第14話「いきなり全て真似する事は不可能だが、部分的に取り入れて行こうと思う」
バスチアンさんは、すたすたすたと正門まで歩き、何かを取り出し、かざした。
すると、ごごごごごごごご………
重い音が鳴り響き、巨大な正門が開いて行った。
正門が開いたのは何か魔法の仕掛けであろう。
バスチアンさんが、かざしたのは開閉装置に違いない。
ここでセレスさんが声を張り上げる。
「バスチアンが出現する敵を蹴散らし、馬車の行く手を守ってくれるわ! さあ! 新人のみんなは危険だから馬車に乗って訓練場へ入るわよ! 急いでっ!」
「は、はいっ!」
「す、すぐ乗りますっ!」
シャルロットさん、フェルナンさんは馬車へ乗り込んだが、
俺は手を挙げ、セレスさんへ言う。
結構な大声で。
「セレスさん! 俺、馬車に乗らずこのままで行くっす! 後学の為に
「え? どうして? エルヴェ君!」
と御者台で驚くセレスさん。
俺は更に言う。
声のトーンを落とさずに。
「なので! 申し訳ありませんが! 許可してくださいっす!」
俺の大声はバスチアンさんにも聞こえたようだ。
振り向かず、俺へ背を向けたまま、バスチアンさんは叫ぶ。
「おい、新人1号!」
ええっと、名前で呼ばれず新人1号って……ドラフト指名1位という事か?
まあ、良いや。
俺は素直に、元気よく返事をする。
「はいっ!」
「てめえが俺について来るのは勝手だが、てめえの身はてめえで守れ! 万が一何かあっても責任は取らねえぞ」
「はい! 当然っす」
「死んでも自己責任だ」
「はいっす!」
「よっし! 良い返事と覚悟だ! ついて来いっ!」
「うす! ついて行きまっす!」
俺の返事と同時に、バスチアンさんは猛ダッシュした。
凄まじい速度で駆けて行く。
当然俺も猛ダッシュ!
バスチアンさんを追いかける。
と、そこへ!
現れたのはオーク10体である。
どうやら正門に馬車が近づいたのを察知し、待ち伏せしていたらしい。
補足しよう。
オークは猪を思い切り醜く、凶悪にしたような風貌の
人間を捕食する恐ろしい敵だ。
そして『女性の敵』と忌み嫌われるいまわしい性癖を持つ、
とんでもない魔物でもある。
ちなみにどういう性癖なのかは、たやすく想像出来るだろう。
この世界では面白い対比がある。
強さの対比だ。
ゴブリンという魔物が居る。
小さな猿のような魔物で、やはり群れで人間を襲い、喰い殺す。
このゴブリンは1体が、常人の1,5倍の強さだと言われている。
そして出現したオークの強さは1体がゴブリンの倍、
すなわち常人の3倍の強さだと言われている。
つまりオークが10体……常人の30人分という単純計算。
常識的に考えれば、ひとり対30人の戦いなど、絶望的な状況である。
しかし!
バスチアンさんは全く怖れずにオーク10体の中へ、突っ込んで行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先述した理論によれば、単純に考えて、ひとり対30人。
一見すれば無謀ともいえる戦い。
加えて、バスチアンさんは兜、鎧、盾などの装備品なしで、
着ているのは、何と、ランニングシャツに短パン。
剣や斧などの武器もなし。
唯一、手に鋼鉄製のカイザーナックルを装備しているくらい。
でも俺は全く心配していない。
まあ世の中に絶対こそないから、強者たるバスチアンさんが、
99%負けるはずはないと確信に近い思いで見ていた。
そんな心配より、一騎当千といわれるランクAの超一流戦士。
加えて王国ナンバーワンクラン、『グランシャリオ』のメンバー。
そんなバスチアンさんの戦いを超が付く間近で見られる。
絶好のチャンスを俺が逃すはずはない。
馬車へ乗り込むなど出来るはずがない。
さてさて!
俺はバスチアンさんの後方3mほどにつき、
戦いをじっと見守った。
この状況でも決して油断はしない。
戦闘態勢をとり続ける。
なぜならバスチアンさんをかいくぐり、オークが俺に向かって来る事もありえるからだ。
そして、俺が注目したのは、双方の動き。
オークの動きの癖の見極めと、
そのオークの動きに、バスチアンさんがどう対処するのか?
ここで活躍するのが俺の『勘』相手の動きの先読み。
そして、該当者が見極められる動体視力だ。
そもそも何度か戦って分かっていたが、オークは基本力任せ。
隙が生まれやすい大味な攻撃を行う。
対してバスチアンさんもそれを踏まえ、オークの攻撃を楽々と見切って躱し、
相手のパワーを利用するカウンター攻撃で対応する。
やはりランクA。
バスチアンさんの身体能力は凄すぎる。
とんでもないスピードだ。
俺の動体視力でなんとか……常人では絶対にとらえられない。
動きも「きれきれっ」というのがぴったり来る。
それもオークの死角から急所を攻めるような形だから、全く隙がない。
真逆といっていいくらい、対照的だった。
うん!
大いに参考となった。
俺とバスチアンさんではタイプは違うが、戦い方の良い参考例となるには間違いない。
いきなり全て真似する事は不可能だが、部分的に取り入れて行こうと思う。
加えて、パワーもバスチアンさんの方が圧倒的。
一撃必殺という言葉があるが、まさにそれ。
また蝶のように舞い、蜂のように刺すとも言うのか……
どご! どご! どご! どご! どご!
どご! どご! どご! どご! どご!
肉を打つ鈍い音が10発。
あっという間にオークどもは屠られ……
倒れ伏した10体の死骸の真ん中で、
ランニングシャツに短パン姿のバスチアンさんは、
「ふう」と軽く息を吐いたのである。
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