第15話「おい! 新人1号! 念の為にファイナルアンサーだ」

肉を打つ鈍い音が10発。


あっという間にオークどもは屠られ……

倒れ伏した10体の死骸の真ん中で、

ランニングシャツに短パン姿のバスチアンさんは、

「ふう」と軽く息を吐いた。


続いて、魔物の襲撃はあるかもしれないから油断は出来ない。


しかし俺の勘……気配察知に反応はなし。


もうしばらくは安全だろう。


だからとりあえず、バスチアンさんをいたわる事にした。

当然、偉そうに言うのは避ける。


「新人ごときが生意気なんだよ」と言われ、にらまれそうだけど、

それくらいは礼儀の範疇はんちゅう内でしょ。


「バスチアンさん! お疲れ様です!」


大きな声でいたわったら、バスチアンさんは振り返り、俺を見て感心したように言う。


「ほう! 新人1号! 良い声掛けだ。てめえ、全然びびってねえな」


「はい」


「目の前にオーク10体が居ても余裕のよっちゃんだな、全然平気か」


「はい」


「どうだ? 間近で見て、俺の戦い方は参考となったか?」


「はい! 大いに!」


「ふん! 大いにか? じゃあ次は、てめえが戦ってみるか?」


「はい! ぜひ!」


「ふふふ、ぜひ! と来たか! 実力はさておき、メンタルに関しては合格だな! そこそこ肝の据わった奴だ。さすがにマエストロの目は節穴ふしあなじゃねえ!」


おお!

何か、無口なはずのバスチアンさんがいつになく饒舌じょうぜつだ。

でも俺はペースを崩さず、余計な事も告げず、言葉を戻す。


「おほめにあずかり光栄です」


「ふん! ほめてねえ! マエストロの『相人眼』がさすがだと言っている!」


『相人眼』?


何だ、それ?

馬の調教師や手配師たる馬喰ばくろうが、良質な馬を見抜くスキルを相馬眼というらしいが、それの人間版って事か?


興味が湧いた俺は質問してみる。


「あのバスチアンさん、ローラン様の相人眼……それってスキルっすか?」


「なんでもねえ! よし、行くぞ! 新人1号! 俺について来いや!」


「はいっす!」


俺の返事を聞き、バスチアンさんは叫ぶ。

今度は約15m後方の馬車御者台でスタンバっている、セレスさんへの指示である。


「お~い! セレスよ! オークどもは全てぶっ倒した! だが油断せず、周囲に気を付けながら、俺と新人1号の後をついて来いや! ロッジまで一気に行くぞ!」


「了解!」


俺は振り返らないが、セレスさんが面白そうに微笑んでいるのを、はっきりと感じる。

クラン『シーニュ』の仮所属時代からそうだが、勘働きしていると、どんどんスキルの効果が上がるのを感じるのだ。


勘も鍛えられるって事なのか?


そう思っていると、ぴしり! と鞭が鳴った。


実際に馬を鞭うつわけではなく、音により馬へ発信を伝える合図だ。


がとごと、がとごと、がとごと……


バスチアンさんと俺の後方で、馬車はゆっくりと動き出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


がとごと、がとごと、がとごと……


ゆっくりと馬車は進む。

早く走らせないのは、駆けさせてバスチアンさんと俺の体力を削らないのと、

敵襲の際、対応の時間を稼ぐ為だ。


目指すロッジは、正門から少し奥へ入った場所らしい。


俺達が進む道は、ごつい石が敷き詰められた粗い石畳だ。

訓練場の中では、まだまともな『道』なのだろう。


しばらく進むと、またも俺の勘が『敵』をキャッチした。

バスチアンさんの足も止まったから、俺と同様に敵の存在を認識したようである。


そう、バスチアンさんは、盾役タンク戦闘役アタッカーに加え、

敵を察知するシーフ職も兼任しているのだ。


先ほどの言葉通り、バスチアンさんの指示が、俺へ対して飛ぶ。


「おい! 新人1号! 敵襲だ! てめえに任せるから処理してみろ!」


「了解です」


ここで普通の新人なら、敵の正体と数を尋ね、確認を取るだろう。

それが通常の作業だし、セオリーでもある。


しかし俺には必要ない。


勘働きで、索敵した俺には分かる。


今度の相手はゴブリン。

しかも5体の小群。


ゴブリン5体は、常人、新人冒険者ならヤバイ相手。

ランクD以上、ランクB未満の中堅なら苦戦。


ランクB以上のランカーなら、楽勝。

ランクA以上なら、ごみ、もしくは雑魚。


俺はランクFの新人冒険者だが、『シーニュ』で実戦経験は積んでいる。

ランクが上がらなかったのは、ミランダを始め、『シーニュ』の奴らに意地悪され、貢献度ポイントを、ギルドへ申請されなかった為だ。


自己評価だが、少なくともE以上はあるはず。


多分、バスチアンさんは俺の実力を試そうとしているのだろう。


「おい! 新人1号! 念の為にファイナルアンサーだ」


「はい」


「敵と戦うか、戦わないかは、てめえの自由。死にそうになったら助けてやる!

……さあ、どうする?」


「はい! 当然、戦います」


俺はきっぱり答えると、剣を抜き、ずいっと一歩、踏み出したのである。

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