第11話「研修では連携して、助け合おうと思ったが、これは考え直さないといけないかも」

「ああ、エルヴェ君の言う通りだ。そして俺はグランシャリオから3年前、第1位指名された人から、研修の内容を聞きだしたんだよ」


フェルナンさんは、まるで絞り出すように、言葉を吐き出した。


さらにフェルナンさんは言う。


「エルヴェ君は、騎士爵家の子息だし、我がスフェール王国の騎士隊、王国軍が実戦訓練をする演習場があるのを知っているだろう?」


「はい、王都郊外にいくつかあると聞いた事がありますね」


俺が言葉を返すと、フェルナンさんも落ち着いたのか饒舌になって来た。


「うむ、その中であまり存在を知られておらず、普段は滅多に使われない演習場があるんだ」


「普段は滅多に使われない演習場……ですか?」


「ああ、何故ならそこは、サバイバルがテーマという、あまりにも過酷で、命を失うリスクが高いといわれる演習場だからさ」


「へえ……サバイバルがテーマ。命を失うリスクが高い……そうなんですか」


「おいおい、何だ? 驚かないのか?」


「ええ、まあ……」


「ははは、エルヴェ君は肝が据わってる。それでだな。マエストロ、ローラン様は魔王を倒した偉大なる元勇者で爵位はないが、公爵扱いだ」


「ですね」


「だからローラン様は、王家や貴族社会にとてつもないツテがある。彼のツテで、その自然にみちあふれた演習場は、使用予定がない場合、ローラン様が自由に借りられるらしい」


「自然にみちあふれた演習場……ですか?」


「ああ、深い森林、砂漠、荒れ地、渓谷、川、沼等々、ありとあらゆる地形があるそうだ。サバイバルがテーマってだけあって、狼、熊などの肉食獣は勿論、ゴブリン、オークなど、人喰いの魔物も、うようよいるらしいぜ」


「成る程……話が見えて来ましたね」


「ああ、俺達の研修は、その演習場で行われる。10日間演習場で寝泊まりし、まず生きて、無事に王都へ戻るのが第一目標」


「そりゃ、死ぬのはまずいですね」


「ああ、更にただ怪我無く生きて戻るのではなく、10日間過ごした内容も吟味、精査され、実力、スキルは勿論、自主性、協調性、判断力、順応力なども、評価される」


「その評価が、入隊の合否につながるのですね?」


「ああ、そうだ。ランクS、ランクAで構成された、一騎当千のグランシャリオのメンバーは皆、レジェンドクラス、対して俺達はしょせんルーキーで入隊しても当分は足手まとい」


「まあ、そうですね」


「俺達ルーキーは、せいぜん荷物持ちとか雑用だろうが、その足手まといのレベルにも達していないと判断されたら、本契約を締結する事は出来ないって考えさ」


「成る程」


「演習場で簡単な指示を受けた後は、新人が自分自身で考えて行動する。責任上つかず離れずメンバーさんが見守るが、本当にやばくなるまでフォローしないそうだ」


「本当にやばくなるまでフォローしない……良く言えば新人の自主性を重んじ、悪く言えば放置って事ですね」


「まあな」


フェルナンさんは俺の指摘を聞き、苦笑しながら同意したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ガトゴト音を立てて走る馬車。


俺とフェルナンさんの話が終わり、車内を沈黙が包んでいた。


その沈黙を破ったのは、ドラフト2位指名ストロベリーブロンドの魔法使い少女シャルロット・ブランシュさん。


「ちょっと! エルヴェ君! あなた、何故そんなに落ち着いていられるの!?」


おっと。

先日は俺をさん付けしていたふたりが、今日は君付け。

俺があいさつの際に年齢を告げたから、年下認定し、君付けに変えたのか……


そんな事を考えながら、俺は言う。


「いや~、地獄の訓練の噂は聞いていましたし、やばそうだって、覚悟はしていましたよ。そもそも冒険者なんて、命がけの仕事じゃないっすか」


「はあ!?」


シャルロットさんが理解出来ないという顔をしたので、俺は逆に質問する事にした。


「あの、おふたりは仮所属の間に、実戦経験を積みませんでしたか?」


対してシャルロットさんは、


「魔法使いの私は後方配置の攻撃役アタッカー支援役バファーよ。それも仮所属中はお客様扱いだから、実戦経験なんてほんの数回だけだもの!」


続いて、フェルナンさんは、


「俺もシャルロットさんと同じ、安全な後方配置のお客様扱いだった。大体がほぼ戦闘の大勢が決まってから、最後に、とどめを刺させて貰ったくらいだから」


ふたりのコメントを聞き、俺は思わず、さっきのシャルロットさんと同じく、

「はあ!?」と言いそうになってしまった。


安全な後方配置のお客様扱いって……俺と全然違うじゃないか!


クラン『シーニュ』に仮所属した俺は、荷物持ちで散々こきつかわれ、

捨て駒まがいの盾役、ヤバイ宝箱の罠の実験台にもされたんだぞ!


まあ、そんな事を今更愚痴っても仕方がない。

このふたりは模擬訓練はしたかもしれないが、実戦洗経験はあまりないと判明した。


う~ん。

研修では連携して、助け合おうと思ったが、これは考え直さないといけないかも。


それから、しばし走ったところで馬車が止まり……


扉を開け、乗り込んで来たのは、


「は~い。皆さん、おはようございま~す!」


グランシャリオのメンバーで紅一点。

独身男子冒険者憧れの的、美貌の回復役ヒーラー

創世神教会元女性司祭のセレスティーヌ・エモニエさんだったのである。

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