第16話「ゴブリンなど、全く問題にしないのだ」

「敵と戦うか、戦わないかは、てめえの自由。死にそうになったら助けてやる!

……さあ、どうする?」


「はい! 当然、戦います」


バスチアンさんから聞かれた俺はきっぱり答えると、剣を抜き、ずいっと一歩、踏み出した。


改めて勘働きをする。

俺の勘働きは何種類もある。


おおまかにいえば、まずは突如、インスピレーションのようにひらめくもの。

よくいう「嫌な予感がする」という予知的なものだ。

ヤバイ場所を回避し、難を逃れるという事で役に立つ。


次に精神を集中し、正体、素性などの情報を感じるものとに分かれるかな。

これも相当役に立つ。

勝てる敵なら、相まみえ、敵わない相手なら、三十六計逃げるに如かずで、

これまた難を逃れる。


今回敵たるゴブリン5体を察知したのは前者、認識したのは後者である。


ちなみに、戦う際、次に相手が何をするのか、

事前に動きを読み切るのは後者だと思う。

まあ、勘だけでなく、身体の動き、予備動作を見極め、

相手の行動を予測する事も多い。


例外はいろいろあるから、あれこれ考え、分類してもきりがなく、仕方がないが。


ケースバイケース、臨機応変で柔軟に対応して行こう。

勘以外、新たな能力やスキルが増えるかもしれないから楽しみだ。


レベルアップ、ビルドアップしたあかつきには、

兄貴もそうだが、俺を罵倒リリースしたミランダへは特に、

ざまあああ!!して、めいっぱい思い知らせてやりたいぜ!


さてさて!

戦う決意をし、俺は改めてゴブリンへの索敵を行う事にした。

位置情報を把握する為だ。


まずは気持ちを落ち着ける。

精神を集中する。


索敵の能力が実感出来る。


感知したゴブリン5体がこちらへ接近するのがはっきりと分かる。

奴らの距離は、俺達が居る場所から約200m余り。

まだ余裕がある。


俺は更に前へ出る。

バスチアンさんの立ち位置を超えて更に前へ。


おこがましいが、俺がグランシャリオの、

盾役タンクになったような見え方だ。


念の為、ここで俺の装備を教えておこう。


武器は鋼鉄の剣に、こん棒。


革鎧に革兜、鋼鉄製の手甲、革製のズボンに革製のブーツ。


革鎧の肩、ひじには、それぞれ軽くて丈夫な鋼鉄製のあてもの。

ブーツの先端にも鋼鉄片をつけて強化している。


各箇所の鋼鉄カスタムは俺の身を守るだけでなく、

打撃、蹴り、格闘攻撃の際、有効な武器になると計算しての事だ。


この1週間、研修に備え、自主トレーニングの傍ら、買い物をしながら……

愛用のノーマル革鎧も結構な金をかけ、武具防具屋で特別にカスタムしたのである。


だから宿代を払い、チェックアウトしたら残金はほとんどない。


研修中の日当は、グランシャリオから支払われるらしい。


だが、この研修をクリアし、肝心の本契約を締結しないと、俺の未来は真っ暗。


今回、グランシャリオに第一位指名されたチャンスは、

石にかじりついても、絶対に逃さないと決めているのだ。


そうこうしているうちに、俺達の視界にゴブリン5体が現れた。


俺達を見て、吠え叫んでいる。

威嚇しているつもりなのだろう。


そんなゴブリンどもを見て、俺は決めた。


いつもの俺の戦い方に、先ほどバスチアンさんがオーク10体を倒した戦法を取り入れようと。


ふう!

と息を吐いた俺は、ゴブリン5体へ向かい、猛ダッシュをかけたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


威嚇していたゴブリンは、俺が猛ダッシュで近づいて来たのにびっくり。

まさか、餌扱いの人間が、単身で来るとは思わなかったのだろう。


が~! ぎゃ~! ぐえ~! とか悲鳴をあげ、無駄に手を振り回してパニくっていた。


そんなゴブリンどもが、俺を『敵』と認識し、態勢を整えるまで、

わずかなタイムラグがある。


そのタイムラグにつけこむ。


いわゆる、先手必勝&虚をつくという戦法だ。


そして俺には必殺のスキル『勘働き』がある!


ゴブリンどもは身構える余裕もなく、頭を真っ白にし、俺へ向かって来た。

元々そこまでの知能もない魔物だが、連携も全くとれていない。


ここで俺はフェイントをかけた。

ぎりぎりまでど真ん中へ突っ込むと見せかけ、右端のゴブリンを斬り捨てたのだ。


勘働きのお陰で、ゴブリンどもがどう動くか、大体予想出来る。


斬り捨てたと同時に、右から2番目のゴブリンを、

鋼鉄片付きのブーツで思い切り蹴とばした。


蹴られたゴブリンは呆気なく、吹っ飛び、ごろごろ転がって動かなくなる。


続いて今度こそ真ん中へと見せかけ、左端のゴブリンへ回り込み、左腕でパンチ。

鋼鉄製の手甲を受けたゴブリンの頭が粉砕された。


仲間を次々と倒され、大混乱のゴブリンども。

残りは2体。


バスチアンさんが倒したオークに比べれば、ゴブリンは全然弱い。

速度こそ勝るが、体格パワーは全然劣る。

ゴブリンの牙と爪、そして数の力で常人には恐ろしい存在だが、

俺にとっては戦いなれている雑魚に過ぎない。


バスチアンさん同様に、蝶のように舞い、蜂のように刺す。

ゴブリンなど、全く問題にしないのだ。


俺はあたふたする左から2番目のゴブリンを肩口から斬り捨て、

最後に真ん中のゴブリンへ、アッパーカットを喰らわせた。


手甲のアッパーカットをもろに喰らったゴブリンは、

顎を砕かれ、あっさりと吹っ飛び、即死したのである。

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