第12話「ふ~ん。エルヴェさんは、達観してるのね」
馬車が止まり……
扉を開け、乗り込んで来たのは、
「は~い。皆さん、おはようございま~す!」
グランシャリオのメンバーで紅一点。
独身男子冒険者憧れの的、美貌の
創世神教会元女性司祭の、セレスさんことセレスティーヌ・エモニエさんだった。
はっきり言って、全然想定外だった。
俺のピックアップが一番最後だと思っていたのに。
御者台に居るバスチアンさんからは何の説明もないし。
セレスさんはさっさと馬車に乗り込むと俺の隣に座り、
「私も、皆さんの研修に同行しますね」
と嬉しい事を言い、素敵な笑顔を振りまいた。
おお!
やはり綺麗なお姉様セレスさんも、俺達新人の研修へ、一緒に行ってくれるのか。
ラッキー!
セレスさんの言葉を聞き、改めて実感する。
お客様様扱いで、甘ったれかつネガティブな同期に、若干げんなりしていたので、
俺は少しやる気が出た。
そんな俺よりも喜んだのは、ドラフト2位指名ストロベリーブロンドの魔法使い少女シャルロット・ブランシュさんだ。
「よ、良かったああ! 同性のセレスさんが一緒でえ! 私、同行するのが男ばっかりで、すっごく不安だったんですよお!」
と、能天気に喜んでいた。
一方、ドラフト第3位、元騎士見習いで、現在は戦士のフェルナン・バシュレさんは、ほんのちょっぴり嬉しいという雰囲気のレベル。
シャルロットさんよりは現実を見ているようだ。
「はあ」と息を吐き、セレスさんへ言う。
「あの、セレスさん」
「は~い、何? フェルナンさん」
「あの、俺達……これから王都郊外の訓練場へ向かうんですよね?」
「ええ、そうよ」
「セレスさん、それとバスチアンさんも。俺達のフォローしてくれるんですよね? そういう認識で構いませんよね?」
「ええ、フェルナンさん、当然フォローするわよ」
「ありがとうございます、セレスさん。本当に助かります」
お礼を言うフェルナンさんだが、セレスさんは悪戯っぽく笑う。
「うふふ、但し、必要最低限ね」
「え?」
というフェルナンさん。
やっぱり?って顔に書いてある。
さすがに口には出さないが、
3年前ドラフト1位指名された人から聞いた通りかよ……って感じだ。
「ええっと、必要最低限ですか?」
改めてセレスさんへ聞き直したフェルナンさん。
対して、
「うん、私は回復役。だから具体的に言えばフォローは怪我したら、その都度応急手当レベル。体力回復も1日ノーマル薬草1回分のみ」
あはは、笑っちゃうよ。
本当に必要最低限のフォローだ。
ちなみにノーマル薬草だとHPはほんのわずかしか回復しない。
「えええ!!??」
シビアな答えを聞き、のけぞるフェルナンさん。
ええっと、ちょっとオーバーアクションだろ。
しかしセレスさんは、容赦なくとどめを刺す。
「だから! みんな、出来るだけ怪我は避けて! 当然体力も温存して! 研修終了後にダメージが大きかったら厳しく減点対象だからね! よろしくう!」
「そんなあ……」
がっかりするフェルナンさんの傍らで、シャルロットさんはそれ以上に、
どよ~んとしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ガトゴト音を立てて走る馬車の車内。
再び沈黙が包んでいた。
同期のふたり、シャルロットさんとフェルナンさんは、陰キャの如く、
真っ暗だった。
一方、俺は覚悟していたのと、クラン『シーニュ』で「鍛えられていた」から、
それほど悲観的ではない。
実は迷宮の奥で、ひとり置き去りにされた事もあったし。
まあ、『シーニュ』のメンバーはぶっとばしてやりたいほど憎たらしいが、
結果良しって感じかな。
俺が唯一心配なのが協調性。
このヘタレな同期ふたりを庇いながら戦うのは相当に高難度だ。
だが、もしも見捨てたように判断されたら、俺の評価も下がるに違いない。
そんな空気を察してか、セレスさんがアドバイス。
「新人同士、協力し合って、事にあたるのが賢明ね。ひとりよりふたり、ふたりより三人で対応した方がピンチを切り抜けられるわ」
個人プレーではなく、連携力を重んじる。
グランシャリオでクランを組むメンバーとなるならば、常識的な事だ。
セレスさんが釘を刺すのは、そこが評価ポイントにつながるから。
俺はそう受け止めた。
そう考えていると、言葉を発さない俺へ、セレスさんが話しかけて来る。
「エルヴェさんは、先ほどからコメントがないけど、どう?」
「はあ、まあなるようにしかならないかと……」
落ち着き払った俺を見て、セレスさんは微笑む。
「ふ~ん。エルヴェさんは、達観してるのね」
「ええ、赴く訓練場は物騒な原野か、ヤバイ迷宮だと思えば、仮所属の時と変わりませんし」
「へえ」
「まあ、俺は持てる技を駆使して、全力を尽くすのみです」
そんな会話をしながら、馬車は王都の正門を出て……
南への街道を走る事、休憩をはさみ、約4時間。
……ついに馬車は、研修場所へ到着したのである。
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