第175話「普段、生と死の狭間で戦っているから、守備隊の弾け方は半端ではなかった」

「よっしゃあ!! エルヴェ・アルノー!! 行きま~~す!!」


俺は気合を入れてそう叫び、大地をダン!と蹴って、走り出した。


出来るものなら、ギアをどんどん上げ、

最速に近いスピードで走りたいところだけど、

そうすると、時間差で最後に出撃するフェルナンさんが、

置いてけぼりとなってしまう。


なので、俺はちょっち、速度を緩めた。


勘働きスキルで分かる。

少し間を置き、フェルナンさんが出撃したと。


ついて来るのを確かめると、たっ!たっ!たっ!と軽く走る。


うん、ひと安心。

フェルナンさんから、不安げな波動は伝わって来ない。


……改めて前方を見やれば、オーガどもは大混乱中。


威嚇するケルベロスとグリフォンに怯え、同士討ちまで始める始末だ。


ローラン様、バスチアンさんはといえば、

無双、無敵という文字を具現化したかのごとく、凄まじい戦いぶり。


剣と魔法を駆使、魔法剣士として鮮やかな手際で華麗に戦うローラン様。


剣と格闘を駆使、泥臭く地味だが、力強い武技で敵をねじ伏せるバスチアンさん。


どちらがというわけではなく、両名とも、良き手本になる。

俺が取り入れたいと感服する、素晴らしい戦闘スタイルだ。


味方が圧倒するこんな戦場に入るのだから、プレッシャーは皆無に等しい。


俺は、しゅらっと、剣を抜き、オーガどもの中へ飛び込む。

囲まれ、集中攻撃を受けないよう、注意しながら。


「おら!おら!おら!おら!おら!おらあああ!!!」


気合を入れまくり、オーガどもを攻撃した。


相手は悪逆な人喰いの魔物だし、4対5千と、数が全然違う。

だから、正々堂々とか、卑怯とかは考えない。

そもそも俺は騎士ではなく、冒険者だし。


敵の急所は勿論、死角をつき、ガンガン攻める。

隙があるのなら、ためらわず背後からでも、斬り捨てる。


剣だけではなく、ローラン様と同じく、

至近距離からガンガン攻撃魔法をぶちかます。


ちなみに至近距離から魔法を撃つのは、的確に命中させるのと、誤射を防ぐ為だ。


更に俺はバスチアンさん同様、拳と蹴りも使う。

でっかいオーガも俺の拳を受け、のけぞり、蹴りを喰らい吹っ飛んだ。


ただ注意はしなければならない。

オーガの膂力は人間の10倍以上。

殴打を喰らったら、一撃で致命傷だし、もしも捕まったら、引き裂かれ、

あっさりと殺されてしまう。


幸いオーガの動きは緩慢。

予備動作が大きく、分かりやすいから、全ての攻撃が余裕でかわせる。


威圧のスキルも存分に使う。

ゴブリン、オーク同様、オーガにも全然通用した。


MAXレベルの石化も出来たし、

俺の鋭い眼光で、オーガどもは身体を硬直させ、行動不能となった。


気になっていたフェルナンさんも無事。


オーガどもを蹴散らしているのが、勘働きスキルで分かる。


こうなるともう一方的。


仲間を次々に倒されたオーガどもは、恐怖一色に染まり、

生き残ったわずかな者数十体は、魔鏡の奥へと逃げて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


こうして……俺たちグランシャリオの働きで、北の砦へ迫り、

脅かしていた、オーガ5千体はほぼ壊滅した。


ローラン様が合図をし、セレスさん、クリスさん、シャルロットに、

魔導昇降機で降下して貰い、合流。


念の為、ケルベロスとグリフォンを展開させ、安全を確認しながら、

死骸が不死化して、アンデッドにならないよう、葬送魔法で塵にして処理。


ちなみに葬送魔法は、元司祭、エキスパートのセレスさんは勿論、

ローラン様、俺、シャルロット、そしてクリスさんも行使可能だ。


5人で行ったから、あっという間に作業完了。

これでオーガの脅威は、とりあえず無くなった。


これで今回の依頼は、9割がた終わった。


砦へ戻ると、俺たちは来た時以上に、守備隊の熱烈な歓迎を受ける。


守備隊のほぼ全員が、最初から最後まで、

俺たちの戦いぶりを見守っていたからだ。


興奮冷めやらぬという面持ちで、守備隊の隊長エルネスト・ブイクス伯爵が言う。


「ブラボー! 素晴らしい! 圧倒的!という言葉以外、出ませんよ。ローラン様、グランシャリオの皆様方!」


伯爵は、俺たち新人3人の戦いぶりも褒めてくれる。


「新人のお三方も、超ハイレベルなグランシャリオの戦いに、しっかりと適応している。大したものだ。まさに即戦力ですね」


そんな伯爵の言葉を聞き、ローラン様。


「ああ、伯爵。私たちの期待に充分すぎるくらいに応えてくれている。グランシャリオの次代を担ってくれると確信しているよ」


うお!

ブイクス伯爵の言葉は勿論、ローラン様が俺たちを認めてくれたのは、凄く嬉しい。


ふたりの言葉を聞いていた守備隊の面々もやんややんやと、はやしたてた。


大盛り上がりな雰囲気の中……

砦では祝勝会が行われ、飲めや歌えの大騒ぎ。


普段、生と死の狭間で戦っているから、守備隊の弾け方は半端ではなかった。


そして翌日から数日、勝って兜の緒を締めよという感じで、

ローラン様の指導の下、武術訓練が行われ……


俺たちは依頼を完遂。


守備隊総出の見送りを受け、北の砦を後にしたのである。

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