第7話 隣の席のアイスメイデンは天才肌【前】
その日の夜。
俺は姉さんに事の顛末を話した。
遊びに行くどころか、デートになってしまった話も含めて。
その内容がどうやら姉さんの思惑以上だったらしく。
「ぶっ……あははははは!ちょ、やめてお腹痛い!ビールが零れちゃうからほんとやめて! ははははは!」
姉さんは大爆笑。
ビール缶片手にテーブルをバンバン叩く。
酔っぱらいはこれだから嫌いだ。
「ちょっと姉さん、笑いすぎだっての!確かにあの秋乃来栖とデートに行くなんて本来ならあり得ない事だけど、流石にそれはないだろ!元はと言えば、姉さんが……!」
「あはは、ごめんごめん。まさかこうなるとは思わなくてさぁ。私としてはさ、あの娘に人と関わる事の楽しさを、あんたを通して教えるつもりだったのよね。なのにあんたってば、デートをこぎ着けてくるんだもの!こんなの笑わずにはいられないじゃない!くふふふふ!」
それはこっちの台詞だ。
「そんなの俺だって思いもよらなかったって。 なんでわざわざデートだなんて……」
「はあ?当真、あんたそれ本気で言ってるの?」
姉さんはそう言うと、ビールを一飲みして缶を叩きつけた。
「んなの決まってるじゃない!あんたの事が好きだからよ!まったく女心のわからない男ね!」
…………へ?
「な、なん……?秋乃さんが俺の事を好き、って……流石に冗談だよな、姉さん?だってあの秋乃さんが俺を好きだなんて……」
「そんな冗談言うわけないでしょ、アホじゃないのあんた。今までだってあの娘、あんたにアピールしてたじゃない。いつも当真の方ばっかり見てたし、あんたにだけ優しかったでしょうが」
確かに身に覚えはあるけど。
「俺はただ単に、よく話すからそうなんだとばかり……」
「それが既に秋乃さんにとっては異例なのよ。いい加減認めなさい」
「っ」
今まで無意識に考えるのを避けていた秋乃さんとの不思議な関係をズバッと突きつけられ、俺は言葉を失った。
言われてみれば姉さんの言う通りだ。
秋乃さんが俺以外とまともに接しているのを見た記憶がない。
誰かに優しくするなんてもっての他。
今にして思えば色々その節があった気がする。
いくら恋愛経験が無いにしろ、鈍感すぎるな、俺。
「じゃあほんとに秋乃さんは俺の事を……」
「ようやく認めたわね、この鈍感弟は」
結婚どころか恋愛経験なんて殆んど無い姉に鈍感と言われるのは非常に癪だが、間違っていないので何も言えない。
「で、どうするの?」
「どうするって、なにが」
「付き合うのか付き合わないのか、どうするのかって訊いてんの」
アルコールが脳にまで達したのかな。
「つ、つつつ……付き合う!?なんでそんな話になるんだよ!百歩譲って秋乃さんが俺を好きだとしても、告白された訳でもないのに!」
「時間の問題だとおもうけどね、あの様子だと。第三者から見ても、あの娘のあんたへの好感度はカンストしてるもの。明日にでもコクられるんじゃない?」
そこまで秋乃さんの好意は透けて見えてるのか。
今更ながら、クラスメイトの殺意の理由を理解出来た気がする。
「なあ、姉さん…………俺、どうしたら良いんだろう。もしも告白されたら付き合うべき、なのかな。でもまだ俺は秋乃さんを恋愛対象として見れてないのに、それで付き合うなんて失礼な気もするし……」
「ふぅ……だからあんたは童貞なのよ。このクソチキン」
やかましいわ。
「童貞で悪かったな!てか教師がそういう事を言うのはどうなんだよ!」
「うるさいわね、文句言うならアドバイスしてやらないわよ」
俺は姉の言葉を耳にするなり即座に頭を下げた。
「ごめんなさい、すいません、申し訳ありませんでした!愚かな弟めをお許しください!どうか姉上様のお力を貸してくださいまし!」
「自分の弟ながら情けな……どうしてこんな子を好きになったのかしら、あの娘。趣味が悪いのかしらね、母親譲りで」
どういう意味だ?
もしかして姉さんは秋乃さんの母親と面識でも…………と、疑問に頭を悩ませる最中。
姉さんはビシッと人差し指でこちらを差しながら────
「まあ良いわ、あの娘の趣味を悪く言うつもりはないから。じゃあ今から恋愛における秘策をあんたに譲渡してあげる、心して訊きなさい。あんたが選ぶべき道はズバリ────!」
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