちょっと静かな所へいかない?ここじゃちょっと、ね」


 大事な話、か。

 早合点はしたくないが、この雰囲気だ。

 やっぱり告白、なのだろうか。

 となると、姉さんのアドバイスの出番だな。

 アドバイス……アドバイス、ねぇ。

 はっ、なーにがアドバイスだよ。

 何が『自分の心に従って、自分で決めなさい』だよ。

 そんなの当たり前だろうに。

 こうなったら仕方ない。

 もう姉さんに頼るのはやめよう。

 付き合っても直ぐに別れるあの人格破綻者に相談したのが、そもそもの間違いだったのだ。

 事ここに至っては、自分で決めるしかない。

 それによく考えたら、こんな大事な事を他人に委ねるのはどうなんだと思うし。

 うん、告白された時の自分の感情に任せるとしよう。


「わかった、じゃあ行こっか。近くの公園で良い?」


「あそこね、問題ないわ」


 と、難しく考える事はやめにして、ベンチから立ち上がった時だった。


「ん……?ねえ、冬月くん。あれなにかしら」


「あれ?」


 秋乃さんが、とある場所を指差した。

 その場所とはクレーンゲームエリアの一角。

 人気の少ないユーフォーゲームの片隅だ。

 そこではこれから俺達が起こすであろう、一大イベントが巻き起こっている真っ最中だった。


「あ……あの、夏日くん!ちょっと良いかな! 大事な話があるんだけど!」


 そう、告白タイムである。

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