第174話「恐怖感はまだあるかもしれないが、 「腹をくくった」「開き直った」という表現が妥当だろう」

「突撃!!!」


大きな声で、号令をかけたローラン様。


同時に、パパパパパ!と、俺は考える。


ローラン様の命令は、

風弾着弾に怯え、逃げ惑うオーガどもを各自フリーで撃破。

囲まれないよう注意し、少しでも負傷したら、すぐ魔導昇降機まで退避!


……というもの。


つまり、オーガどもを自分の思うがまま、

容赦なく存分にぶちのめして来い、って事。


当然、ローラン様、バスチアンさんは、ガンガン無双するだろう。

ふたりはさっさと、先に駆けて行ってしまったし。


多分、俺も問題なく戦えると思う。

決して油断はしないが、不安はない。


オーガは初見の魔物だが、パワーのみ突出した脳キン。

タフではあるが、スピードはオーク、ゴブリンに劣る。


数こそ5千体と結構な大群だが、

今回は魔王軍を倒したローラン様とバスチアンさんが、主力として真っ向から戦う。


従士として召喚した、

魔獣ケルベロスと魔獣グリフォンの加勢もあり、負ける気が全くしない。


鍛えぬいた身体能力に裏打ちされた剣技、覚醒した魔法の攻撃は勿論、

石化も可能な威圧のスキルがどれだけ通用するのか、試してもみたい。


だけど……ちょっち気になった。

フェルナンさんはどうだろう?って。


え?

他人の事なんか、構っている場合じゃないだろうって?


まあ、それは確かに正論。

おっしゃる通りなんだけど。


……ドラフト指名同期として出会い、研修で、いろいろ助け合い、

俺とフェルナンさんはここまで来た。


フェルナンさんは俺を頼ってくれたし、本契約締結という結果も出せた。

俺もそれを励みにして、シャルロットの支えもあり、同じく本契約を締結。

魔法剣士として目覚め、更に自分を成長させる事が出来た……そう思っている。


人生のパートナーとなったシャルロット同様、

フェルナンさんとも、これから一生、付き合いは続いて行くだろう。


情けは人の為ならずというしね。


なので、フェルナンさんが望むなら、俺はまたフォローしようと思ったのだ。


俺は笑顔で、緊張気味のフェルナンさんへ呼びかける。

息が少し荒く、冷や汗もかいている……

勘働きスキルでも、不安の波動が伝わって来る。


「フェルナンさん!」


「お、おう!」


「まず、深呼吸しましょう」


「深呼吸? ……わ、分かった」


す~は~、す~は~、す~は~、す~は~、


フェルナンさんは何度も息を吸って吐いてを繰り返す。

俺も呼吸法で、体内魔力を上げておく。


「落ち着いたところで、いつも通りに行きましょうか」


「え? い、いつも通りに?」


「はい、俺たちの原点です」


「俺たちの原点……」


「はい、思い出してください。研修で『散歩』をした際、フェルナンさんと初めてコンビを組み、魔物に挑む前、俺は言いました」


「むう……」


「怖いと思う前に、彼女が……愛するオレリアさんが、オークにむりやり乱暴される事を思い浮かべてください。貴方は怖いと言い、彼女を見捨てて平気で逃げますか? それとも、身体が震えて、そのまま見守り、オレリアさんをオークに、なすがままにされますか?……とね」


「むむむむ……」


「これから戦うオーガに対しても、同じですって。フェルナンさんが敵と対峙する時、そういう気構えで戦っていると俺は信じています」


俺がそう言うと、フェルナンさんは黙り込む。


「………………………………………………」


「俺も同じですよ。大好きなシャルロットを絶対に守りたいと思い、戦います」


「………………………………………………」


じっと考え込むフェルナンさんへ、


「大丈夫! いつものように俺が先行し、フォローしますよ」


「………………………………………………」


「戦況を確認しますと……5千体のオーガどもは相当強いですが、今回は、援護の風弾を散々ぶち込んで、大混乱、潰走状態です」


「………………………………………………」


「そこへ、俺が呼んだケルベロスとグリフォンを先に行かせ、地と空から更に攪乱かくらんしていますし、最強のローラン様、一騎当千のバスチアンさんも既に突撃していますから、万全。後発の俺達は、プレッシャーナッシングです」


と、励ませば、


「わ、分かった! 宜しく頼む!」


ようやくフェルナンさんは笑顔を見せたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


改めて見やれば……ケルベロスとグリフォンは、逃げるオーガどもを追撃。


ローラン様と、バスチアンさんも、思いっきり無双しているようだ。


「俺たちも、すぐ行きましょう。ふたりから、新人が真っ先に突撃しないでどうする! とかめっちゃ怒られますよ」


「ああ、そうだな。バスチアンさんは特にそう言いそうだ、ガンガン容赦なく、怒られる。俺はもう慣れたけど」


おお、フェルナンさんが軽口を叩いている。


それにフェルナンさんの身体が柔らかくほぐれているし、息も荒くない。


勘働きスキルで感じる心の波動も穏やかだ。


恐怖感はまだあるかもしれないが、

「腹をくくった」「開き直った」という表現が妥当だろう。


「じゃあ、出撃します。俺が先行しますから、ついて来てください」


「了解!」


「よっしゃあ!! エルヴェ・アルノー!! 行きま~~す!!」


俺は気合を入れてそう叫び、大地をダン!と蹴って、走り出したのである。

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