第13話「よし! 現状ではこれで万全だ」

王都の正門を出て……

南への街道を走る事、休憩をはさみ、約4時間。


……ついに馬車は、研修場所へ到着した。


愛用の魔導海中時計を見れば時間は午前11時過ぎ。


セレスさんが降車の指示を出す。


「さあ、全員、外で打合せをするわ。一旦馬車を降りてね」


という事で、乗り込んだ順番に降車する。


まずは、セレスさんが、次に俺、続いてフェルナンさん。

最後にシャルロットさんだ。


馬車を降りて見やれば、

研修場所は、フェルナンさんが聞いて来た通り、

王国の演習場、もしくは訓練場のようだ。

それもちまたでは知られていない、秘密の場所らしい。


俺の目の前には、鋼鉄製の巨大な正門がある。

いかにも頑丈そうな分厚い鋼鉄製の正門だ。


正門は固く閉ざされていた。

その正門の左右は高さ15mはあろうかと思われる石壁がのびている。


時たま、人間ではない咆哮や悲鳴が聞こえて来る。


この訓練場に近づくにつれ、ビンビン感じていたが、

正門の中、石壁の内側からは、物騒、ヤバイという気配がはっきりと伝わって来る。


フェルナンさんから聞いている通り、正門の向こうには、

人間を襲うとんでもない数の魔物や獣が混在しているだろう。


既述したが俺は『勘』が異様に鋭い。


人並外れたというか、抜きんでていると言い切れる。

相手の動きを予感という形で先読みして攻撃したり、かわしたりする事が可能だ。


また、予感というだけでなく、気配を読み、存在を感知するのも得意。


加えてくそったれクラン『シーニュ』のクランリーダー、

ミランダ・ベルグニウーが見込んだそこそこの身体能力もあった。

身軽でジャンプ力はあるし、走るのも結構速い。

視力も聴力も、更には嗅覚も相当なものだ。


それゆえ『シーニュ』の仮所属時代には、

捨て駒の盾役をやらされたり、迷宮にひとり置き去りにされても、

敵の存在や動きを事前に把握し、命を落とさずに済んだと確信している。


そう!

この『勘』の力こそ、誰にも明かしてはいない、俺の切り札的スキルなのだ。

簡単には教えられないぜ。


という事で、俺は訓練場の正門をまじまじと見つめていたが、

同期のふたりは正門をチラ見した後、顔を伏せてしまっていた。


ふたりの身体がぶるぶる震えているので、どうやら怯えているらしい。


おいおい、大丈夫かよ、これで良く冒険者やるって決めたなあ。

苦笑というか、呆れる俺。

同情の余地はあるが、覚悟が足りなさすぎる。


御者台から「すたっ」と降りたスキンヘッドのバスチアンさんが歩いて来る。

スキのない身のこなしはさすが。


歩いて来たバスチアンさんは、先に俺達の前に立っていたセレスさんの横へ並ぶ。


じろりと俺達新人冒険者3人をにらみつけ、バスチアンさんは声を張り上げる。


「ごらあ! ひよっこども! てめえらはマエストロ、ローラン様が素質を見込んだドラフト指名新人だ。その期待にしっかりとこたえて貰うぜ!」


バスチアンさんはふうと軽く息を吐き、


「見ろ! 俺達の目の前にあるのは、王国のヴィクトワール訓練場だ。新人には過酷な場所だ! 魔物がわんさか居る! てめえらはな、この訓練場で10日間過ごす事になるんだよ! 俺の話は以上!」


そう、はっきりと言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


バスチアンさんは無口だという認識が俺にはある。

必要最低限の話しかしないと。


この説明を聞き、まあ納得だ。


今回は新人へのフォローも必要最低限らしいから、

推して知るべしといったところだ。


それゆえ、バスチアンさんが告げた今のコメントを、

忘れないよう、全て記憶しておこう。

後でメモもとっておけば万全でもある。


まず俺達新人の素質をローラン様が見込んだ。


新人の俺達に期待している。


研修をするのは、王国のヴィクトワール訓練場で新人には過酷な場所だ。


魔物がわんさか居る! 

俺達新人は、この訓練場で10日間を過ごす。


よし!

記憶したぞ!


「よし! ここからはセレスが話す」


バスチアンさんが、説明役をバトンタッチし、セレスさんは手を挙げる。

自分が話すという意思表示だ。


セレスさんはにっこり笑い言う。


「回復に関してはさっき馬車の中で話したわね。食事は1日1食のみ支給するわ。食料の不足分は自前もしくは自給自足でOK! 宿泊は魔物除け付きのロッジと野宿。どっちでも好きな方を選んで。混在してもOK。当然野宿の方が評価ポイントが高いわ」


結構な早口でしゃべったセレスさんは、バスチアンさんと同じくふうと息を吐き、


「ギブアップの際は、遠慮せずバスチアンと私セレスへ申し出て。その際は、残りの日数をロッジに引きこもって過ごし、10日間後、全員一緒に王都へ戻って貰う。ギブアップの場合は、当然不合格になって、支給するのは研修期間の日当のみでリリースされるわ。本契約は締結不可よ」


……俺は先ほどと同じように記憶を呼び覚まし、改めて深く心へ刻み込む。


セレスさんいはく回復は、応急手当レベル。

体力回復はノーマル薬草1回。

ダメージは減点対象。


更にたった今、食事は1日1食のみ支給以下という、セレスさんが話した事を、

俺は暗唱し、念入りに繰り返した。


後で落ち着いたら、バスチアンさんの話ともども、

念の為にメモをとっておく事にする。


まだまだ収集すべき情報はあるだろうが……


よし!

現状ではこれで万全だ。


ここでバスチアンさんが言う。


「さあ、中へ入るぞ。セレス、御者やってくれや。俺は行く手に立ちふさがる、邪魔ものを排除するからよ」


「了解、任せて」


対して、セレスはにっこり笑い、馬車へ歩いて行き、御者台へ座った。


一方バスチアンさんは、すたすたすたと正門まで歩き、何かを取り出し、かざした。


すると、ごごごごごごごご………


重い音が鳴り響き、巨大な正門が開いて行ったのである。

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